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解体屋 鉄治

作者: MiYA

皆さん、こんにちは…

俺の名前は角田(カクタ) 鉄治(テツジ)

32才 、独身 …

只今、花嫁募集中!


軽く自己紹介をした所で、

今日は俺の体験した不思議な話を聞いて貰いたい …


あれは、今から三年前の夏 …


「皆聞け!やったぞ!デカイ仕事取って来たぞ!気合い入れろよ~!」


堅物の社長が何時になく笑顔で、仕事帰りの俺等に声を掛けた。何でも、俺達と住む世界の違う大金持ちが 、廃園になった遊園地を更地にし、建て売り住宅の販売をすると言う話で …社長は昔馴染みの大手ゼネコンからの話だと大喜びしていた。


「社長 … 大丈夫なんすか? こんな不景気に … 仕事あんのは有難いっすけど…」


社長はムッ!とした顔をして…


「鉄治!俺が受けた仕事だ!文句あんなら辞めてけー!」


頑固なんだけれど、人が良くて騙されやすい、過去には数千万の工事請け負い金を未払いされた事もあった。

あの時の社長の落ち込み様ったら、見ていられなかった…そんな社長だから心配で …

つい、言ってしまったけれど、俺と社長のコミュニケーションだから、何時もの事だと誰も気にもしていなかった。

1週間後から工事が始まる、現場は裏野ドリームランド …解体工20人弱の俺の働く鉄虎(テッコ)解体だけでは手が足りず、同じようにゼネコンから声の掛かった解体屋が十数社集まった


世の中じゃ…俺等、肉体労働者の事を…

DOQ(ドキュン) だ何だと薄ら笑う奴がいるが、俺等からすると、現場来て働いて、お前の漢を試してみろよ、直ぐに動けなくなるのが関の山だぜ、解体工の動きはアスリ ート並みだ、それでも漢か?キ○タマついてんのか ?と聞いてみたくなる。

事実、バイトもプロ・アマ問わず、サッカ ーしているかボクシングしているか…


まぁ、そう言う子しか続かないな…


話が反れたな、それで、その裏野ドリームランドの解体が始まった訳だ。


何年も放置されていたから、何れも此れも錆びだらけ、全部、重機で解体出来れば楽なんだが、どうしても手バラシも必要になる、俺は重機も乗るが、手バラシが好きだ解体の世界に入ったのも、解体職人として手バラシを極めたかったから

如何にスピーディーに、如何に綺麗に解体出来るか、何時も研究している。

俺等の世界で一流の解体工はマシーンと呼ばれる、社長もその1人だ …


憧れるぜ…


悪いな説明が長いな…


先ずは、デカイ所からと言いたいが、

遊園地の手前にある物からバラさないとならない、デカイ物って言うのは 大抵奥にある、だから始めは道造りをする。

トラックがバラシた荷を運ぶ為に必要なのさ 。


入り口付近の目ぼしい建物と言うと…

あれだな、ミラーハウス …

あれは、手バラシだな…

アクリル鏡だから割れないだろうが…

一番奥の観覧車やジェットコースターの解体後のトラックの通り道に建っているから先にバラさないとな…

十数社も解体屋が集まれば、まぁ、解体屋だけじゃないが、人が集まればイザコザもある。

仕事の割り振りだけでも大変だ、

ゼネコンの任命で来た、安田さんと言う工事責任者は、中々のキレ者らしい…

俺等の扱いを見ていれば解る、心得があるのか、相当揉まれて来たか…

安田さんの軟らかくも的確な物腰を見てそう思った。


「鉄虎さんは、手バラシの頭でお願いします。上からそう言われていますので、宜しくお願いします。ミラーハウスからで良いですか?」


流石!手バラシと言えば鉄虎!

八木原 鉄虎(テツトラ)

凄い名前だが、社長の本名だ…

テツトラでは照れ臭いと、社名をテッコにしたらしいが…

意味がないように感じるのは俺だけか?


まぁ、いいか話を続けよう…


十数社も同業者がいる中で、頭を取れると言う事は名誉な事だ、安田さんの指示に異論もない、俺達はミラーハウスの解体から始める事になった。


ミラーハウスは俺達、鉄虎5人と伊藤組と言う建築屋の解体工2人、7人で仕事に係る。

現場は、ここだけでは無いから他の現場に行っている仲間は、そちらの現場が終わってから加わる予定だ。


「伊藤組さん、鉄虎の角田です、宜しくお願いします!」

鉄虎が頭と言う事で、うちから先に挨拶するのが礼儀だ。


「こちらこそ、宜しくお願いします、鉄虎さん!伊藤組の中川と佐野です。」

伊藤組の佐野さんと中川さんは感じ良く挨拶をしてくれた


余談になるが言わせて欲しい!

どんな世界でもそうだと思う、

挨拶ってのは基本中の基本!況してや職人の世界、挨拶もロクに出来ないような奴はいい仕事なんて出来る訳がない、うちの社長なら迷わず、バケツの水を頭から浴びせて「帰れー!」怒鳴り散らす…

挨拶ってのは確りしなきゃな!


ミラーハウスの解体だが、鉄虎のメンバーは、政・賢一・和・矢野さんに俺の5人と伊藤組の佐野さん・中川さん合計7人


先ずは、パネル式のアクリル鏡を1枚1枚外す作業から始めるが、仕事に(カカ)る前から 一番年下で今年20才の政が


「鉄治さん… ヤバイくないですか?お祓いとかした方がいいですって、鉄治さんも噂知ってますよね?」


俺は、地元ではないので噂等知らず


「何の噂だ?知らないぞ…」


政の話だと、この遊園地、裏野ドリームランドには奇妙な噂があるらしく、政は俺に必至に話した。


俺以外の皆は噂を知っていたが、


「政 ~ 怖いのか~? ガキだなぁ~」


笑っていたので、大した事でもないなと仕事に係る事にした。

既に、他の解体屋も各現場で同時進行で仕事を始めている、

早速、ボルトを弛めアクリルミラー版を外しに係った。


手慣れたもので、この程度の仕事なら屁でもない! 仕事を始め1時間程過ぎた頃だった


「痛っ!つぅ~!鉄治さん!本物の鏡!何で!」


賢一の叫びで駆け寄ると、

左の掌がザックリ切れ、

パックリ開いた傷口からは、

白い脂肪が生々しく見えていた

ドロドロと血が流れ、賢一は必死に右手で左手首を抑えている


「賢一! 馬鹿!下じゃねぇ!手上げろ!上 だ上!」


手を怪我した時は、心臓より高い位置に手を上げ血の流れを遅くする基本の処置だ


賢一は直ぐに手を上げ


「鏡!鏡!上の囲い無かったんすよ…」


賢一が作業中のミラー版を俺に教えた。

見ると賢一の言う通り、本物の鏡が使われ 鏡の囲いの上部だけが無く鏡が丸出しだった。

しかも、何故か丸出しの上部だけギザギザと鏡が尖っていた。

ミラー版の高さは約2㍍

手を置いて、初めて気づくのは当たり前だ


皆も賢一の声で集まり、俺は直ぐに安田さんの元へ無線連絡を入れた。


安田さんは、慌てた様子で


「はい!安田です!あっ鉄虎さん!えっ? いやもう、実は各現場で1人ずつ負傷者が出ていまして、既に、救急車呼んでいますので便乗して頂けませんか? 一旦、全作業員、集合場所に戻って貰えませんか?此れ以上、事故が起きたら大変ですから、お願いします。 」



此は只事では無いと、


「皆、一旦中止! プレハブに戻るぞ!」


皆、側に集まっていたので、直ぐに、道具を片付け始めた。


俺は、年長者の矢野さんに


「矢野さん、すいません… 先に賢一連れて行って貰えませんか? 俺、矢野さんの荷物も持って行きますんで…」


矢野さんはニコッと笑い


「鉄治、お前は優しいな… 此、ワシの荷物 … お願いね♪ 」


ドスッ!

サンドバッグか?と聞きたくなる程の大きさのダッフルバックを目の前に置いた。

こんな爺さまの何処に、そんな力が?

一瞬、ギョッとしたが、矢野さんも元プロボクサーだった事を思い出し、日々、鍛えているんだなと尊敬した。


賢一を連れ矢野さんは、一足先にプレハブを目指し、他の皆と俺は、黙々と荷物や道具を片付けていたが、政はブルブルと指先と躰を震わせていた。


片付けが終わり、各自荷物を持ちミラーハウスの出口に向かうと、グワンと大きくミラーハウスが揺れた


「なっ何だー?」


俺は胸騒ぎがして…


「走れー!皆、早く出ろー!」


一斉に皆で走り出した


揺れは激しくなり右左に躰が傾く、


1人脱出、また1人と後に続く…


だが政が躰を震わせ(ウズクマ)ってしまい、俺は無理やり踞る政を引きづり出口へ向かい数歩手前から矢野さんの荷物と一緒に政を放り出した


「オラァ!!」


力も入るが気合いも入る!

これで俺以外は皆、無事に脱出出来た。


「皆、先行ってくれ、直ぐに行く!」


皆を一刻も早くミラーハウスから離れさせようと思った。


後数歩 … 俺は出口へ向かう


ミラーハウスが今度は縦に揺れ動き、出口を定められない…


「鉄治さん!」

「角田さん!」


皆の声が聴こえる、


「いいから!早く行け!この野郎!俺を出さない気か!解体屋なめんじゃね ぇぞ!このっクソボケが!」


俺は肩に掛けていた鬼バールを振り回し


「暴れたい放題だぜ!オラオラ!オラー! 」


ぶっ壊す勢いでバンバン!辺りを叩きまく った


パリパリ!バリパリパリ!


亀裂の走る音が聴こえた …


俺はそのパネルに向かい、一か八か全体重を乗せ体当たりした


「オラ!これでどうだー!」


パリンッ! パリンッ!パリ~ン!


ガラスの割れる音が響き…


俺の躰は宙に浮いた…


何かが俺の左の足首を掴んだ…


俺は右足をブンブン振り回し左足首を掴む何かを蹴り払おうとした…



「チッ!死ネバイイノニ … 」



えっ?


確かに聴こえた …



ガッシャーン!砂埃が辺りに舞い…


ミラーハウスは崩れ落ちた…



ドタッ!俺は外に飛び出し地面に転がる


「鉄治さん!」

「角田さん!」


先に行っていると思っていた仲間が心配そうに、地面に転がる俺を覗き込んだ


「バァ~! 大丈夫だ!解体屋がこんな事で死ねるか!ガハハハ!さぁ!行こうぜ!」


俺はジンジンと痛む左足首を

皆には気づかれないよう、引きづらないように歩いた。


結局、その日の仕事は終了 …


痛ましい事に…

ジェットコースターの解体作業員が病院に運ばれ死亡した。


現場を目撃した作業員の話しによると…

ジェットコースターの座席の解体作業中、電気を流してもいないのに、突然ジェットコースターが走り出し逃げ遅れた1人の作業員がジェットコースターから振り落とされ地面に落下したと言う …


早々と会社に戻ると、社長が


「悪かったな… あの現場は降りる!皆、今日はゆっくり休んでくれ、又、明日から頼む!」


真剣な顔でそう言った…


結局、鉄虎は裏野ドリームランドの仕事から手を引いた …


自宅に帰り風呂に入る(ツイデ)に、ジンジンと痛む左足首を見ると…


誰かの手の痕が…


赤紫色になりクッキリとついていた …



あの時 …


掴まれた手を離せなかったら …


今頃、俺は …



そう思うと 今でもゾッとする …




後日談だが…

うちの会社と同じように、あの日、裏野ドリ ームランドの現場に入った全社が、その日で仕事を降りた …


事故が続き、死者迄出した現場なのに …

浄めのお祓いもせずに工事を続けろと、電話を掛けた大手ゼネコンの担当者に、

どこぞの大金持ちが言ったらしい…


解体屋には古風な人間が多い …

「そんな奴の仕事に命懸けられるか!」

ゼネコン担当者から、電話を受けた全ての会社がそう応え、幾ら大手ゼネコンと言えども全社に断られると、どうにもならず、裏野ドリームランドの仕事から手を引いた


どこぞの大金持ちは、

工事の請け負い先を今でも探しているらしい …



同業者の皆さん…

呉々(クレグレ)もご注意を …




拝読頂けました事

嬉しく思います。


感謝致します。



MiYA

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