第六十三話 最強の魔王がバスケをしたら……
―—プライドがすでに粉々なバスケットボール部一年エース 滝沢 省吾視点——
安藤さんの彼氏にコテンパンにされ、今の俺はもうどうにでもなれ状態だった。
そして、ずっとスマホでバスケのルールを確認していた金髪のイケメンが今度は俺の相手らしい。
「いけー、アデルさん!」
名前はアデルというのか……。
何かこいつも尋常じゃない雰囲気を持ってるけど、どこかのほほんとしているな。
「あ、アデル、頑張れ!」
ん?
女性の声がしたからちらっと見たら、何か見た目ヤンキーっぽいけど……その、服を押し上げる胸がすっごいのなんの……。
何あれ、何が詰まってるんだよ。
あっ、アデルとか言うイケメンが、バインバインの姉ちゃんに手を振った。
あっ、姉ちゃんが顔を真っ赤にしている。
……けっ、こいつも彼女持ちか。
でもまぁこいつはそこまで運動が出来なさそうだな。
さっき安藤さんの彼氏にぼろくそにやられたから、そろそろいい所を見せないといけない。
「よろしくお願いします、えーっと、滝沢さん」
「……よろしく」
ちょ、調子狂うなぁ。
先攻はアデルとなっている。
こいつはどうやって攻めてくるかな?
出来れば普通であって欲しいが……。
「えっと、このボール、消えるよ」
「は?」
ふと、奴の手元を見たが、マジでボールがない!!
何処に行ったのかコートを確認するが見当たらない。
何処だ、何処へ行った!!
とにかくボールを探すが、その時ゴールのネットに何かが入った音がした。
瞬間的に音が鳴った方に視線を向けると、ボールがゴールに吸い込まれた直後だった。
「……へ?」
この試合を見ている観客達も俺と同じような反応だった。
マジでよくわからんのだけど!!
戸惑っていると、安藤さんの声が聞こえた。
「あっくんあっくん、アデルさん何したの!? 全然見えなかった!」
「わ、私も気になる!!」
安藤さんの後にバインバインの姉ちゃんも興奮気味に続く。
「ああ、簡単だよ。あの滝……何とか君の目線がそれた瞬間にボールを放ったんだよ。手首のスナップだけで、ポイって」
滝沢だ!!
ちょっと待て、コート中央から手首のスナップだけでシュートしたのか?
しかもアンダーから!?
普通無理だよ!!
手首だけでそんな事出来る訳ないからね!?
「さっすがアデルさんだね♪」
ああ、安藤さんは信じてるぅ……。
何で信じれるの?
「よくわからなかったけど、すっごい格好いいよ、アデル」
バインバインの姉ちゃんは目がハートマークだ。
いや、おかしいと思おうよ!!
人間業じゃないから、普通に化け物みたいな事してるから!!
ってか、さっきの台詞ってテニ〇だよね!?
ま、まぁ気を取り直そう。
次は俺の攻撃の番だ。
ぜってぇにやり返して、少しでも汚名を挽回してやる!
「さぁ、一点返す――って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ほんの数秒だけど、アデルっていう奴が二人になった!
えっ、何、待って。
俺は今何者と試合してるの!?
『えぇぇぇぇぇええええぇぇぇ!?』
試合を見ている皆も驚いてる!
そうだよね、普通驚くよね!?
「ほほぅ、アデルさんやるねぇ。高速で左右に動いて、まるで分身しているように見せてるよ。所謂残像ってやつだね」
「ほえぇぇ、そんな事も出来ちゃうんだねぇ、アデルさん」
「……アデルが二人……? どっちを愛せばいいんだろう?」
何でお前らは当たり前のように言ってるんだ!?
安藤さんですら受け入れているし、バインバインの姉ちゃんすら驚く前に何かわけわからん事を言い始めてる……。
いやいやいやいや、人間には不可能だからな!?
そしてバインバインの姉ちゃん、意味不明な事言ってるからな!?
なんて思っていたら、速攻でボールを奪われてしまい選手交代……。
いや、どうすればいいんだよ、分身されたらスティールされるでしょ。
もうさ、どうにでもなれだよ……。
とりあえず全力をもってディフェンスするだけだからさ……。
こんな人外にディフェンスできるかよ!!
まぁやるけどさ。
「さて、最後は普通に行きますよ」
「そうね! 今まで普通じゃなかったね!!」
おっと、ついつい突っ込んでしまった。
もうね、こんなとんでもない事ばかりしてくる奴の普通は期待しないけどさ……。
どうにでもなれって心境だよ、もう。
パスを終わらせ、奴がゆっくりとドリブルを始める。
出だしは普通だな。
俺は奴の「普通」を信じて、前進してブロックする。
相手の動きに集中して、ボールをカットしようと体の重心を下げた。
すると奴は左に体を振って、すぐ切り返して右に抜けようとした。
フェイントを織り交ぜて抜こうとしたな?
それ位ならいくらでも対処できる!!
と思ったら、俺は転んでしまっていた。
「……え?」
何が起きたのか、さっぱりわからない。
そして悠々と俺の横をドリブルで抜けていき、レイアップシュートでゴールを決めた。
未だに何が起きたか、さっぱりわからない。
俺は起き上がって、奴に問い詰めた。
「なぁ、あんた! 今何をした?」
「え? ん~と、そうですねぇ。アンクルブレイクっていうのを引き起こしてみました」
「なっ!?」
アンクルブレイク。
相手の重心が軸足にある瞬間に切り返す事で、相手が転んでしまう現象だ。
こんなの実際のバスケでも本当に稀にしか起きない現象なのに、こいつは自ら引き起こしたってのか!?
ちょいと待ち、それってエ〇ペ〇ーアイじゃねぇか、まんま!
やっぱり普通じゃなかった、やっぱり普通じゃなかったね!!
こいつらの言う事を一ミリでも信じた俺が馬鹿でしたよ、本当にね!!
こうして、俺のプライドはズタズタにされ、そして夢の国のペアチケットも二枚ゲットされてしまった。
実はこのチケット、余ったら俺達が貰える予定で、安藤さん以外の子(もう安藤さんは彼氏に夢中過ぎて諦めた)を誘おうと思ってたんだが……。
もうさ、ペアチケットなくなっちゃったのよ。
元々二枚しか用意できなかったからね……。
……ちくしょう!!




