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破壊のゴルゴンゾーラ  作者: 茹でプリン
二章 勇者との決戦
12/21

2-1 封印は解かれた

 2章です。

 少しずつ残酷な描写が入ります。

 傷だらけの勇者達が魔王城から持ち帰った、神の結界の力が弱まっているという情報。それは全世界の国々へと瞬く間に広がった。

 情報伝達の速度は以前とは比べ物にならない。国々の結束が強まっているということだろう。

 焦った上層部の人間達は対談し、魔王に対抗しうる唯一の存在となった勇者を総力を挙げてサポートすることに決めた。

 装備品やアイテム、訓練の指導や宿の提供、何から何までの全力だ。

 

 ちなみに彼らの傷は精鋭の魔導師たちの魔法によりあっという間に完治した。その後は俺に対抗するための猛特訓に励んでいるらしい。

 ひとたびどこかの町へ俺が魔物を向かわせれば、訓練も兼ねて彼らが討伐しに赴く。遠い場所ならば専属の魔導師達が転移魔法で送ることもあるそうだ。

 それにはもはや国境など存在しない。様々な国、様々な都市で、並大抵の兵士では対抗できない強大な魔物からも人々を守る英雄。今や彼らはそんな存在だ。

 

 そんな彼らをサポートするため、必然的に各国で交流が生まれる。

 勇者達が大仕事を成し遂げた後には、協力した各国を巻き込んだ大規模な宴が開かれたこともあったそうだ。

 このまま交流が続けば、いずれ各国への偏見や敵対感情などそういうものを取っ払ってくれるはず。

 全ての人々の意思がひとつになるまでもう少し。

 俺達の目的の達成は近い。

 

 

 

『あ、今ケルベロスが倒されたね』

 

「残るはオルトロス──おっと、こっちは瞬殺か」

 

 勇者との初邂逅から一ヶ月と少し。

 俺は今、自室にいながら別の魔物の視界を借りて勇者達を観察している。

 俺が町に送り込んだ、複数の頭を持つ犬の魔物、ケルベロスとオルトロスの二頭は今しがた討伐された。

 それらは決して弱い魔物ではない。どちらも俺がかつて魔王城に配置したミノタウロスよりも俊敏性に長け、凶暴性もある。それが二頭同時となるとかなり手強いはずだ。

 だが、勇者トルテとその仲間はそれらを容易く打ち砕いた。

 

 まずトルテが手傷を負わせつつ撹乱。剣士ファルスは着実にダメージを与えていき、魔導師シルフィが魔法で援護や足止めをして、トルテが神器でとどめをさす。これがここ最近の彼らのパターンだ。

 相手によってはシルフィの大技で決着をつけることもあるし、ファルスの攻撃だけでけりがつくこともある。相手により臨機応変に使い分けているようだ。

 今回はまずトルテとファルスが二頭を分断し、オルトロスをシルフィが足止めしてからケルベロスを二人が相手取り、その勢いを保ったままオルトロスをも倒した。

 その後も彼らは油断をせず、増援が来ないか警戒している。

 

 この短期間で彼らはかなり成長した。

 彼らそれぞれの力も随分と強くなっているし、動きも洗練されてきた。

 何よりトルテは神器の扱いをかなり物にしたようで、その迸る閃光による一撃を受けた魔物は、耐え切れずに悲鳴を上げてその場に倒れ伏す。痛そうだ。

 ただし神器の力を最大限に発揮した後は彼の方にも大きな反動があり、なかなか連続しては使えないようだ。その辺りはファルスやシルフィが上手くカバーしている。

 もはや彼らは、魔物に対しては現人類において最強の存在といって差し支えないだろう。

 今の彼らに対抗できる魔物は、もはや最上級の力を持つ種族ぐらいだ。

 

『ほんと、強くなったよね。あの子たち凄く頑張ってるよ』

 

「ああ、そうだな」

 

『それも他の人間みんなの協力があってこそかな。うん、みんなが手を取り合う世界。素晴らしいね』

 

 周りに敵はいないと判断した勇者達は警戒を解き、歓声を上げる民衆達の輪に加わっていった。これから宴が始まるようだ。

 俺は魔物との視覚共有を解き、椅子に腰掛けた。

 

 今、世界の人類は絶望の中に勇者という希望を見出している。

 彼らなら自分達を助けてくれる。彼らなら魔王の脅威をも退け、世界を平和にしてくれる。そのような光を信じているから、人間達は前向きな気持ちでいられるのだ。

 遼也は創造神であり、同時に繁栄をもたらす神でもある。彼らがそういう明るい気分にさえなれば、魔王の侵略により町や国が壊滅状態にあっても、その神の力で何かをどうにかしてうまく復興、発展させることができるらしい。

 俺はよく理解していないが、それは遼也が非常に感覚的にしか説明できなかったからだ。俺に非はない。

 とりあえずその力で細かい部分は解決できるらしい。どうにも信憑性はないが、実際に今のところ人類は身内でのトラブルは激減し、絶望に囚われずに明るい未来を目指して協力する方向性になっているようだ。

 

「でも、まだ完全じゃないんだろ?」

 

『うん……、やっぱり富と権力に囚われた人とか、どうしても戦争を続けたいって人はいるみたい』

 

 遼也はため息混じりに呟く。

 自らの欲をのみ追い求め、周りの人間や他の生物を道具としか認識しない者達。

 魔物が蔓延る現在はひっそりと隠れているようだが、魔王が討伐されれば再び表に出てくるだろう。

 そういう人物はなまじっか権力が高いがために、好き勝手に人や国を動かし、秩序の崩壊を引き起こす。そうなると俺達の計画は台無しだ。

 

「そこで俺の出番だな」

 

『うん、ごめんね、蓮斗。間引き……、頼むね』

 

 つまり、世界のために、未来のために、予め不穏分子は処分するということ。

 将来そうなる可能性の高い人物の所在地のリストは、既に遼也から受け取っている。

 やはりどんな人間であっても、彼らは神の創造物。創造神である遼也にとっては子供のような存在なのだろう。意図的に殺してしまうのはどうしても気分がよくないらしい。

 更にそれを全て俺に頼るしかできない現状、遼也は何だかんだで引け目に感じているのかもしれない。

 俺に謝りつつも自分の方が気落ちしている遼也に、俺は苦笑を返す。

 

「今更謝るなって。世界のためには必要なことなんだろ」

 

『……うん』

 

「なら、お前は悪くない。黙って俺に任せてればいいさ」

 

 汚れ役は悪い魔王が喜んで引き受けよう。

 魔王は人間にとって最悪の存在。人類の滅亡を望む悪の権化。戯れに人の町を適当に襲い、そこで運悪く不穏分子達は犠牲になるのだ。彼が気に病む必要はない。

 勇者達と戦う前の問答で、魔王が人間にとっての絶対悪となりきれていない可能性が浮上したこともあるし、ついでに魔王に対する人々のヘイトも稼いでおかなければ。

 神はハッピーエンドをお望みだ。魔王を倒したその後は、人類に輝く平和を与えたいのだ。本当に倒してよかったのか、という後味の悪いエンディングなど俺も御免である。

 

『うん、ありがとう……。頼もしいよ』

 

 少しだけ明るい声色になった遼也。頑張って励ました甲斐はあったと思う。

 それでもやはり、次の作戦は彼には気が重いようだ。

 まあ、当然か。

 

 

「……だけど、本当にいいのか? そいつらだけじゃなく、住んでいる町ごと滅ぼすという方針で」

 

 それは勇者達が魔王城に来る少し前から決めていた作戦。

 トルテにも最後に軽く告げたはずだ。町を一つずつ破壊すると。

 だが今の遼也の落ち込み様を考えると、少し緩和しても良いのではないかと思える。

 それでも彼は迷わずに答えた。

 

『だって、人類は数が多すぎるんだ。戦争が減ったのだから、これからもっと人口は増えるはず。このままじゃ結局他の資源がどんどん足りなくなっていっちゃうし、今のうちにある程度数を減らしておかないと』

 

 食料や土地、水など、生活に必要な物資が人類全体に行き渡らせるのが困難になってしまえば、結局は人類の、ひいては世界の衰退に繋がる。

 創造神の力で食料となる植物や動物の数をだんだんと増やすことはできるが、それも限度はある。

 大を生かすためには小を殺さねばならない。人類の今後のために、いくらかの割合の人間には犠牲になってもらう必要がある。

 しかし人類が自分達で数を減らすことなど倫理的にできるはずがない。人間はレミングではないのだ。実際はレミングも集団自殺をするわけではないらしいが。

 とにかく人間達に代わり、俺がある程度の人口の調節もすることになった。

 端的に言えば大量虐殺。蹂躙だ。

 

『本当はさ、この世界に破壊神さえいれば、こんな人口爆発も起こらないはずなんだけどな……』

 

 悔しそうに創造神が呟く。

 破壊神は寿命や出生率の操作でもするのだろうか。

 

「まあ、無い物ねだりをしても仕方ない。気に病まずに今できることをすればいいさ」

 

『うん、その通りだし、励ましてくれるのは凄くありがたいんだけど……。蓮斗はなんでそんなに普通でいられるのかな……』

 

「……そこ突っ込むかよ」

 

 矛先が俺に向いた。

 なんでだよ。俺には倫理観が足りないと言いたいのか。

 確かに元人間である俺が人間達を虐殺することに対する罪悪感などを感じないとは考えにくいのだろうが、実際俺は何故かあまり感じていない。

 実際に各国の王都を襲撃した時も間接的に多少の人間の命を奪った。彼らに対して多少の憐憫はあれど、別に罪の意識に苛まれるようなことはなかった。

 元の世界でも人を殺したことこそないが、その主な理由は罪に問われるからであり、必要があれば躊躇なくやってのけただろう。

 といっても、単に殺人への忌避がないだけで、当然無闇に人を手酷く扱ったり盗みを働いたりといった悪事は俺も好かない。別に人の心がないわけではないと俺は反論をしたい。

 それに次の作戦は戦いではなく蹂躙だ。俺だって気は重い。

 別に俺は冷血人間ではない。ないのだ。

 自室のテーブルに頬杖をつき、半分ほど紅茶の入ったカップを意味なく回す。

 

「どうせ俺は罪悪感なんて殆ど感じねえよ。気になるならこの冷血人間に全部放り投げてお前は目を閉じてろ」

 

『あっごめん、気にしてたの? 蓮斗を責めたわけじゃないんだよ。拗ねないで』

 

「気にしてないし拗ねてない」

 

 うっそだー、と遼也はくすくすと笑う。失礼な。

 俺は憮然としつつも反論はせず、角砂糖を一つ紅茶に入れてかき混ぜる。

 

『でも、僕も逃げずにちゃんと付き合うよ。大丈夫』

 

 そう明るく言う遼也からは強い意志が感じられた。

 彼がそう言うのならば、俺が無理に止めるのも無粋というものだろう。

 

「お前がそれでいいなら別にいいけど。無理はするなよ」

 

『ありがとう。蓮斗は優しいよね』

 

「……フォローなら別に必要ないぞ」

 

 半眼でそう返し、俺は紅茶を飲んだ。

 そして顔をしかめる。

 甘すぎた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『じゃあ……そろそろいいかな?』

 

「ああ、準備はできてる」

 

 俺は今、魔王城の外に出ている。

 数年ぶりに土を踏みしめ、結界の前に立つ。

 結界の外には今、大小様々な魔物がひしめいている。

 ついに結界を解く時が来たのだ。

 

 白く輝いていた結界の光が徐々に弱まり、結界は存在感をなくしていく。

 遼也が結界に込めた神の力を少しずつ抜き取っているのだ。

 

『ん、これでいいかな。よーしやっちゃえ蓮斗!』

 

「了解」

 

 俺は右手を伸ばし、もはやただのガラスの壁のようになった結界に触れる。

 そこに俺はゆっくりと闇の魔力を浸透させてゆく。

 俺の手を始点として、だんだん黒く染まっていく結界。

 魔王城周辺を覆い隠す結界が完全に黒く染まった時、俺はその魔力を解放した。

 鏡が盛大に割れるような音と共に、結界は粉々に砕け散った。

 黒い粒子がさらさらと風に舞い、次第に溶けて消えていく。

 途端、結界を囲んでいた魔物達による天に届かんばかりの咆哮があがる。

 二度、三度。王が再び解き放たれたことを祝福するように。

 もちろん全て演出だ。

 

 俺はフッと口角を上げ、右手を軽く上げて魔物の咆哮を止める。

 そのまま遠く離れた岩の向こうを指すと、魔物が数匹そちらへ向かった。

 俺の耳でも声が聞こえない距離。何の変哲も無い岩場。だがそこでは人間が隠れて魔法によりこちらを監視しているのだ。魔力でわかる。

 魔物の行動に焦った彼らは、慌てて何処かへ転移したようだ。

 だが他にもまだ至る所に人間が隠れている。

 

「──行け」

 

 俺は短く告げる。

 魔物達は各自思い思いの方向に駆けていった。

 少しして、遠くから悲鳴が聞こえてきた。逃げ切れなかった者達がいたようだ。

 人類の数を減らすというのも目的の一つである以上、もう俺は容赦しない。

 ここにいる魔物達には、人間を見つけ次第殺せと指示を出している。その指示は当分撤回する気はないし、これから徐々にその指示を他の魔物にも与えていく予定だ。

 これからは人間達にとって辛い地獄のような日々が待っていることだろう。

 だが、きっと乗り越えられるはず。

 人間達には勇者という確かな希望の光が残っているのだ。

 

 

 二頭残したガーゴイルには魔王城の番を任せ、石像のように配置しておく。

 一頭だけ残っていたドラゴンの背に、俺はひらりと飛び乗る。

 それを確認すると、ドラゴンは大きく羽を広げて飛び立った。

 目指すは、最初のターゲットである領主が治める町。

 

 さあ、地獄をつくりにいこう。

 終盤戦スタートだ。

 

 

 

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