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破壊のゴルゴンゾーラ  作者: 茹でプリン
序章 再会
3/21

0-3 神と世界

「……神様、ねえ?」

 

 目の前で得意気に微笑む親友を胡乱気に眺める。

 今こいつは自分で神だと名乗った。こいつの話から俺が想像した展開と一致してはいても、やはり到底信じられるようなものではない。

 何故なら、俺は彼のことを小さいころから知っているからだ。

 俺と遼也は幼馴染である。家が近くお互いに両親が留守がちなこともあっていつも一緒に遊んでいた。

 その時のことを思い出しても、やはりこいつと「神」という単語とはなかなか結びつかなかった。

 

 

 そんな俺を見て遼也は首をかしげる。

 

「あれ、やっぱり信じてくれてない?」

 

「まあ……そりゃあな。昔からずっと見てたからわかるけどさ、お前どう考えても神って柄じゃないだろ」

 

「う、うーん? 例えばどの辺が?」

 

 戸惑ったように遼也が尋ねてくる。

 俺は昔のことを思い出しながら、あえて言葉を選ばずに並べ立てる。

 

「まずお前は人の上に立つ性格じゃないだろ? 人をまとめるのとか苦手だったよな。それに色々物事を考えるよりは直感で適当に動く方だし。あと責任感もあまりないし、そういえば街を発展させるシミュレーションゲームも苦手だったな」

 

「む……、辛辣だなあ。僕だってちゃんとやる時はやるんだよ?」

 

 遼也は困った風に頬をかく。

 見た感じ、この一年間で印象が変わるほど成長したようには見えない。それで神の仕事が勤まるのだろうか。

 神が何をする存在なのかは俺には分からない。だが俺のような一般市民とは全く格の違う存在。人間に崇拝される対象であるはずだ。

 

 だが、それ以前にこいつは俺とずっと一緒に育ってきた幼馴染の二神遼也なのだ。

 俺と他愛のない話をしたり、ゲームの対戦にムキになったり、試験前にわからない問題があると俺に泣きついたりしていた姿からは、どうしてもそんなイメージは湧いてこなかった。

 それに。

 

「それに、……俺はずっと、お前も俺と同じ人間だと思ってたのにさ。本当はそうじゃなかったってことかよ」

 

 今までの彼は偽りの姿だったというのだろうか。

 人であろうと神であろうと遼也が遼也であることには変わりないのかもしれないが、とても近しい立場にいたはずの俺には何も知らされていなかった。

 少しだけ、裏切られた気分だった。

 

「えっ、れ、蓮斗?」

 

 焦ったような声がかかる。

 だが俺はなんとなく遼也と目を合わせたくなくて、再び右手で頬杖をつき、テーブルに置いた紅茶を眺める。

 そんな俺に、遼也はうろたえたように体を揺らし、ぱちりと手を合わせた。

 

「ご、ごめん! そういうつもりじゃなかったんだ。ちゃんと話すから!」

 

 ちらりと目を向けると、遼也は懇願するような目でこちらを見ていた。

 これは昔から遼也が俺の機嫌を本気で損ねたと感じた時にとっていた行動と同じ。

 俺はそれに小さく眉をひそめつつも黙って続きを促す。

 すると彼はあからさまにほっとした表情で話し出した。

 

 

 

「あのさ、蓮斗。ここは勘違いしないでほしいんだけど、蓮斗と最後に会った去年のあの日までは僕も普通の人間だったんだ」

 

「……? どういうことだよ」

 

「あの後に、天界からの使者が僕を訪ねてきてさ。僕の魂が神に昇格する条件を満たしたって教えられたんだ。いきなりだから僕も驚いたんだけど、待ってもらうことはできなくて……。その瞬間から僕は人間じゃなくて神になり、神としての研修を受けるために天界に向かうことになったんだ」

 

「……。そんなことが……あったのか」

 

 俺は目を丸くした。

 神って人間から昇格するものだったのか。

 彼の話からすると、俺と一緒にいたときの遼也は正真正銘の人間であり、いきなり文字通りの神隠しに遭ってしまったというわけだ。

 彼が神になる資格を得たというのは驚きの事実ではあるが、彼にとっても予想外のことであり、俺を騙すつもりはなかったのだろう。

 

「そうか、俺の早とちりだったのか……悪かった」

 

 つまり俺はただ勘違いから逆恨みをしていただけだったようだ。

 それを認めて俺は素直に謝る。遼也は安堵した様子で軽く首を振り、話を続けた。

 

「先に言ってなかった僕も悪いからいいよ。それで、ええと。その研修で、さっき蓮斗に言ったような転生に関する知識とか、神々についての知識とか、神の力の使い方とか、色々なことを教わったんだ」

 

 そう言って彼は紅茶を一口飲み、話を続けた。

 

「神って一口に言っても色々種別があってさ。さっき僕が言った死神や転生神、あと創造神と破壊神、火の神とか酒の神に魔神とかもいるし、ベテランになると1柱で全部をこなす絶対神なんてすごい神様もいるんだよ」

 

「へえ、面白いな。それでお前はどれなんだ?」

 

 ファンタジーな言葉に興味を示した俺に遼也は微笑んだ。

 

「うん、僕は創造神……の卵かな。研修を受けた後に初めての仕事として新しい世界を一つ創ったんだ。どんなのでもいいって言われたから、RPGみたいなファンタジーの世界にしてみたよ」

 

 さらりと凄いことを言う遼也。

 

「初仕事で天地創造とか……神やばいな」

 

「あはは、やばいでしょ?」

 

 そう言って彼は楽しそうに笑った。

 そういえばこいつは様々なものを作るのが趣味だった。

 プラモデルから粘土での造形、さらには自作の料理やゲームなど、様々なものを時が経つのも忘れて作り上げる。思ったとおりのものが出来上がるのが楽しくてたまらないのだと言っていた。

 それのスケールをひたすら大きくすると新世界の創造につながるのだろう。

 確かにこいつなら創造神の基盤はできていそうだと俺は思った。

 

「それでさあ。一週間近くかけて、天と地、海や雲、大気や魔力、色んなエネルギーを創り、植物や魔物や動物を創ってから人間も創り、せっかくだから魔法なんかも使えるようにしちゃったり、好き勝手してみたんだよ。でも頑張りすぎたせいで流石に疲れちゃってさ」

 

「それで7日目はひたすら休んだと?」

 

 どこかで聞いたような話に、俺は冗談めかして問う。

 すると遼也は肩をすくめた。

 

「とんでもない。僕の場合はもう一ヶ月ぐらい全然動けなかったよ」

 

「何やってんだよバカ」

 

 最初は加減がわからなくて無茶をしたからなあ、と苦笑する遼也。

 俺もその様子がありありと浮かび、呆れと共に笑いがこみ上げてきた。

 

 

 俺の一方的な誤解も解け、場の雰囲気は和らいだ。遼也はカップに残った紅茶を飲み干す。そして軽く手を振って小さなポットを出現させ、空のカップに新しく紅茶を注いだ。

 カップの中に直接紅茶を創り出せばよかったのではと思ったが、どうやら茶を注ぐ雰囲気を楽しみたかったとのことらしい。なら最初からそうしろと思う。

 俺もどうかと聞かれたので、自分の紅茶を飲みきってからカップを差し出し、注いでもらった。神に茶を注がれる一介の幽霊。考えてみると不思議な状況である。

 

 互いに一服したところで遼也が口を開く。

 

「……とまあ、僕の立場についてはそんな感じなんだけど、信じてくれたかな?」

 

「そうだな。仕方ないから信じてやることにする」

 

「あはは、それは光栄だ」

 

 彼は楽しそうに目を細めた。

 それに俺はニヤリと笑う。

 

「ああ、何ならお前に傅いてやろうか? 我が身は神の御心のままに、なんて」

 

「──え、ちょっ、蓮斗が言うと何か怖い! やめて!」

 

 椅子から降りて遼也に跪いてみる。が、すぐさま腕を取って立ち上がらせられた。

 慌てたような彼の反応と表情が存外に面白くて、俺は小さく吹き出して肩を震わせた。

 もー、と拗ねたような声を出す遼也。

 からかわれる側の気持ちがわかったか。

 ちなみに俺はからかう側の気持ちがわかった。

 

 

 

「それで? 何か手伝ってほしいとか言ってたのはその世界でのことなのか?」

 

 椅子に座り直し、ぶり返しそうになる笑いをこらえて話を進めた。

 遼也は憮然とした顔から一転、真面目な様子で話し始めた。

 

「そう。調子に乗って色々創造しまくってたらさ、人間の文化が発展したのはいいんだけど、ちょっと大変なことになっちゃって……」

 

 

 その後に続く彼の言葉をまとめると、おおよそこのようになる。

 

 彼は世界を創造し、様々な生物を創った。

 食物連鎖ヒエラルキーの最下層は微生物や植物、それに続くのはそれを食べる小さな動物、それを捕食する大きな動物や魔物。そして、それらの外敵から身を守り、時には様々な生き物を狩って生活の糧にする人間というように構成されていたらしい。

 ちなみに魔物とは魔力というエネルギーを大量に保有した動物のことだそうだ。いわゆる経験値を持ったモンスターである。知能は低く、本能に従って生きるらしい。

 

 神という存在の主な役割は、世界に生きる様々な生き物達の生態系を管理すること。

 世界を創造したばかりの初期段階では魔物の数が増えすぎて生態系が乱れそうになり、遼也は急遽、仮の体で神の化身として降臨して人間に知識と力を与えた。

 するとそれを受け入れた人間は見違えたように強くなり、剣や魔法を駆使して魔物をたやすく討伐するようになった。今や人間は食物連鎖の頂点に君臨する生き物となった。

 人間の文化は瞬く間に発展し、街が作られ国ができ、俺たちがよく知るようなファンタジー世界が形成されていった。

 

 

 だが、それに満足した創造神がしばらく席をはずしていたところ、いつの間にか人間という種族は発展しすぎていた。

 

 増えすぎた人間は様々な派閥に分かれ、世界は数多くの国という形で分断された。

 食料や嗜好品、または娯楽のために特定の動物や魔物が乱獲されるようになった。

 人は権力に溺れ、国同士で土地や名誉のために争い始めた。

 魔物を討伐する冒険者は減り、人を相手にする兵士ばかりになった。

 強い魔物は人を襲うことが滅多に無いので、少なくなった冒険者達もやがて向上心を忘れ、手ごろな弱い魔物ばかりを目標にするようになった。

 

 その結果、世界のバランスは崩れ始めていた。

 特定の植物、動物、弱い魔物が絶滅の危機に陥った。

 度重なる戦争で土地は荒廃し、多くの罪なき犠牲者が出るようになった。

 強い魔物は討伐されなくなり、冒険者は弱くなったため、いざ強力な魔物が人の所に攻めてきたときにも対応することが難しくなった。

 国境で隔たれた人々は協力することを忘れ、魔物に抵抗できなくなった国がどこからも援助されずに滅ぶこともあった。

 

 

 これを知った神は大いに嘆いた。

 人間は自らの力に驕り高ぶってしまった。

 そのせいで、人間を中心に世界の有様が崩壊しようとしている。

 自分が人に力を与えすぎなければよかった。もっとこまめに見ていればよかった。

 だが、いくら神でも過ぎ去った時間を戻すことはできない。

 この世界の半分を司る神として、今からでもできるだけ世界を在るべき状態へ戻さなくてはならない。

 

 そして神は考えた。

 人類が慢心したのは何故か。力が強かったからだ。

 人類が増えすぎたのは何故か。天敵がほとんどいなくなったからだ。

 人類が協力しなくなったのは何故か。戦争で戦う敵同士という立場だからだ。

 

 ならば、いがみ合っている国々が協力して、慢心せずに全力で立ち向かわざるを得なくなるほどの、強大な"共通の敵"を用意すればいい。

 

 

 人類全てを脅かす未曾有の脅威、"魔王"を創ろう────

 

 

 

 

「──というわけで、蓮斗には僕の世界に魔王として君臨してくれないかなと思って」

 

 そうあっけらかんと言い放った目の前の神に、俺は頬を引きつらせた。

 

「……いやいやいや、おかしいだろ。もう何か色々とおかしいだろ。突っ込みたい点が満載なんだが、いくつかいいか? いいな?」

 

「質問? どうぞ」

 

 遼也は首を傾げる。

 彼の言っていることを疑うわけではないのだが、内容のあまりの突飛さにうまく考えがまとまらず、俺は右手で頭を押さえた。

 

「まず……、それはお前が神になってから今までの話だよな? 俺の記憶が確かなら、まだお前が消えてから1年しか経ってないはずなんだが」

 

 世界創造から人類の発展。ホモサピエンスからスタートしたとしても、少なくともこの状況になるまでに世代は幾度も交代しているはず。数千年、どれほど少なく見積もっても数百年ぐらいは経っているのではないだろうか。どう考えても時間の整合性が取れないと思う。

 その質問を受けて、納得したように彼は頷く。

 

「ああ、そっか。そうだよね。ええと……。時間の流れっていうのは世界ごとに違っててさ、僕の世界はかなり速めの流れに設定してたんだ」

 

 ちなみに、彼が言うには俺達の住んでいた世界は逆に時の流れがとても遅いらしい。

 すなわち遼也の世界の時の流れは俺から見ると相対的にものすごい速さとなっていて、俺達の住んでいた世界の1年間でも、向こうではとんでもない長さになっているそうだ。

 俺達がこうして話している間にも向こうの世界では月日が流れているのだろう。

 またしても意外な事実に驚いたが、この件に関してはとりあえず納得だ。

 

「……じゃあ次だ。魔王なんて存在を創らなくても、お前自身が対処することはできないのか?」

 

「僕はあくまで創造神だから、何かを創ったり与えたりすることはできても、世界の状態にそれ以外の手段で直接干渉することはできないんだ。化身として降臨しても、できることはたかが知れてる」

 

「じゃあ、こう……間接的な対処は?」

 

「人類に天啓を授けたりってこと? ……うーん、悔しいことに人類が発展しすぎたせいか神への信仰が弱くなっててさ。神の存在を信じてない人間には、天啓を授けようとしても僕の言葉が届かないんだ。降臨しても、多分あんまり神だと信じてもらえない」

 

「神が信じられてないって? 教会とか神社なんかは無いのか?」

 

「教会ならあるにはあるけど……。僕を崇拝っていうよりかは、僕から派生した何かを祭ってるような感じだなあ。根も葉もない謎の伝説が語り継がれてるみたいだし、よくわからない作法も誕生してるっぽいし、何というか今更手を出し辛いよ」

 

 あれだと天啓も中途半端にしか伝わらないだろう、と彼は困った様子でため息をついた。

 神も色々大変そうである。

 

「……それはまあ、お前自身が降臨したのは初期だけなんだったら、実物を知らないなら色々想像されても仕方ないだろうな」

 

「創造神ならぬ想像神って? ダジャレ言ったの?」

 

「お前がな」

 

 危機感が感じられない創造神の額に、テーブル越しにデコピンをする。

 彼は「あいてっ」と呟いて額を押さえる動作をした。痛みなどないだろうに。

 こんなのに管理されている世界も色々大変そうである。

 

 

 ふと思ったことを追加で尋ねる。

 

「ところでこれって他の創造神はどう対処してるんだ? どこの世界でも起こりえそうな問題に聞こえるが」

 

「ああ……それね。僕がその世界の時の流れを速くしすぎたのが問題なんだよ」

 

 はあ、とため息をついて彼は答えた。

 

「本来、ひとつの世界の維持管理は創造神と破壊神の二柱で行われるんだ。創造神が世界を創造し、発展させる。破壊神がその余剰部分を破壊し、安定させる。共同作業だね」

 

「でもお前の世界は創造神しかいないのか」

 

「そう。天界には今手が空いてる破壊神がいないんだ。だから世界が発展しすぎる前に新しく破壊神が生まれるのを待たないとだめだったんだけどさぁ。神が新しく生まれるのは天界基準で大体一年に一柱だけ。さらに破壊神に限定すると大体数十年に一柱生まれるかどうかってぐらいだから、僕の世界の時の流れが速すぎて間に合わなかった」

 

「時の流れの速さは変えられないのか?」

 

「無理だね。創造神は創るだけ。僕自身が創った物質そのものなら消滅させることはできるけど、一度変化したものや世界の概念を変えるなら一度破壊神に破壊してもらってから再創造しなきゃ」

 

「……なるほどな」

 

 紅茶を飲んで一息つき、頭の中で今までの話を整理する。

 ようするに、彼の作った世界を発展させることができても、創造神である彼にはその暴走を防ぐ手段がないということだ。

 本来は破壊神がその役割を担うようだが、彼の世界には破壊神が存在しない。だからその代替手段として"魔王"を創り、その役割を担わせるということなのだろう。

 彼の言いたいことは大体わかったが、まだ一つ聞きたいことが残っている。

 

 

「……じゃあ最後の質問だ。破壊神の代わりに魔王というのはいいとして、何で俺?」

 

 わざわざ俺の魂を用いなくても、他の生物と同じように一から創ればいいはずだ。

 創造神なのだからできないわけがないだろう。

 だが、その質問に遼也は難しい顔をした。

 

「生物を創る時には、転生した魂をこめなきゃいけないんだよ。その生物の本能とか能力を設定することはできるけど、ある程度知性のある生物だと、中身の魂によってどう動くかはわからないし予測もできない。だから、転生した魂を入れて下手に強い魔王を創ったら本当に人類を滅ぼしかねないんだ」

 

「だから制御しやすい俺を人柱にすると?」

 

「そう。蓮斗がタイミングよく魂になってくれて助かったよ」

 

「……」

 

 今度は遥也の頭をはたく。

 それを気にも留めずにくすくすと笑う神を俺は半眼でねめつけた。

 こいつ実は邪神か何かなんじゃないだろうか。

 

「まあ、それは冗談だけど。でも実際に困ってたから、蓮斗が来てくれたらほんとに助かるんだ。君なら僕の存在を知ってるから天啓も確実に届くしさ」

 

「別に手伝うこと自体に異議は無いんだが、その態度が何かむかつく」

 

「まあまあ。それに蓮斗にとっても悪い話じゃないんじゃないかな? ゲームっぽくてなかなか面白い世界だから楽しいと思うよ。魔法を使って勇者と戦ったりさ。僕と話とかしながら遊び半分にでもやってくれたらいいんだ」

 

「……ううむ」

 

 確かに遼也の言うことには興味がそそられる。

 画面上の存在ではなく、実際に魔法や魔物が見られるというのも面白そうだ。

 先ほど言った通り親友の手伝いをすること自体は吝かではないし、俺も了承する方向に傾いているのは事実。

 だがやはりこの態度が気に入らない。

 

「そうは言っても、どうせそれしか選択肢はないんだろ? ここにだって俺は無理やり連れてこられたんだし」

 

「うっ……それを言われると耳が痛いけど、別にそんなことはないんだよ? 他の選択肢として、魔王じゃなくても適当な器で僕の世界に住むことだってできるし、魂のままでただ僕の話し相手になってくれるだけでも構わないよ。まあ、幽霊としてなら元の世界で漂ってることもできるね。蓮斗がそう望むならだけど」

 

「本音は?」

 

「……助けてくださいお願いします」

 

「最初からそう言えっての」

 

 ようやく素直に頼み込んだ遼也に俺は口端を上げ、右手を差し出した。

 

「じゃあ俺が手伝ってやるから、これからもよろしくな。遼也」

 

 遼也は一瞬目を丸くしたあと嬉しそうに微笑んだ。

 

「──うん、ありがとう。よろしく、蓮斗!」

 

 そして彼も右手を差し出し、握手をする。

 神という大層な肩書きを得たといっても、やはり遼也は遼也だった。

 今までと変わらない態度で接することができそうである。

 なら、少しこいつにつきあってやるのも面白そうだな、と思った。

 別にこいつが心配だからというわけじゃない。決して。

 

 

 

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