「彼女と私」
こんにちは。
筆者の東雲 椿です。
本ばかりを読んできた人生ですが、この度初めて文章を書かせていただきます。
一話あたりの文章量は少なく、また更新の頻度も高くはないのでのんびりとお付き合い頂けたら幸いです。
意地でも完結させる所存です。
何かあればご指導ご鞭撻お願いいたします。
感想をいただけると僥倖です。
「ねえ、私たちはみんな咎人なんだよ」
彼女は囁く様に言った。
そこは日の射す海岸でも、雪の降る公園でも、桜の咲く並木でも、紅葉に燃える山でもない、現実味のありすぎるカフェ。
突然の出来事にコーヒーの入ったカップが胸のあたりで宙ぶらりんになった。
その声は詩を朗読するかのように、優しく透き通っていた。
独り言かと訝しんだが、その発言の中身と、何より問いかけるような声色に先の判断をすぐさま取り消す。
一瞬の逡巡の後カップをテーブルに置いて顔を上げると、黒髪の美女がこちらに微笑んでいた。
艶のある長く、しなやかな、光沢のある黒髪。
大きく、それでいて生命を感じさせる、吸い込まれそうな瞳。
小振りで、ふっくらとした、薄い桃色の唇。
筋の通った鼻に、長い睫毛に、陶器のような白い肌。
いま思えば一目惚れだったのだろう。私は自身がノーマルであると思っていたのだが。
それが、私と彼女との出会い。そして悲劇の始まり。
これは彼女の物語。
彼女のことを最も愛し、最も憎み、最も許容し、最も拒絶した、私の物語。
彼女無き後では全ての真相は藪の中であるし、今更物語に意味はないだろう。
それでも、たった一つだけ知りたいことがある。
私の愛した彼女は、その生涯において、本当に彼女である瞬間が在り得たのであろうか。