のぞみの台車亀裂の件の続報とスペシャリスト育成と効率化の奥に潜むリスク
何が驚いたかって、溶接不備と剛性不足のダブルコンボが事実だったことである。
その詳細については「のぞみの台車亀裂の件について、もうちょっとだけ詳しく調べてみた」を見てほしい。
のぞみの台車に使われる鋼板は7mm以上と定められ、通常はそれを用いれば亀裂が発生しても次の検査までに間に合う予定だった。
だが亀裂が発生した部分の鋼板は4.7mm~5.2mmしかないという。
剛性低下度合いで言えば30%を余裕で越える。
計算はしていないが亀裂発生から3000km以内での破断は十分ありえる範囲内である。
結局、筆者の予測通りの結果となってしまったということだ。
神戸新聞ではかなり詳しい事情が書かれていたが、溶接時に台車部分の部品を接合する際に「きちんとハマらなくて削った」という。
そんなのありえていいのか?
車のDIYと同じ感覚で台車を製造したというが、危険性認識に乏しすぎて怖すぎる話である。
つまりようは「製造時に精度がきちんと出ておらず、そのままの形状では装着できないような杜撰な代物を強引に作り起こした」ということで、鋼板の耐久性がどうとかこうとかそんな次元の話ではなかった。
今後さらなる原因究明がなされるとは思うが、この件で真っ先に「ありえない」と否定した新日鉄住金は同じく台車を製造していた影響で株価にも影響して本当に可哀想である。
元々、この「剛性不足」と「溶接不備」による問題発生のリスクを鉄道研究所と共にずっと検証し続けていたのは他でもない新日鉄住金であり、JR東海の台車やJR東日本の台車は全て製造している。
今回の件では当初より「剛性不足」が疑われたが、大半の人間は「素材自体がJIS規格などを満たしていない」という予測だった。
それがまさかの「JIS規格以前に製造時に定められた強度を満たさない形に改悪した」ことが事故原因だったというのは、重大インシデントどころの騒ぎではない。
ここで問題なのがJR西の検査についてである。
一部では「厚さ半分近くになれば目視や打音検査で気づくのではないか」ということなのだが、これについては擁護というか近年のこの手の現場で発生しているジレンマのようなものがあるので語ってみたい。
まず1つ、近年問題となっているのが「人材不足」だが、一方で危惧されているのが「過剰なまでの効率化による見落とし」と「人材の能力強化不足」である。
それまで、現場にいる人材とは「ただ整備できるだけではない」というのが当たり前だった。
整備するものは金属に精通し、様々な方向性から状況を認識できるのが当たり前。
所謂「複合的な能力を保持するスペシャリスト」が基本。
彼らは余った時間を利用しては本来マニュアルには記載されないような部分も丁寧に見るため、こういった重大インシデントは「未然に防ぐことが可能」だった。
自主点検とも言うべきものである。
航空機のように「なんでもかんでも全てをマニュアル化する」という文化は残念ながら鉄道には根付いていない。
だからこそそういうのが必要だというのが筆者の主張な一方「どこにそんな金と人材がある」と企業側は言い切っている。
しかし、「コストダウンによる効率化」などを求められる現在の時代においては「製造時にきちんと作っているから」とその手の責任は全て製造責任者に丸投げ。
いざとなったら「瑕疵担保責任があるから」とかいってそういうのを見なくなった。
人材が足りない分をすべて「性善説」で覆い隠して状況を見定めることがなくなる。
そうなるとこういう重大事故が起こる。
中央道の笹子トンネルなんかがいい例である。
検査自体は行ったが、検査した代物について「通常通りの作業を行ったが問題なかった」と表面上だけのマニュアル記載の部分だけ確認して終わるとこうなる。
そこに「性悪説」というものが存在しない。
いや、見定める力をつけることを企業がしない。
能力として、車両の検査を行う整備工場では基本的にちゃんとしたものをもった人間が社員として入ってくる。
だが彼らにそういう「教育」を施さなければならない所、「そっちはメーカーに任せる」という形になっていることが問題なわけだ。
ヒューマンエラーは必ず起こる。
だから整備する側もその問題について「確認できるだけの能力」を保持していなければだめだ。
新幹線については10年前ぐらいからその危険性が囁かれていた。
実のところそれは「JR西」「JR東」の話であって、「JR東海」ではない。
なぜなら「JR東海」は唯一そこについて特に力を入れているからだ。
基本的に「東海道新幹線」だけで収益が成り立つJR東海にとってはそこがもっとも重要な部分。
そのため、JR東海においてはそういった部分はとても熱心だ。
どうしてそういい切れるのか?
それは「台車の検証」を共同で行っているのは他でもないJR東海だからである。
そこには当然整備関係者も参加しており、常に「リスクがそこにあること」を学ばされているのだ。
しかもそういった教育は「運転手」や「車掌」においても施されている。
つまり実際に運用を行う者たちにも「リスクが潜む」ことを教育されている。
だからこそ今回の対応に差が出た。
「とりあえず指令室に伝えればいい」という状況はいかにも「現代日本でよくある効率化による失敗例」そのもの。
実際にはそれでは駄目なのは、特に震災時なんかに顕著に差がでている。
津波がくるにあたって即避難した影響で「鉄道と路線が死んだだけで人が死なずに済んだ」のはJR東日本の乗員が即時判断できたため。
逆に判断が遅れて上がどうたら言ってるとこの間の「雪の中に長時間閉じ込められる」なんてことが起こる。
どっちも同じJR東日本だが、支社が違うとこうも差が出てくるわけだ。
だからといってJR西が悪いかというとそうではない。
この問題はもう日本という国全体の問題だからだ。
私は常日頃「性悪説」を主張している。
特にものづくりの世界において「性悪説」ほど有用なものはない。
ようは航空機の整備と同じ考え方である。
「ねじ1本の強度すら疑う」というのが航空機における考え方。
「設計的にいくつもフェイルセーフがあるから大丈夫」は通じない。
実際に航空機はねじ1本が墜落に繋がる世界である。
でもコンサルタント(笑)なんかはそういうのを軽視するから、「コストダウンのためにコンサルタントを入れます」とかやっていくとどんどん泥沼にハマっていくわけ。
そして崩壊していき、事件が起こる。
ここ最近の日産の問題とかと今回ののぞみの台車は殆ど同じ構図なわけである。
だって彼らは「そういうリスク」なんて考えないもの。
そういうことが考えることができる「コンサルタント(笑)」なんて日本にはいないもの。
日本人にはいるが、それらは国外で活躍しているもの。
でもJR西日本は私鉄との戦いで疲弊して「コンサルタント」を入れてしまった。
それもコンサルタントを入れた理由は「例の大事故」の影響である。
過密ダイヤをどうにかしたいがかといって利益も出したい、となるとそういう人間がほしくなるんだろう。
実際にはどうなったかって「後一歩で例の大事故どころじゃない」状況になったわけだが。
彼らは「人命を軽視したわけではない」と主張している。
そうなんだろう。
だが、それは「性善説に立った上での見落としだ」
今回の件でJR西に学んでほしいのは「性悪説に立った上での鉄道運用」である。
疑うのは「客」じゃない。
ましてや「運転手や車掌」でもない。
「レール、車両、施設、機器」だ。
それを疑わない状況なら再び事故が起こる。
メーカーに責任を丸投げするのではなく「メーカーにものをいう企業」に戻ってほしい。
かつてそれができていたが、それができなくなっていると嘆く人たちがいるのだ。