第三十一話 最強の魔王、恋を語る
今回はちょっと短めです。
――アデル視点――
恋とは何なのだろう。
私はずっと考えていた。
初めて日本に来た時、アタルさんは幼馴染みである由加理さんと結ばれた。
由加理さんは念願叶ったといった感じだった。
だが、魔族である私にとって、恋という感覚は全くわからなかった。
魔族は恋愛は一切しない。
気に入ったから我が子を産めと言い、逆らったら力でねじ伏せ従わせる。
ある種、そういった部分だけは野生動物や魔物と何ら代わりないのだ。
幸せ真っ只中なアタルさんに聞いた。
恋とは何なのか?
「恋ってのは、とにかく傍に居たくて、守りたくなるものなんだよ」
「私は、アタルさんとは親友ですが、そう思っていますよ?」
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!! 僕はそういった趣味は全くないぞ!?」
違ったのだろうか?
アタルさんは今の私にとっては唯一無二の親友だ。
頼りたいし頼られたい、守りたいと思うし一緒に居ると落ち着くから、傍にいたいと思っている。
それが男色と間違われたらしい。
試しに、サイラスに聞いてみた。
「鯉でございますか? あれはダメです。身が全く美味くありませんぞ!」
恋の事を聞いたのに、鯉の味を答えられた。
一応面倒だったが、恋について説明する。
「恋? そんなのは力づくで我が物にする事でしょう。我輩の妻は相当美人でしてな、他の雄共を排除するのに苦労しましたぞ」
……魔族に聞いた私がバカだったようだ。
竜人族の中で、サイラスは確かに美人の妻を持っているらしいが、皆トカゲの顔をしているからよくわからない。
やはり、私には恋愛小説しかそれを知る術はなかった。
日本に行った際に購入した小説だ。
タイトルは、《一途》だ。
直球なタイトルであるが、なかなかに面白い。
主人公は男子高校生、そして学校に車椅子に乗った女子生徒が転校してきた。
主人公は彼女に惹かれていく。だが、彼女は障害のせいで好きな人に苛められた過去を持っており、恋愛を拒絶していた。
それでも彼は彼女に一途に尽くし、最後は結ばれるという話だ。
アタルさんに言わせればありきたりらしいのだけど、主人公の心理描写を上手く表現できていると思う。
その中で、恋をしたらどうなるかというのが書かれており、私はそれを参考にしたのだ。
恋は、胸が苦しいらしい。
恋は、一喜一憂するらしい。
恋は、好きな子を抱き締めたくなるらしい。
恋は、好きな子とセックス(交尾の事らしい)をしたくなるらしい。
恋は、命を捨ててでも好きな子を守りたいらしい。
手掛かりはこんなものだ。
アタルさんにも聞いてみたら、大体合っているようだ。
付き合っても結構大変で、自身の劣情と格闘をするそうだ。
物語の主人公も、手を出して嫌われないか不安になっていた。
両思いになっても、何でもしていいという訳ではなさそうだ。
まぁ、私には縁はないだろうと思っていた。
だが今日、まさかの私が恋愛を味わう事になるとは思わなかった。
目の前にいる、田中 夢可という女性に心を惹かれた。
何処が好きなのだろう?
私は、彼女と喫茶店で会話をしながら考える。
最初は本当に誰も寄るなと言わんばかりの、刺々しい雰囲気を表に出した女性だった。
私の事も最初は拒絶していた。
でも、彼女の事情を知ると、確かに他人を信じられなくなってしまう。
私とはまた別の種類の孤独を味わっていた。
私は、同じ孤独を知る仲間が出来たと思い、友達になった。
きっと彼女も同志が出来たと思って、友達になってくれたのだろう。
ここからだ、私の中に恋という感情が成長していったのは。
男達に襲われていた彼女は服がボロボロだったので、以前お世話になった衣服屋へ向かった。
そこで店員さんと一緒に服を選んで、何故かどちらが似合うか勝負する羽目になった。
彼女が着替えている最中、試しに店員さんに恋について聞いてみた。
「そっすねぇ……。俺、最近まで女の子を好き勝手食っちゃってたんですよ」
食っていた!?
人間とは、同族を食料にするのか!?
……いや、確か日本語の豊かな表現の中で、交尾を手当たり次第するのを「食っちゃう」と言うのを聞いたな。
彼は確かに他の女性にモテているから、相手は選り取り見取りなんだろうな。
「でもそれだけだと埋まらなかったんですよねぇ、心が」
「心?」
「そっす。そこで最近ようやくわかったんっすよね!」
「何がですか?」
「恋って、一緒に何かをして、一緒に共感するものだってね! そうした上で一緒にいたいし、彼女が喜んでくれたら嬉いんすよ」
ふむ、それは親友でもいいのではないだろうか?
この言葉を聞いて、私はさらに混乱してしまう。
恋とは、本当に何だろうか?
彼女が着替え終わった姿を見た時、私は彼女に見惚れた。
店員さんが選んだ服は、活発で行動的、でも体のラインがしっかりわかる格好だった。
そして私が選んだ服はシンプル、それでいて明るい雰囲気を演出したものだ。
どれも素晴らしかった。
彼女は両方似合っていた。
でも、これは勝負だ。
何故かどうでもよかった勝負が、私が選んだ服を着てもらった瞬間に、負けたくないものに変わった。
結果は私の服を選んでくれた。
何故だろう、とても嬉しかった。
そして夢可さんの柔らかい笑顔に、胸が締め付けられるような感覚に陥った。
喫茶店に移動して、彼女の母親の話を聞いた。
彼女はその思い出を語っている時に感傷に浸ったのだろう、泣いていた。
私は彼女の涙を見た時、衝動的に抱き締めたくなった。
だが、魔王としての自覚が何とか抑えてくれた。
そして涙を拭いて見せてくれた、満面の笑み。
きっと、この笑顔で私は恋に落ちたのだ。
どんな宝石よりかも美しく、可憐な笑顔だった。
それをもっと傍で見ていたいと思った。
その笑顔を手に入れたいと思った。
これが、私の所謂初恋だ。
初恋は叶わないというジンクスがあるらしい。
……それ、悲しくなるから止めてほしい。
未だに恋は自覚出来たけど、何をしたいのか、どうすればいいかはわからない。
でも日本で産まれた、素敵な感情だ。
ゆっくりと、大切に育んでいこう。
きっと、どうしたいか等の答えは、恋という気持ちが大きくなったら答えを示してくれるだろうから。
さて、変な事を考えていたな。
彼女との会話に集中しよう。
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