マッチ売りの少女、葵の死に戻り(中)
私は黒いマッチのことを思い出していた。
「確か、父上様……、いや私を奴隷として買った男が大切に持っていたものだったけ」
寒さとは別に背筋がゾクゾクっとなった。いつも私を罵倒しながら、マッチの売り上げだけを取り上げていた男だ。
その男がいつも大切にしていた物、それは黒いマッチだった。見た目は普通のマッチそのものなのだが、いつも肌身離さず持っていた。
私は、興味本位なのか、はたまた復讐心からなのか、今でもこの気持ちはわからないが、その男が風呂場に入った瞬間に、脱衣所から忍び込んで持ち去った。あの男はまだ追ってこない。まだ気づいていないのかな。
不幸中の幸い、あの男の顔は見渡していても見当たらない。
私自身、内心ホッとしつつ、バッタリ出会ってしまったらと思うと、足が震えてしまう。
今まで死に戻っているのはこの黒マッチのせいなのかも……。私は口に入っていた唾をゴクリと飲んだ。
「だけど、次はどうしようかしら。普通にマッチを売っても売れないし」
あごに右手をつけて、私は目を閉じた。そして考え込んだ。
「そうだわ。このマッチに別のなにか価値をつけられれば」
私は身体を摩りながら、吹雪になりつつある街並みを見つめた。寒い。身体が冷えてきたわ。
仕方がないので、物陰に隠れながら、マッチを付けた。
「はー。暖かい。ホント、今日は寒いわ」
ため息しか出てこない。周りを見てみても、クリスマスだからなのか、一通りは少なくなってきていた。
火を見つめながら、頑張ろうと決意した。その時だった。いきなり銃声が聞こえた。その銃弾は私の胸辺りに当たっていた。私はその場に倒れこんでしまった。
「きゃあああああ、不審火犯よ。誰か捕まえて」
そう大きな声で女性の声が響き渡った。銃は横にいた男性が撃ったみたいだ。
白い雪が詰まっていたところが、赤く染まっていく。私の血が外に流れていく感覚が伝わってくる。
「あ、これダメだわ。なんで私ばっかり……」
顔が雪に埋もれながら、意識が遠のいていく。雪が降りしきり、私の視界は真っ白く映った。
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「くっそ、痛いわね……、あれ、ここは」
私は、目を開けると、お馴染みの場所に居た。城や周辺の家の明かりが輝いていた。
手に持っていた黒いマッチを見た。中に入っていたマッチの数は24本になっていた。
先ほど、銃で撃たれた通りを見つめた。心なしか、足が動こうとはしなかった。クリスマスながら死神が私の為に働いている事に、舌打ちをした。
「もうあそこには行けないわね」
私は頭を掻きながら、右手にあるバックの中身を確認した。相変わらず、大量のマッチが入ってあった。
「さて、このマッチに価値なんてあるのかしら?」
考えても何も出てこない。それもそうだろう。普通のマッチなのだから。
「だけど、騙すのも良くないわよね」
急な罪悪感の浸られる。私は、腕を組みながら、うつむいた。バックの中にはマッチが入った箱だけが大量にあった。
「ろうそくがあれば2つセットで売るのだけど、マッチだけじゃ無理だわ」
雪が降りしきる中、心の奥底にあったものが折れた気がした。
「もう、……、騙されるほうが悪いのよ」
私の良心を押し殺した。私の中にある刃で心を切り裂いた。瞳から一粒の涙が溢れた。
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「おにいちゃん、このマッチ持ってるだけで恋人ができるわよ」
「おねえちゃん、このマッチ持ってるだけで運気が上がるわよ」
「おじいちゃん、このマッチ神の御加護があるから、持ってるだけで守ってくれるわよ」
「おじ、……、おにいちゃん、このマッチに髪様に……、プっ、効果があるから、毎日煙を付けたら効果あるって……、ハゲていたおじいちゃんが言ってたわ」
私はこの場にいた人たちに話しかけた。だけど買ってくれたのは2人だけだった。しかも、1人には殴られた。納得がいかない。
「だけど、売れたのは売れたわ。この調子で売るわよ」
私は目につく人たちに声をかけた。だがそれっきり、売れることはなかった。
「なんでなの、さっきは売れたのに、私の何がいけないの」
バックの中に入っているマッチを見つめながら、うつむいた。涙を出したい気持ちになったけど、なぜか泣けない自分がそこにいた。
買ってくれる人を探すために周辺の道を歩いていると、大きな屋敷に行きついた。この街の中で一番デカいと言われている屋敷だった。
「確か、……、ここって……」
噂で聞いたことがある。ここの屋敷は領主様が住んでるらしい。
「確か、私を買った主人が言ってた気がするわね」
私は、その屋敷を見つめながら、歩いていると、ある小太りの男の姿が屋敷から見えた。その瞬間、私は目を背けて、男にバレない様に身を潜めた。
「な、なんでこんなところに居るの?さっき私を殺した男が……」
息を殺しながら、壁と同化する。私の足がガクガクと震えだす。
「だ、大丈夫、大丈夫のはずよ。見つからなければきっと……」
私は手に持っていた黒いマッチを力強く握った。目をつぶり、何事も起きないようにクリスマスのサンタに願った。
しかし、その小太りの男はどんどんと私に近づいてくる。そして、……、目と目が合ってしまった。小太りの男が笑みを浮かべたのが見えた。私に向かって口を開けた。
「クリスマスにこんな、こんなかわいい子に出会えるなんて、きっとサンタさんはいいプレゼントを置いてくれた」
私は手に持っていた大量に入ってあったマッチのバックを投げ捨てて、逃げた。だけど、その男も、猛スピードで追いかけてくる。
「待ってよ。今日のお、か、ず、ちゃん」
鳥肌が出てきた。本当に気持ち悪い。私はこの運命から逃れられないのだろうか。
私はさっきマッチが売れた場所へと逃げ込んだ。すると、一人の男が立っていた。
「に、おにいちゃん、助け……」
私がそう述べていた瞬間に、その男にお腹を刺された。私の意識が遠くなっていく。
その男は瀕死の私を上から見つめながら、罵倒してきた。
「なんてものを売りつけてくれたんだ。お前のせいで、お前のせいで、俺は告白する予定だった彼女から逃げられたんだぞ。あんなマッチさえ買わなければ、こんな結果には……]
後から、やってきた小太りの男が私たちの現場と鉢合わせた。次第に、意識が真っ白になってくる。やばい、これはもう。お腹から血を出しすぎたようだった。もうすでに瞳を開けられる力は残っていなく、聴覚以外の感覚はすでに無かった。
「あーら、その子、殺しっちゃったの?残念。んー。貴方、可愛いわね。よし、決めた。貴方が今晩のお、か、ず、よ」
「領主様、止めて、多額の税金も払いますから、ぎゃああああああああああああ」
「あらー、ダメよ。滞納は、その分はしっかり身体で払ってもらうんだから」
私を刺しだ男性の悲鳴が聞こえてくる。税金?ダメだ、意識が遠のいていく。何も考えられない。目の前が真っ白に、雪と一緒に染まっていった。
「痛いわね。痛い。てか領主って」
私は目を開けると、最初にマッチを売っていた、お馴染みの場所に立っていた。大声を出したのだけど、誰も聞いてない、聞こうとはしない人達ばかりなのだろう。
相変わらずに、お城や家周辺が光で輝いていた。
「元に戻った?私はこの運命を変えられないのかしら」
私は瞳から涙を1粒出した。どことなく、ホッとした自分が居た。抱き着けられるのならば抱き着いてやりたい。いつもの孤独感がいっそ、近くに感じる。
手に持っていた黒いマッチ箱の中身を見ると、本数が23本になっていた。
「もう、この運命に逆らえないのならばいっそ……」
絶望が雪と一緒に私を包み込んだ。私の中に、真っ黒で、黒い何かが、今まで存在すらしなかった私に似た何かが生まれた。
それを私は、抱き寄せて、心の中で抱いた。
「……、やるしかない。先にやらないとやられる。わ、私が幸せになるためだったらしかたないじゃん」
心の中に共にいた、大切な自分が消えた事実を認めることがないままに。




