第五十六話 降臨、慈愛と平和の女神
久々の更新です!
……きっと忘れ去られていると思うけど;
――アタル視点――
さて、これで完全に無力化出来たかな。
久々に人を斬っちゃったよ。もう二度と斬りたくないって思っていたんだけどなぁ。
でもまぁ今回は仕方ないよ。だって、町をこんなにめちゃくちゃにしちゃってるんだし。
力に溺れてしまった奴の末路って事で、うん、僕も割り切ろう!
「勇者、魔王! 無事に終わったようだな!!」
奥野さんが僕達に近づいてきた。
そして奥野さんの後ろに、サングラスを付けた黒服の男が五人付いてきている。
まさに裏の組織って感じだ。
「奥野さん、問題なく終わったよ」
「……両手が斬り落とされていて、両目が空洞になってる。何ともまぁ容赦ないな」
「死ななかっただけマシでしょ?」
「ああ。ありがたいよ、むしろ」
奥野さんは顎で黒服集団に指示を出し、未だに耳障りな悲鳴をあげている自称最強さんを連行していった。
まぁ、両手痛いだろうなぁ。しかも目も見えなくなっちゃってるし、きっと絶望してるんだろうな。
知ったこっちゃないけど。自業自得だし。
「しかし……こうなると観光どころではなくなるな。死者の数も尋常じゃないし」
「だねぇ。やっぱりあの男、殺しとくべきだったか……」
「物騒だな、勇者!」
「いえいえ、万死に値しますよ、あの男の所業は」
おっと、アデルさんも同意してくれてるねぇ。
そりゃそうだろう、観光を邪魔された訳なんだし。
僕は周りを見渡す。
建物からは火が上がっていたり崩れ落ちていたり、もしくは欠けていたりしていた。
地面には黒焦げになった死体、瓦礫に埋もれたであろう手だけが出ている死体、そして傷だらけでお母さんを泣きながら探している女の子もいた。
ああ、平和な日本で、向こうの世界のような惨状を作ってくれちゃって、結構ガチで頭に来るな。
……あまり使いたくなかったけど、決めた!
「奥野さん、これからとある事をやるよ」
「とある事?」
「うん。一つだけ約束して欲しいんだけど、今から行う事は今回限りだよ。いいね?」
「……わかった、約束しよう」
「ありがと」
これはアデルさんにも教えていない、僕のある種の切り札。
しかもデメリットが一切ないっていう、まさにチートに相応しい力だ。
あんまり僕はこれ使いたくないんだけど、この惨状は何とかしたい。
僕はライトブリンガーを地面に突き刺し、剣の前に跪く。
そして、リューンハルト語で僕は唱える。
『我らを見守りし偉大なる慈愛の女神よ(偉大でもへったくりでもないけど)、どうか我が願いを叶える為に御身を我が前に現してくださいませ(今回だけね!)』
神に祈りを捧げるように胸の前で手を組み祈る。
僕は無信仰だからこんな事をしたくないんだけど、唱える時もぼそぼそっと否定する言葉を呟いたけど、こんな状況だから仕方ないよね。
すると、僕の祈りが通じたみたいで、ライトブリンガーが輝き出したんだ。
ああ、ついに彼女が来てしまう。
あんまり会いたくないんだけどなぁ。
僕達三人を取り囲むかのように、天から光の柱が降りてきた。
あまりの神々しさに、奥野さんは開いた口が塞がらない状態みたいだ。
アデルさんはというと、多分誰が来るかを察したんだろう、めっちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。
あはは、昔から神と魔族って仲悪いからねぇ。
そしてついに、彼女が姿を現した。
光の柱を通って、ゆっくりと天から降りてくる緑色の綺麗な髪をなびかせる美しい女性。
スタイルがよく、ボリュームある胸や引き締まったお尻、そして局部を薄い布一枚でしか守っていない何とも破廉恥な格好だ。
でも何でだろう、僕は彼女には全く以て欲情しない。
女神だからかな?
そして、ついに彼女は突き立てたライトブリンガーの上にそっと降り立った。
長いよ、演出が!
さっさと降りてきて欲しいんですけど!
アデルさんはあまりの嫌悪感に、まるで生涯の敵を見つけたかのような『ザ・魔王』と言えるレベルの表情をしていた。
奥野さんは、彼女のあまりの美しさに呆けていた。
彼女はリューンハルトにいる神の一柱、慈愛と平和の女神である《レイフィーナ》。
僕にライトブリンガーを授けてくれた女神様だ。
そして――
「アタルさまぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡ お会いしたかったですわぁぁぁぁぁぁ♡♡♡」
僕は何故か彼女に惚れられている。
抱き着いて来ようとしてきた彼女を、僕は手で彼女の顔面を掴んでアイアンクローをお見舞いする。
「いたたたたたたっ♡」
「気持ち悪い。僕からの痛みでも感じる糞変態女神め!」
「はい、私は勇者アタル様の愛の奴隷ですわ♡ いたたたたた、真面目に痛いですぅ♡」
だから僕は彼女が苦手なんだよ。
慈愛と平和の女神とか言ってるけど、彼女の慈愛は性的な部分に非常に傾いている。
特に僕に対しては、とっても変態的だ。
ごめん、僕は変態な女性は結構苦手だ。
「僕は愛の奴隷なんていらないし、すでに超可愛くて最愛の彼女がいるんだよ。貴女のような変態はノーセンキュー」
「ああん♡ 呼び出しておいてこの仕打ち、たまりませんわ♡ ……って、彼女と仰いました?」
「うん、彼女。恋人って言った方がよかったかな?」
「…………殺しちゃいましょうか」
「……へぇ、殺す、ねぇ」
僕はさらに手に力を入れると、さすがの彼女の苦痛に顔を歪めた。
「ギブ、ギブギブギブですぅ!!」
とりあえず、手を放してあげた。
おっと、隣にいる魔王様、あまりにも嫌いだからって魔力を吹き出さないでよ。
ほら、奥野さんが失神寸前だよ?
「あら? お隣にいるのは、堕神が創った愚かで醜い種族の王様ではありませんこと? まだ滅びてなかったのですね」
「ふん。貴様のような変態が蔓延る神の世界に嫌気が差したから、我が偉大なる創造主は地を選んだのだろうな」
「醜い種族如きが、私達神を侮辱するのですか?」
「侮辱などしていない、軽い挨拶をしただけではないか。この程度すら許容出来ないとは、神の器の狭さが露見しているな」
「これを挨拶と言いますか。これだから卑しい魔族は卑しい種族のままなのですわ。あの男神と変わりありませんわね」
「貴様と創造主を比べるのも烏滸がましい程に、我が創造主の方が遥かに偉大だがな」
うっわ、勃発しちゃったよ、口喧嘩。
ちょっとだけ語ると、リューンハルトでは神々が生命を産み出しているんだ。
人間と亜人を創ったのは、天上にいる神の世界に住んでいる神達が。そして魔族は何かしらの理由で地に堕ちて来た男の神が創造したらしい。
魔族を創った理由は、強靭な肉体を持った彼らを使って神の世界を攻め落とす為だったようなんだ。
だけど、魔族の創造主は魔族に対して情が移ってしまい、戦争する事なく彼らの行く末を見守る事にしたらしいんだ。
しかし神々と対立する為に創られた魔族は、創造主以外の神に対して敵対心が現れてしまうみたいだ。もうこれは遺伝子レベルで刷り込まれている本能に近いんだろうね。
「はいはい、とりあえず喧嘩は止めようね!」
僕は二人の仲裁に入った。
だって、このままだと話が進まなそうなんだもん。
「女神様、早速僕の願いを聞いてくれないかな?」
「はいっ♡ アタル様、何なりとお申し付けくださいませ♡」
この女神、ちょろい。
「この町と、理不尽に奪われた命を、助けて欲しいんだ」
「はいっ、お安い御用ですわ♡」
「「えっ」」
僕の願いをあっさり聞き入れた女神様に対して、アデルさんと奥野さんは驚いていた。
ってか、今思ったんだけど、女神様ナチュラルに日本語で話してるね。
すると、女神様が僕に手を差し出してきた。
ああ、はいはい。僕の膨大な気が必要なのね。
僕は白くて細い、彼女の綺麗な手に触れた。
そして、僕達の視界は眩しい光に支配された。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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