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六 自己紹介

ここはイラスト載せる予定ですが、まだできてないので、後追いで入れます。。

まずは本文アップします。

→2018.02.01 表紙イラストをUpしました。

挿絵(By みてみん)


六 自己紹介



@亀島高校/風紀委員会室


「あ~らよっと!」

 いつものように、私にとっては小学生向けの下らない授業を夕方までこなし、ようやく自由を得たという開放的な気持ちを、襟首を持って思い切り投げ飛ばした拓馬の飛距離で表してみた。


 よし、調子よい!

「ふざけんな! それが足に障害ある人に対する態度かよ!」という拓馬の愚痴は一旦スルーして、私はマミルに話しかけた。


「さ、約束通り拓馬も連れてきたわよ。で、風紀委員とやらは、何をすればいいのよ?!」


 逆さになって本棚に立てかけられたオブジェ状の拓馬を背に、私はマミルに歩み寄る。拓馬が突入した本棚が棚の機能を一部失い、落下した本が床に散らばっていて歩き難い。


「リリスちゃん、来てくれると思ってたわ……でもね」

 組んだ両腕の上に相変わらずのどでかい胸を乗っけて、短いスカートから美しい美脚をこれでもかと晒して立つ。そんな彼女は、女の私でさえちょっとグラつく程の美貌を燦々と放っている。

 ……が、だ。目の合った人間全てに負のファーストインプレッションを叩き込めるようなこいつの性格がなければ、学校中の憧れになっただろうに。

 そのキャラは、完璧なまでの長所をすべて抹消できるだけの短所が同居する、まるで強酸と強アルカリの混合物のような奴だと実感する。


 今も人当たりを気にするそぶりもなく、こんな風にもはや変顔レベルの仏頂面を所構わずキメ込んでいるところを見ると、こいつの印象はファーストインプレッションですでに飽和状態にあるのだろう。


「リリスちゃん。風紀委員がどうこう言う前に、まずは拓馬君をぶつけて壊したそこの棚を直しましょうか?!」


 うーぷす――どうやら、仏頂面の原因は私にあったようだ。私は頭が良いから、それくらいの察しは今の会話だけで朝飯前につくのよ。まぁ、今回はお相子ってことにしといてやるわ。


「……さぁ、なんのことかしら」


 ここは、マミルが委員長を務める『風紀委員』の委員会室だ。しかし、部屋の入口には、『学長室』としか表示がなかったし、事実、マミルからは「学長室に来てね、きゃるん☆」と言われた。


 木目を基調とした高貴なインテリアで統一された古式の洋室。その様相から、ここが確かに学長室であろうことは想像に難くない。しかし、室内に堂々と掲げられた『風紀委員会』のおそまつな手書きプレートを見た途端、その考えが揺らいだ。


「ねぇ、なんで学長室なのよ」

「まぁね。風紀委員は政府の裏機関であって学校の公式委員会じゃないから、顧問の亀島学長がここを無理やり割って作ったらしいわ。さすがに一般生徒は来ないし。他の教師も横に裏部屋があるのは知らないわ。ちなみに学長は昨日から出張行ってるから不在よ」


 こいつがどこまで本気で言っているのかは不明だが、どうやら風紀委員の顧問が学長だと言っていたのは事実のようだ。


 まぁ、それはさておき。目下私の患苦たる事実は、先日の一件で知った『拓馬がダークマ総帥』だったという話。

 さすがの私も、彼に対してどう接したらよいのか、ダークマ様を取り戻すにはどうしたらよいのか、それとも、本当に取り戻すことができるのか――それについては相当悩んだ。

 悩んだ挙句、結局のところ何が正解か、それとも不正解なのか、その答えは分からなかった。


 でも、そんなときこそ何を選ぶべきかの問いに答えるのは簡単。テンプトアルの戦線では、そんな決断など溢れかえるほど強いられていたし。

 だから私には、次の一手を決めるためのメソッドがすでにあるのだ。


 そう――自分に忠実であれ。己を曲げることはない。


 だから私は、「俺はもう、お前にも、あんな奴らとも関係はない。もぅ俺に近づくな!」と教室の隅で駄々をこねる拓馬の首筋にタヒュンッと手刀を打ち込んで黙らせ、引きずってここまで来た。


 拓馬は、拓馬。やっぱりただのオタク野郎。

 そこには私の憧れ、総帥の片鱗はゼロ。だから、いまさらやり方は変えられない。それが、私の答え。


 こいつを徹底的に調教して、元の総帥を取り戻す。能力が戻れば、何かの拍子に記憶も戻るかもしれないし。そのときにどうなるかは……後で考えればいいや。


 そのためには、アルケミーエネルギーのないこの地球でも、能力を使えるようにしなければいけない。それにはマミルの力が必要だ。彼女の見せた、あの能力を引き出した何かを。

 あのとき、拓馬もわずかではあるがテレパスを発揮した。きっとそれは、マミルの影響だろう。


 何か方法がある。それを知りたい。

 だから私は、いや私たちは、彼女の勧誘に乗って風位委員としての一歩を踏み出すことにしたのだ。


「うわっ! なんだここ?!」

「あら、目が覚めたようね、拓馬。ここは風紀委員の拠点よ」

「目が覚めたじゃねぇよ、眠らせたのはお前だろっ! っていうか何でか全身痛ぇし」


「ああ……」私は苦笑いを浮かべ、拓馬を投げ飛ばして破壊した棚を指さした。


「あんたが寝ぼけてそこの棚に突っ込んだせいでしょうが。さっさと片づけなさいよ」

「はぁ?! ……そんな記憶ねぇし。とにかく、俺は教室に戻る!」


 拓馬が出口に向かって足を踏み出したとき、床に散らばった本で杖を滑らせ、彼は前のめりによろけた。そして咄嗟に掴んだそれに顔を埋め、倒れこんだ。

「いやん、拓馬君。大胆じゃない? そんなこと言って、やっぱり私がほしかったのね。いいわ、好きにして」


 突っ伏した拓馬の下にはマミルが横倒しになり、彼の手には豊満な胸が握られている。

「おわぁぁ! ――これは、偶然であって、そんなんじゃなくて!」


「こぉ~の、ど変態がぁ!!」

 私は彼の手を引き剥がすと、そのまま関節を決めて体を浮かせ、投げ飛ばした。そして、こんどは隣の棚にとどめを刺した。


「……ちょっとあんたら、委員会室を何だと思ってんのよ……これじゃ、学長帰ってきたら、大目玉よ」


 マミルを見ると、なぜだか胸の奥から不快感が顔を出した。私は彼女に少々の苛立ちを覚えて、プイっと視線を逸らす。

「私は、違うし……拓馬、あんたのせいなんだから、両方片づけなさいよね」


 そして、本の山から、拓馬の声が聞こえた。

「――だから、リアル女子は嫌いなんだよ……」


 拓馬は口を尖らせ、床に転がる無数の本を手に取って棚に収めていく。しかし、杖を突きながらの片手作業のため、大量に山積するそれらは一向に減る様子がない。

 マミルはさっきからソファーにふんぞり返ってスマートフォンを弄るばかりだし、これではいつまで経っても埒が明かない。


 私は早く、この地で能力を発揮する秘策を知りたいんだ。おそらくはコーディックが開発したエネルギーストレージャーに近い何かがあるのだろうが、はたしてこの文化レベルの低い地球に染まったリークドビヴロスタに、それだけの技術力があるのだろうか? 実に疑わしいものだ。

 とは言え、事実マミルは能力を目の前で発揮して見せた。それも、かなり高位のパイロキネシスだった。


「むぅ~、拓馬マジでとろいんだから。――ったく、仕方ないわね。私も手伝うわよ」

 私は本の山に足を踏み入れ、腰を折ってそれを拾い上げた。拓馬にやれと言っておいてこう言うのもあれだが、正直きつい、これ。


 本は意外に重さがあるし、本棚が馬鹿デカいから背伸びしないと上段に届かないし、これはもうただのスクワット状態。いい加減うんざりして逃げ出そうかと思い至った、その時だった。


 じっと身動きせず読まれることの性分を忘れたかのように無造作に横たわる本の数々が、突然整然と起き上がって背表紙を揃え、宙を舞って次々と本棚へと収まっていく。

「な、何よこれ?!」

 それは、明らかにアルケミースキルだ。おそらくはテレキネシスの類だろう。

 私は咄嗟に振り返った。すると、入り口の陰から半身を出すようにしてこちらを見ている見知らぬ生徒二人が立っていた。ちょうど廊下の窓から太陽の光が差し込んで逆光になっているため、その顔はよく見えない。だが、そのシルエットから、一人はすらりと背の高い男子生徒、もう一人は小さな女子生徒だということは察しが付いた。


 目を細めて凝らして見る。

 すると、二つの影の内、大きい方が片方の口角をゆがめるようにしてニヤリと笑ったのが分かった。露出した純白の歯が室内の光を反射し、逆光で見えない表情と相まって妙な不気味さを醸し出している。

「あんたたち、何者よ!」


 すると、その男子生徒が足を踏み出して室内へと入った。

「いやぁ、すみません。驚かすつもりはなかったんですが、本が散乱していてお困りのようだったので」


 驚いた。

 私の場合、こういうシーンに出くわすと、決まって登場するのは目を瞑ってデザインしたような汚らしい男というのが相場だった。

 だが、今回は違った。


 少し長めの前髪の間から覗くインテリジェンスなメタリックフレームの眼鏡。そのレンズを透かして主張するくっきりと輪郭のとれた目には、大きく澄んだ瞳孔がこちらを見据えている。

 足の長さで高い身長を実現している均整の取れた体は、まるでここがファッションショーのステージかと見紛う程に美しい。

 言わずもがな、これぞ美男子というやつだ。


「あっ……そう。そりゃ、どうも」長らく屈強な男にまみれていた私は、どうにもこういう輩が不慣れで苦手だ。


「申し遅れました。僕はこの風紀委員に所属する一年の栗栖修斗くるす・しゅうとです。宜しくお願いします」

「一年? じゃぁ、私たちの一個下ってこと?!」

「ええ、そうですよ、先輩」


 私だって見た目だけでキュンとするほど愚かではない。こんな平和ボケした地球人に何の魅力があろうかと、総帥の絶大なる魅力を思い起こしてみる。

 が、私の横で興味なさそうに薄い半目を栗栖に向けている拓馬を見ていると、私が目指していた高みの基準が崩壊しそうで、これまで積み上げてきた自信やそれを支えるアイデンティティーでさえも、雲散霧消と化す思いに至るわけで。悲しくなってくる。


 ……とにかく、だ。気持ちを切り替えなきゃ。

 悪い奴ではなさそうだし、なかなかのスキルレベルを持っていそうだ。きっと役に立つに違いない。


「こちらこそよろしく。私はリリス。ダービル・エトス・リリスよ。で、こっちがダー……じゃない。出門琢磨。二人とも二年B組よ」

 拓馬の首根っこを掴んで栗栖の前に晒す。


「痛たたた。やめろよ、リリス! 俺は漫研なんだぞ。そもそもこんな意味分かんねぇところに入る気はないんだって!」


「はははっ、お二人はとても仲が宜しいご様子ですね。お付き合いされているのですか?」

 ――沈黙が、少々。


 私は心の中で栗栖の言葉を咀嚼した。何回か口元に戻して反芻した後、ようやくその意味が脳髄に行き渡った。

 そして、顔の表皮を真っ赤に染め上げた。


「ななな、何を言ってんのよ! 私が拓馬と、って、あり得ないから!」と、同時に私の拳が飛んでいく。

 ――拓馬に向かって。


「おぶふっ?!」

 再びぶっ飛んだ拓馬が、本棚と仲良くなる。そして、せっかく栗栖によって整理された本が彼の上で山を作った。


「あちゃ~……。っていうか、栗栖がいけないのよ。変なこと言うから」

「そうですか? いやはや、これは失礼しました」


 まるで、こいつにだけ爽やかな風が吹き込んでいるように、長い前髪をふわりと浮かせて笑顔を見せる彼は、眼鏡のブリッジを二本指でちょいと持ち上げ、眼鏡男子の特権とも言える定番のポーズを決める。

 おそらく、本来ならアウトの光景。

 ――でも、こいつは違った。


 キザったらしいけど、なぜだか嫌味に見えないのも能力の一種じゃないかとすら疑う。彼の周囲には青々とした草っ原が広がり、黄色や赤の小さな花が太陽に向かってヒラを広げる。私は一瞬、ここが委員会室だということを忘れていた。


 しかし、そんな時間も束の間。足元から聞こえてきた潰れた虫のような鳴き声が、私を現実に引き戻す。


「くっそぉ、いってぇな……俺だって願い下げだよ、こんな暴力リアル女子……」

 ――むっ。こいつ。

 カチンときた私は、足元にあった本を拾い上げて拓馬の顔にぶつけてやった。


「痛っ!」

「――なによ。あんたなんかに言われたかないわよ……」


 そんなこんな、喧噪で満たされた風紀委員のシークレットルーム。


 だが、そんな空気感もここまでだった。

 ――そう、私は忘れていた。入り口に佇んだままのもう一つの影を。


 そしてそれは、次に何気なく言い放った栗栖の言葉によって、突如舞い降りた沈黙とともに思い出すことになった。


「やれやれ、それでは拓馬先輩がかわいそうですよ。だって、先輩はテンプトアル最強のダークマ総帥なんですから。そうですよね、沙羅さん?」

「そう。間違いない。拓馬――彼は、ディモン・マグラ・ダークマ。伝説級のマルチスキル……」


 うつむき気味のその女子は、こちらに向けた目を明青色の前髪に隠す。しかし、月代のように輝くその髪は蛍光灯の光さえ透かし、感情をフィルタリングしたような虚ろな目を私にしっかりと晒している。


 私の中で、彼らの言葉が木霊する。そしてそれは徐々に増幅され、内側から叩きつけられた打音が周期を増して外に漏れ出す。


「……あんたたち。なんで、ダークマ総帥のことまで知ってんのよ――?!」


 室内に入ったその子の肩に、マミルが手をかけた。

「紹介が遅れたわね。この子は間岐沙羅まき・さら。栗栖君と同じ一年生よ」


 まるで人形のように表情が固着したその小さな女子は、マミルの態度のデカさも相まって、へたすれば彼女の半分程度かという身長にも映る。本当に生きているのだろうか。それさえも疑いたくなるくらいに無表情で動かない。


 存在感ゼロの小さな青髪がゆっくりと近づいてくる。死んだ魚の眼という日本語の表現はなかなかだと感心するが、まさにそれが目の前の女子に嵌っている。目の前にいるのに、まるで距離感が掴めない。存在感がないという、恐ろしいほどの存在感。


 すると彼女は、抑揚のない横一線の波長で声を発した。

「全部じゃない。でも、ある程度、知っている。あなたのことも、少しは」


「私の、こと? な、なによ。言ってみなさいよ」

「ダービル・エトス・リリス。ミドルネームのエトスは、能力種で”その他”の特殊特性を指す。つまり、レアスキル。能力名は、『アニマ』。言わば、亜生体を創り、コントロールする能力。戦歴はわずか三回ながら、能力の特異性を買われて、ダークマの特秘小隊に入隊。両親は、数年前に戦争と次元リークの犠牲となり、死亡。召使型のロボット、ギミュを同伴――」


「だぁ~! わかったわかった! もう、いいわよ。わかった。納得したわ」

 私は、次々と溢れ出す自分の情報を塞き止めようと、慌てて彼女の口を手で塞いだ。それでも彼女は私の手の中でごにゅごにゅと何かを発している。

「そ、そんな情報どこで知ったのよ?!」

 すると、栗栖が爽やかな風と共に割り込んできた。


「沙羅さんのスキルは、『検索』能力。テレパスの一種ですが、少し特殊です」

「検索? あまり聞かないわね」

「はい。一般レベルのテレパスの能力は、自分からの能動的な送信か、または受動的な相手の思考の受信ということになります。相手の思考を読むというのは、非常に独占的でコントローラブルなスキルにも聞こえますが、実のところ得られる情報は相手次第なんです。つまり、声を出さずに話をしているのと変わりありません。まっ、世の中にはその先を行く伝説的なテレパスもいるみたいですが、とはいえ、一般的にはそういうことになります。ですが、沙羅さんの能力は違う。送信は不得意ですが、相手の思考の中から自分本位に必要な情報をピックアップできるんです。そう、それはまさに、『検索』。それが、彼女の主な能力です」


 妙にドヤ顔で解説している栗栖だが、私は一言言いたい。

「なんであんたが自信たっぷりに全部しゃべってんのよ。この子の能力でしょうが」


 すると、栗栖はやれやれと言う表情を浮かべた。 

「僕は沙羅さんのアテレコ担当です。黒子なので、気にしないでください」


 黒子が一番目立ってんじゃない。だったら、一々前に出てきてドヤ顔キメてこないでよね、ウザいわ。

 そう言ってやると、「おっと、先輩のそんなツンデレなところ、嫌いじゃないですよ」と返ってくる。マジ、ウザい。


 どうやら、これは単に厄介なキャラが増えただけのようだ。なんでこう、見た目インテリジェンスなイケメンはただのアホって定番が、地球でも成り立つんだろう。


「――もう、いいわ。じゃぁ、沙羅が私や拓馬のことを検索したというわけね」

「そう。だけど、違う……」沙羅がぼそぼそと口を動かす。


「そうよね、やっぱり違……はっ? なんで違うのよ?!」

 今の流れは完全にそういうことでしょう? そう、とか、違う、とか、いったいどっちなのよ!


 本当に、こいつらは考えていることが分らない。あ~、苛々する!


「ちょっと、どういうことよ!」

「あなたのことは、簡単に分かる。単純」

 ほっとけ。


「でも、拓馬先輩は、全然分からない。私でも、入り込めない。ほとんど」


 また意味の分からないことを言い出した。どういうことだろう。それでは、拓馬が総帥だということは分からないはずだ。


「じゃぁ、どうして拓馬のこと……」

「たまに見えるし、聞こえる。どこからか。それは、たぶん……テンプトアルの姉から」


 ……えっ?! 何を言ってんの、こいつ。テンプトアルの姉? は?


「いやいやいや、ちょっと待った。今、なんて言った?」


「もう一度言う。テンプトアルの姉から、送られる。彼女の思念は、強い、とても。恐ろしいほどに。だからおそらく、次元干渉の時、時空がリークした瞬間。それが、私まで、届く。強く」


 その言葉は、あまりに平坦に発音されているにも関わらず、私の中では驚くほどに強い振幅を生み出していく。

私の鼓動が、徐々に早まっていく。


「さらっと重要なこと言わないでよね。ってことは、あんた、純血のテンプトアル人ってことなの?」

「沙羅が、さらっと……って、ぷぷぷっ」と横で笑うマミルをとりあえず殴り、私は沙羅と会話を続ける。


「そう、テルネキア村に、いた」

「テルネキア、ですって?! あの、大災害の!」

 テルネキア村の災害。スアール国の人間なら誰もが知っているであろう、歴史上もっとも被害を生んだリーク災害。


 ――噓でしょ。あの災害の生存者がここにいるなんて。

 本来、次元リークに巻き込まれて生き残る可能性はゼロに近い数値だ。だからてっきり、リークドビヴロスタは数世代を経た地球人との混血ばかりだと思っていた。私と総帥は人工的なリークだったにせよ、この数年で三人も生き残るということは起こり得るのだろうか。


「他の人もいたりするの?」

「いない……生き残ったのは、私、だけ」


 しまった。この子は表情があまりに変わらないから、つい興味本位で聞いてしまったけど、これって割と感傷に触れる件よね。ひょっとしたら、災害で家族とかも……。


「あの……ごめん」

「平気。わたし、もともと、姉しか家族、いなかった。彼女は、当時研究所にいて、無事だった。リークした後、亀島学長が、私を見つけた。拓馬先輩と、同じ。でも、私は運よく、無傷だった」

「そっか、よかった。……いや、よくはないけど。なんていうか……よく分からないわね」


 そう、こういう感傷的な話題はよく分からないのだ。正直苦手、止めよう。

 と、思ったが、おかしい。

 何がおかしい?

 そう、今の話にはどこか違和感がある。何かが引っ掛かる。なぜだろう。


 ……ダークマ総帥。そうだ、この子がテンプトアル人で、姉が向こうで無事にいるからって、なんで拓馬と総帥を結び付けられるのよ。チームに入隊して、あれだけ総帥の近くにいた私でも、その御顔を拝むことさえできなかったのに。

 ――って、今やその顔に拳を叩き込んでいる状況で言うのもまた違和感があるわけだけど。


 この子は、というかこの子の姉は、どうやって総帥の情報を知り得たのだろうか。


「ところで、あなたの姉って、なんでダークマ総帥のことを知っているのよ。そりゃまぁ、テンプトアルで偉大な総帥のことを知らない奴なんていないだろうけど、それってあくまで表面上の情報なだけであって――」


「私の姉、所属していた。ダークマの小隊」


「……はい?」

 えっと、今この子、なんて言った?

 ……ダークマ総帥の小隊?!


 えっと、それ、ひょっとして――。


「特秘小隊のこと……よね?」

「そう」


 ――バビョォン! と、意味不明な感嘆詞を述べてみる!


 それほど私は驚いた。

 こいつは、マジで何を言い出すのよ。無表情極まりない鉄板で型取った顔みたいな奴が、事も無げにとんでもないことを言うから、聞かされたこっちはどんな顔をすれば良いか分からない。


 いや、まずは落ち着け。ちょっと待ってよ。総帥のチームで、強力なテレパス……ってひょっとして。


「まさか、あんたの姉って……」

「サルサ、彼女は、私の姉」

 もう、眩暈がしそうだ。


「マジか……」っていうか、ちょっと納得。この能面っぷりは血ってことね。


 まったく、この風紀委員にはマジで碌な奴がいないわね……。

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