表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨルベのない音  作者: 幸村 洋夏
1/16

入部を決めました。

プロローグです。

 中学一年生の春。入学式終えて、一ヶ月たったある日のこと。

その日の放課後は、小学生の頃、授業が終わったらすぐに帰宅する僕にとってすこしだけ特別だった。


「顧問の水戸です。今日から君達一年生は、この吹奏楽部の一員となりますね。何度も、体験入部に参加してくれた人、いろんな部活を見てこの部を選んでくれた人、楽器がもともと好きな人、もしかしたら、この君達と向かい合っている二、三年生の中に憧れて入部を決めてくれた人もいるかも知れませんね。」


狭くもないが広くもない音楽室にいる二人の先生の内の一人が、そんなことを言うと、二、三年生の間で小さく笑いが起こった。中には、もしかしたらってひどくないですかー?、と笑い混じりに野次を飛ばす者もいた。

水戸先生はそんな二、三年生に笑顔を向け、楽しい雰囲気を広げていく。

緊張を和らげようとしているんだろうな、となんとなく思った。

そう感じられるほど、一年生達の空気には、緊張感がある。

丁度、向かい合う形で、一年生と二、三年生が座らされ、その間を取り持つように先生が二人、それと部長と二人の副部長が立っていた。なので、目の前に広がる穏やかな空気と、今自分が座っている、固いというかちゃんとしていなきゃいけないと思い込んでいる空気の差が歴然と感じられる。悪く言えば、居心地が悪い。


何でこんなところにいるんだろうか?


「それでまずは、自分の名前、そしてどうしてこの部に入ろうと思ったのか理由を聞かせて下さい。言えないならば、それでも構いません。しかし、キチンと自分の言葉で入部希望の言葉を自分の中に残して下さいね。それでは福原さん、お願いします。」


入部した理由。

入部届けの紙にも、入部動機の欄があり、記入を迫られたなぁ。

あの時は、白紙で出したが、実際どうだろう。僕はどうして、吹奏楽部に入部しようと思った?

体験入部は何度か行った。男子だということで強引な女の先輩に連れられて、チューバとかいう金管の楽器を吹かせてもらった。その後も、唯一名前を知っていた楽器、トランペットを吹いたり、友達に連れられて吹いていた6の字型の楽器(名前は覚えてない。)を吹いたり、太鼓を叩いたりと色々な楽器を触らせてもらった。


その体験の中で、楽器の楽しさに目覚めて、これを続けていきたいと思いました。


…違うな。どの楽器も楽しかったけれど、別に続けていきたいと思うほど楽しかったわけじゃない。

そして、当然ながら楽器の名前もあやふやな僕が、小さい頃から楽器に触っているエリート楽器マンなはずもない。

それは、一緒に体験入部に来ていた隣に座っている友達の方だ。


「あ、じゃあハイ。俺からいいスか?」


部長の福原さんが、誰から発表させるか迷っている様子だったからか、もともとそうするつもりだったかは知らないが、僕の隣にいた男子が手を挙げた。

その男子は癖っ毛が入り混じった少し明るい髪に、同世代の人間よりも大人びた顔立ちをしていた。とても一、二歳離れているだけとは思えない先輩達の視線を集めながらも、その眼は動じる様子など見せずにむしろ楽しそうだ。

部長に促され、僕の友達は自己紹介を始めた。


「一年の高槻小唄(たかつきこうた)っす。俺、小さい時からピアノやってまして、音楽系の部活やりたいなって思ってこの部活を選びました。女の子も多くて楽しい部活っぽいんで、俺も早く仲良くなりたいっす。」


小唄はハキハキとした声で自己紹介を続ける。

時に軽口っぽく。時に真面目に。隣で聞いている僕は耳を塞ぎたくなるような気持ちだったが、先輩達や一年生の他の生徒にはウケが良かったらしく、小さく笑い声が聞こえる。ムードメーカーとは、よく言ったもので、今この場の空気感は小唄が作っていた。

そんな小唄の様子を見て、僕は、自分がこの部に入ろうと思った理由を再認識した。

それは、体験入部で楽器を好きになったからだとか、昔から楽器をやってきたからだとか、そんな立派な理由は一切ない。

高槻小唄が入部するから。

それだけだった。

誘われたわけでもない。(体験入部は誘われたが)小唄が入部すると言ったときから、僕も入部することを決めていた。

ずっと、そんな生き方をしてきた。小唄が、右に行けば右に行き、左に行けば左に行く。音楽をやると言い出せば、後に付いていく。

それは、高槻小唄を中心に置いた考え方だった。または、虎の威を借る狐。狐の僕は、ただ(こうた)の威光の影に隠れる。

それが、楽だった。いや、楽というより、それが僕の生きる術だった。生きる術であり、居場所だった。


「あはは、高槻君、ありがとう。それじゃあ次は……隣にいる子、いいかな?」

「……はい」


居場所がなければ、人は生きていけない。だから、僕は自分の居場所を守るために――。


日頼遥希ひらいはるきです。よろしくお願いします。」


僕は今日吹奏楽部に入った。


「って、え、それで自己紹介終わり?」


終わりです。

こんな感じでゆるーく続けられたらと思います。

よかったら、どうぞorz

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ