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破壊のゴルゴンゾーラ  作者: 茹でプリン
序章 再会
1/21

0-1 終わりと再会

序章です

長いですが何なら0-4くらいまで飛ばしても内容は大体わかると思います

 赤信号。交差点に斜めに止まったトラック。遠巻きに群がる野次馬。

 地面を濡らす真っ赤な液体。飛び散る何か。そしてそこに倒れた俺。

 それらを上から見下ろして気がついた。

 

 ──あ、これ死んでるな。

 

 

 * * * 

 

 

 それが起こったのはよく晴れた昼過ぎのことだった。

 

 長く苦しい受験期を終え、無事に現役で第一志望の大学に入学し、それなりに遊んだり勉強をしながら数ヶ月が経った頃。

 その日は俺の19歳の誕生日だったのだが、日曜だったため講義は無く、しかも共働きの両親は二人とも休日出勤で家にいなかったため、残された俺は暇をもてあましていた。

 

 少し前までなら、俺の幼馴染かつ親友だったやつのところに押しかけて、ゲームの対戦をしたりゲームセンターやカラオケに行ったりもできたのだが、今はそうもいかない。

 その友人が去年のこの日から突如行方不明になったからだ。

 

 

 前日までは高校で普段どおりに会って話をしていたのに、彼は突然何の痕跡も残さずに消えてしまった。

 その日は俺の誕生日だったこともあり、どうせ何かのサプライズでも企んでいるのだろうと最初はそれほど気にしていなかったのだが、電話もメールもつながらず、夜になって彼の家族から行方を知らないかとの電話があった。その次の日にも彼は学校にも来ず、流石にこれはおかしいということで学校中大騒ぎになった。

 誰にも知らせずに家出でもしたのかと言われていたが、前日の彼からはそんな雰囲気など全く感じられなかった。さらに不思議なことに、彼の持ち物は財布や携帯も含め、ほぼ全てが家の中に残されていたらしい。

 家出、遭難、事件、拉致。様々な噂が飛び交った。俺が殺したなどという意味の分からない噂さえあった。警察にも捜索願が出されたしニュースにもなったが、一向に何の手がかりもつかめないまま迷宮入りとなったのだ。

 もちろん俺もそいつに縁のある様々な場所を捜索したが、プロですら見つけられない人間がそうそう俺に見つかるはずもなく。

 結局彼は"神隠しに遭った"として片付けられてしまった。

 

 それから丁度1年。

 俺を含めた彼に近しい人たちも、もう彼は戻ってこないのだと認めざるを得ず、徐々に彼のいない生活を受け入れ始めていた。

 

 

 

 ともかく今日は大学の課題やレポートも無いので、俺はひたすら一人用の新作のゲームをプレイしていた。

 そして丁度昼ごろにラスボスを倒し、めでたくクリアすることができた。

 

 このゲームは王道のRPGで、シナリオやシステムには大して特殊な要素は無いが、演出や戦闘バランスやBGMなどは悪くなく、全体としてはなかなかいいゲームだった。

 ひとつ他のゲームには無い面白い点を上げるなら、キャラクターなどの固有名詞が食べ物で統一されているところだろうか。

 勇者ザッハトルテが王女であるミルフィーユ姫と共に、世界征服を目論む魔王ゴルゴンゾーラに挑む物語。もちろん道中の街や重要アイテム、ひいては技名すらも食べ物だった。その徹底ぶりに笑いがこみ上げてきたことも多々。

 だが、名前のシュールさを差し置いて、気付けば俺はその人物達が織り成す物語にも引き込まれていた。

 勇者の悲しい過去。姫の想い。彼らを支える仲間達。それらが複雑に絡み合い、深い物語が形成されていた。

 

 ちなみに彼らの最終目標である魔王ゴルゴンゾーラは今時珍しい絶対悪だった。

 他者の命を何とも思わず、自らの欲だけのために世界を蹂躙し、さらにはその所業により苦しむ人々を嘲り笑う。平たく言えば下衆である。キング・オブ・ゲスである。最後は勇者に気持ちよく成敗されていた。

 そして、壮大な音楽と共に、大団円のハッピーエンドで物語は幕を閉じる。

 

 スタッフロールを見ながら物語の余韻に浸るのはゲーマーにとって至福の一時だ。

 その後に続くエピローグも終わりを告げ、タイトル画面に戻り、ハードモードとエクストラコンテンツが開放されたというメッセージを確認したところで俺は一旦ゲーム機の電源を切った。

 ちょうどいい時間だったので、そろそろ昼にしようと考えたのだ。

 

 

 何を食べようかと少しだけ考えて、思いついたのはつい先ほど死闘を繰り広げたゴルゴンゾーラ。

 食べ物としてのゴルゴンゾーラチーズは、名前ぐらいは知っていても食べたことは一度も無かった。

 酸味があるとか癖が強いとか聞いた気がするが、どのような味なのかはわからない。その強そうな名前にふさわしい味なのか、実際に食べて確かめてみる良い機会だろう。

 ネットでゴルゴンゾーラのパスタがある店を探すと、幸いにも近くのレストランで食べられることが判明した。

 そのすぐ傍には有名なケーキ屋があるので更に都合がよかった。誕生日だからついでに自分用にケーキでも買ってこよう。クリームたっぷりのチョコレートケーキがいい。

 俺はクリアしたばかりのゲームのBGMを鼻歌で歌いながら、鞄に財布やスマートフォンなどを詰め込み、足取り軽く家を出た。

 

 

 

 そして、レストランの近くの交差点で事は起こった。

 

 信号待ちをしている間に俺はスマートフォンのゲームアプリを起動する。国道を横切るこの信号はなかなか青にならないのだ。

 しばらくゲームに熱中していると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。またどこかで事件でもあったのだろうと思い、あまり気にはしなかった。

 しかしサイレンはどんどん大きくなっていく。

 一旦顔を上げると、国道方向の自動車用信号はちょうど黄色になっていた。

 スマートフォンをスリープ状態にし、鞄に収納しようとしたところで、国道を猛スピードで爆走するトラックが目に入った。

 おそらく制限速度の2倍以上は出ているのではないだろうか。後ろにはパトカーがサイレンを唸らせながら走っている。

 どうやらこのトラックは警察から逃げているようだ。飲酒運転がバレるのを恐れたとかだろうか。

 初めて見る状況を、俺は目を丸くしてただ見つめていた。

 

 

 そのトラックは、信号が赤になったにもかかわらず猛スピードのまま交差点を右折しようとした。俺が信号待ちをしている交差点だ。

 だが、その速度が災いしてか、カーブする角度がゆるい。

 曲がりきれない。

 そして、トラックはその勢いのまま、歩道に乗り込んだ。

 その先に立っているのは、俺。

 

「────!!」

 

 誰かの悲鳴が響いた。

 俺は咄嗟に顔を腕で守ろうとするも、効果などあるわけもなく。

 形容することの難しい、強すぎる衝撃。

 そして俺の意識は吹き飛んだ。

 

 

 

 

 そして冒頭に戻り、気付けば俺はこの惨状を中空から見下ろしていたのである。

 

 凄惨な事故現場。トラックは俺が立っていた所のすぐ傍にあった電信柱に突っ込んで止まっている。

 パトカーから警察官が二人降りてきて、一人はトラックの運転手を取り押さえ、もう一人はトラックの車輪に巻き込まれている俺の無残な姿を見て絶句し、かがんで状態を確かめた後に通話機でどこかに連絡をしていた。

 おびただしい流血。グロい。あれでは俺はもはや生きてはいないだろう。

 今の俺自身の体は透けていて、俺の想像をまさに裏付けるような状態となっている。

 ちなみに足はちゃんと存在していた。透けてはいたが。

 

 とりあえず頬をつねってみる。感触はあるが、痛みは……ない。

 だが、夢というにはあまりにも生々しい光景だ。

 トラックが衝突するまでの過程はしっかりと記憶に残っているし、現在の不思議現象以外は筋の通っていない展開が見受けられない。

 おそらく、現実。

 

 

 とりあえず地面に降りようと試みると、謎の原理で高度を下げてふわりと地に足を着けることができた。

 近くで見るとさらに生々しい。俺の体の一部はもはや原形をとどめていない。

 人間の内臓ってこんな形をしてるんだな、などという場違いな感想しか出なかった。

 自分の死体姿というわけのわからないものになんとなく嫌悪感を抱いたので足で蹴ってみようとしたがすり抜けた。

 ちらりと周りを窺うが、野次馬や警察官は今の俺の存在に気付いていない模様。

 

 俺はひとり頷く。

 これはもう確定だろう。

 現在の俺は、おそらく幽霊というやつであって。

 俺、一条蓮斗いちじょう れんとは今ここで命を落としたのだ。

 

 

 

 

 さて、これから俺はどうなるのだろう。

 この世に未練がなければ成仏して天国か地獄かにでも行くのだろうか。

 

 未練。

 俺の未練といえば、あのゲームをやりこむことができなかったこと。ゴルゴンゾーラのパスタやチョコレートケーキを結局食べることができなかったこと。両親に先立ってしまったこと。

 そして、俺の親友。二神遼也ふたがみ はるやの手がかりが掴めなかったこと。

 

 まあ前半二つはどうでもいいことだ。その次も両親に申し訳なくは思うが今更どうしようもないし、未練というほどでもない。別に俺はもう賽の河原で石を積むような年齢でもないはずだからまあ多分大丈夫だろう。何が大丈夫なのかは知らない。

 だが最後のひとつについては、もしかすると俺がこの世に縛り付けられる未練になりうるのかもしれない。

 

 遼也のことを思い出す。

 彼はいつもにこにこと笑っている優しい奴だった。逆に俺は何故かいつも不機嫌そうだと言われるような人間だったので、うまく釣り合いがとれていたような気がする。

 俺よりもよく口が回る遼也は俺をよくからかって楽しんでいたが、そんな時は仕返しとして対戦ゲームでぼこぼこにしてやった。その後にリアルファイトに発展することも時々あった。同様にぼこぼこにしてやったが。

 普段も遊ぶ時も主に振り回す遼也と巻き込まれる俺という構図になることが多かったのだが、毎回最終的には二人で一緒に騒いでいて、近所の人からうるさいと時々怒られたりもした。

 互いに他の友達はそれほど多くなく、暇な時はいつも二人でつるんでいた。

 今思えば互いに依存している部分もあったのだろう。

 

 だから、彼が消えてもう見つからないのだと理解はしていても、俺にはやはり納得などできていなかったのだ。

 俺自身が死んでしまった以上、今から探して彼を見つけたとしても、もう大して意味は無いのかもしれないが。

 

 

 さあ、困った。

 断ち切れるとも限らない未練を抱えた地縛霊にはなりたくない。

 かといってどうすれば成仏できるのかもよくわからない。

 ため息をついて、とにかくこの状況をどうにかする手がかりはないかと周囲を見渡すが、ある一点を見て俺は動きを止めてしまった。

 

 

 いつの間にか俺の近くに立っていた人物がいた。

 その人物は俺のことを認識しているのか、まっすぐこちらに目を向けている。

 俺と同じように体が透けたその人物の顔を見て、俺は目を見開いた。

 

「──!」

 

 見覚えのありすぎる顔。ずっと探していた顔。

 お前は、行方不明になっていた遼也じゃないか。

 どういうことだ。何か口に出そうとしても、言葉にならない。

 何故ここにいるのか。何故体が透けているのか。あり得ない状況に混乱する。

 だが、にこりと笑って小さく片手を上げた目の前の人物は間違いなく、俺がずっと探していた二神遼也その人だった。

 

「遼也、遼也だよな? お前一体今まで──うわっ」

 

「ちょっとごめんね、話はあとで!」

 

 問い詰めようとした俺の言葉をさえぎり、遼也は俺の腕をぐいっと引っ張った。

 そのまま彼は走り出し、俺をこの場から連れ出そうとする。

 俺は驚いたが、あとで話をしてくれるならと今は大人しく従った。

 

 死んだと思ったら幽霊になって親友と再会して誘拐される。

 全くもってわけがわからない状況だった。

 

 

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