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Wish to a shooting star ――流れ星への願い事――

作者: 時雨

「流れ星に三回お願い事を言えたら叶うって話、知ってる?」


夏休み目前のとある日の昼休み、唐突にそう尋ねられ、教室の机に座り本を読んでいた俺は口を開いた。


「……なんでそれを俺に聞く」


あぁ、こんな突き放したような言い方しかできない。

思ったことを素直に言えない。そのせいか、どこか冷めた口調になりがちな俺に近寄ろうとする奴は少ない。

しかし彼女は違った。いつも、何度も何度も笑顔で俺に話しかけてくる。


それが、俺には少し嬉しかった。


「知ってた?明後日はみずがめ座δ流星群が極大日を迎えるんだって!」


「知ってる」


嘘だ。そんなこと興味もなかったから知らなかった。

ただ、何となく知らない、と言いたくなかった。

話題が通じないと感じた彼女が俺から離れてほしくなかったから。


「流星群って綺麗なんだよねー!あ、ほら、うちの高校の裏側にある丘があるじゃない!あそこ、すごく綺麗に星が見れるんだよ!!絶対流星群も綺麗に見れるよね!!」


「ふーん」


それを俺に言ってどうするんだ。

思わずそんな言葉が頭をよぎったが、口には出さなかった。


俺はバッグから水筒を出し、喉を潤すために中のお茶を飲む。


「あ、今「そんなことを俺に言ってどうするんだ」みたいなこと思ってたでしょ」


「ゴフッ!?」


……危ない、今本気で吹きそうになった。


なんだこいつ、エスパーなのか。なんで俺の気持ちを読み取りやがった。こえーぞ、おい。

彼女はその様子を見て、フフフッと笑った。


「その様子を見る限り、図星だったんだね!」


「……なんで…」


わかったんだ、というところを言わずに尋ねてしまったが、意味は理解してくれたようだ。

何かめちゃくちゃニコニコしながらクスクス笑ってる。


「だってキミ、わかりやすいんだもん!顔に出てるよ」


おかしそうに笑う彼女。その逆に顔を顰める俺。


他の奴らからはわかりにくいとか表情が読めない、とよく言われるんだが、どういうわけかこいつはわかりやすいと言う。

他が普通で彼女が異様に聡いだけか、彼女が普通で他が鈍感なのか。


そんなことを考えながらまたお茶を口に含む。


「あ!それでね、話の続きなんだけど!

みずがめ座δ流星群、一緒に見に行こうよ!!」


「ブゴフゥッ!?」


……本日二回目だが、吹きそうになった。


なんて唐突にけっこうすごいことを言い出すんだ、こいつは。

……とりあえず、もう吹きそうになるのは御免なので、お茶を飲むのはやめることにした。


「ねえ、ダメかなぁ?私、キミと一緒に行きたいんだけど」


……そんなことを言われても、困る。俺の気持ち的に、すごく困る。

彼女は、俺の気持ちに気づいているのだろうか。

……いや、気づいていないからこそこんな提案をするんだろう。

それを思うと、少し寂しかった。


しかし、せっかくの彼女の提案を無下にしたくはない。


「俺でいいのか?お前なら他に誘う友達いるだろーが」


……やはり、俺は突き放すことしかできないらしい。

せっかく誘ってもらえたのに、そしてそれが何よりも嬉しいはずなのに、俺の口からは憎まれ口をたたくことしかできない。口を開けばいっつもこうだ。

自分のこの天の邪鬼な性格が大っ嫌いで、いつも恨んでいた。

しかも、こんなところにまでその性格が出てくるとは。俺自身に呆れてものも言えない。

きっと彼女も、他の奴を誘うんだろう。そんなことを頭の片隅で思ったのに。


「ううん!私はキミだから誘ったんだよ!!一緒に行こうよ!!ね?」


「………っ…!」


あんなに突き放してしまったのに、彼女は笑顔でなおも俺を誘い続けた。


素直に嬉しかった。


だいたいの奴は、ああやって憎まれ口をたたくだけで離れていってしまうから。

俺も、少しは素直になりたい。彼女のように。


「……わかった。行ってやる」


今の俺では、これが精一杯だった。

精一杯の、彼女の提案への素直な返事。

しかし、彼女は満面の笑みを見せてくれた。


「よかったー!ありがとう!!じゃあ、明後日の11時に学校裏の丘で!家の方は大丈夫?来れる?」


「別に平気。俺、門限とか無いし」


あったとしても日が変わる前には帰ってくる、ぐらいのものだろうし、父親は単身赴任中だ。母親も仕事をしているから帰りが遅い。

それに両親共々、妙に流星やら星やらの天体観測が好きだから、きっと今回に限っては遅くなっても許してくれるだろう。


「じゃあ、明後日!楽しみだねっ!」


そう言った彼女の笑顔は今まで俺が見た中で一番キラキラと輝いていた。






























「あぅ~……」


「うるさい」


机の横に置いた椅子に座って、しょぼんとしている彼女。

机に置いて読んでいる本のページをめくりながら彼女の言葉を一蹴してしまう俺。

今日は約束の流星群を見に行く日。


……なのだが。


「なんでこんな日に限って雨が降ってるの……」


「知らん、雨にでも聞け」


ふてくされたように頬を膨らませる彼女。可愛いが、それどころではない。

正直言って、俺だって内心イライラしている。なんだってこんな日に限って雨が降るんだ。

約束をした一昨日も、昨日も、興味なさげな態度をとっておきながら、本当は授業に集中できないくらい楽しみにしてた。

なのに。タイミング悪すぎだろ、雨め。


「うぅ……せっかく楽しみにしてたのに……」


「………っ」


俯く彼女を見て、俺はよくわからない感情が込み上がってきた。

本のページを抑えていた手はいつの間にか拳を固めていた。


「……まだ」


「え?」


「まだわかんねぇよ。夜には雨もあがるかもしれない。だからそんな落ち込んでんじゃねぇよ…困るだろ…!!」


気づけば普段より大きな声が出ていて。彼女はきょとんとしていた。

俺としては顔から火が出る思いだった。あぁ、何を言っているんだ俺は。

他のクラスメイトには聞こえていなかったらしく誰もこちらを見ていなかったのが幸いだ。

聞こえていたら間違いなく公開処刑だ。恥ずかしすぎる。


だが、きょとんとしていた彼女はその表情に笑顔を戻していった。


「……うん、そうだね。まだわかんないよね!よーし、私まだ諦めないよ!ちゃんとてるてる坊主作っておくね!!」


……何にせよ、笑顔を取り戻してくれたのは嬉しかった。

俺でも、彼女に笑顔を与えることができたのだから。


……てか、てるてる坊主って。小学生か。


「あー!今「小学生みたい」って思ったでしょ!」


「…なんでわかるんだよ」


「何となく!……っていうか今肯定したでしょ!!もー!」


また頬を膨らませる彼女を見て、思わず笑ってしまった。

子供っぽい。

すると、今度はまたきょとんとしていた。


「何だよ」


「ふぇ~……キミが笑ったとこ、初めて見たかも……」


……そうだったか?


「でもさ。キミ、笑ってる方がカッコいいよ」


そういって笑ってくれるだけで、俺に先ほどとは違う、いつものあの感情が込み上がってくる。

嬉しさと幸せで、胸が締め付けられるような、暖かい気持ち。


「あっそ」


これが、天の邪鬼な俺にとって、今の精一杯な返事。





























夜。約束の丘に俺はいた。

……ただ、傘はさしていた。昼間ほどの降りようではないものの、小雨程度は降っている。

雨が降っているから、中止かもしれない。そう思ったが、来ずにはいられなかった。


しかし、彼女は来ない。

やはり、中止だっただろうか。それとも、俺と一緒なのはやはり嫌になったのだろうか。

たくさんの疑問がぐるぐると俺の中で渦を巻く。


10分経ち、俺は溜め息をついた。

誰も来ない。楽しみだったが、天候には逆らえない。


「……帰るか」


短く口からその言葉が漏れ、俺の足取りは家路へと向けられた。


その時だった。


「ご、ごめんねーー!!遅れちゃった!!」


慌てて駆け寄ってくる彼女をぽかんとした表情で見ていた。

来るとは思ってなかった。もう、来ないものだと思い込んでた。

たった10分待っただけなのに、何千年も待っていたような気分だった。

そう思ってしまうほど、俺は彼女の存在を求めているということなのかもしれない。

そんな思いがすとんと胸の中に落ちた。


「急いで来たんだけど……あぁ、もう10分以上もオーバーしてる!ごめんね!!」


「別に……俺、そんなに待ってないし」


本当は彼女が来なかった10分間を何千年、何万年も待っていたような気がするくらい、求めていたのだけれど。

さすがにそれは恥ずかしくて言えなかった。


彼女はにこりと微笑み、小さく笑い声を漏らした。

俺の怪訝そうな表情を見て、彼女は更に笑い声を上げた。


「ウフフッ!ねぇ、気がついてる?……雨、止んでるんだよ?」


「………え?」


思わず素っ頓狂な声が出た。

彼女は「気づいてなかったんだぁ」と笑っている。

それはいろんな意味で俺を赤面させるには充分すぎるものだった。

慌ててさしていた傘をたたむ。


「ほらっ!雲も晴れてるし、星も出てる!もしかしたら見れるかも!」


空を指差しながら瞳をキラキラと輝かせ、無邪気な笑顔を見せる彼女。

俺も無意識のうちに顔を上げていた。

驚くくらい、満天の星空。

何万光年も遠くからやってくる光が、暗く閉ざされた宇宙の中を道しるべのように優しく照らしているその光景。

唖然としてしまった。

彼女はそんな俺を見てにこりと微笑んだ。


「ね!星、見に来てよかったでしょ!キミの言う通り諦めなかったら、こんなに綺麗な星空が見えた!」


「……あぁ、そうだな」


そう思って、そう言ってくれるだけで嬉しい。

俺でも彼女の役に立てた。

そう思うことができるから。


「私は星が好きだから、よく見に来たりしてるよ。キミは?」


「……まぁ、嫌いではねぇな」


星は嫌いではない、なんて嘘だ。

小さい頃は大好きだった。単純に、見る回数が減っていったからいつの間にかどうでもいい存在になっていただけ。

それでも、星は好きだ。

そして今日、もっと好きになれた。

大切な、彼女との思い出にできた。彼女と繋がるきっかけをくれた。


「あ、流星群!」


唐突に流れ出した流星群を、彼女は目を輝かせながら指差した。

お願い事しなきゃ、と慌てて祈りのポーズをとっている。

俺もゆっくりとだが、真似して流れ星に祈ってみた。


頼むから、この願い……叶ってくれ。


「よし!お願い完了!キミはなんて祈ったの?」


「……秘密」


「えー!!」


頬を膨らませて「教えて」とせがむ彼女を見て、俺は思わず笑った。


「お前が先」


「私の願い事?」


「あぁ」


彼女の願い事を先に聞いておきたかった。

天の邪鬼な自分では、どうにも最初に言うことができないらしい。


彼女はきょとんとした表情を見せた後、にっこりと笑った。


「私の願い事はね……


……キミとまた、こんな綺麗な星空が見れますように、だよ!」


「…………っ…!」


ただ純粋に、嬉しかった。

そんなことをわざわざ流れ星に願ってくれるとは。


「ねぇ、教えてよ!キミのお願い事!!」


今なら、自分の気持ちを素直に伝えられそうだ。

ふと、そんな気がした。


「俺は……


お前に、素直な俺の気持ちを伝えられますように。

そう、願った」


「素直に………?」


首を傾げる彼女に、俺は耳元に近づいて内緒話でもするかのように打ち明けた。


「――――――」


「…………!!!」


素直に言葉を伝えれば、彼女は顔を真っ赤にして。


そして…まっすぐに俺の目に視線を合わせて。


「私も」


と、笑顔で応えてくれた。





















『俺は、お前が好きだ』




























Shooting star. Thank you for fulfilling my wish.

(流れ星。俺の願いを叶えてくれて、ありがとう)





願い事がもし叶うとしたら。貴方は何を願いますか?


不意に思いついたお話です。


言いたいことをはっきりと言えない天の邪鬼な少年と、明るく言いたいことをはっきりと言える優しい少女。

真逆な少年少女のとある恋のお話でした。


読んでくださり、ありがとうございました。

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