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日常--学校--


 私にとってキセトは非日常における知り合いだった。病院へ行くのは私の日常ではなかったから、病院でしか出会わない彼は非日常の世界に住まう人だった。

 それも先日までの話。


 「転入生だ。ほら、自己紹介」


 「はい。焔火希狭道です。一応義務教育課程は終わってますが、入院生活が長く学校に慣れてません。よろしくお願いします」


 そう言って、彼は私の日常である学校に姿を現した。


 「焔火君は体育の授業以外はみんなと変わらないが、体が弱いそうだ。無茶や体に悪いことはさせないように。本人が一番分かっているだろうから、無理強いさせるなよ」


 それじゃ、ホームルームを続けるぞーと担任が力の抜けた声で発する。キセトは自然と空いた席である最後列の席に座ることになった。

 なぜこの学校のこのクラスなのか尋ねたいところだが、その席は亜里沙から遠い。五分休憩でもなんでもいい、時間が出来たら突撃しようと心に決める。

 チャイムが鳴って席をたったが、それは私だけではなかった。多くの生徒(女子生徒が多いのは彼の見た目のせいだろうか)が立ち上がり彼の周りに群がる。おかげで私からは彼の姿が見えなくなってしまった。


 (私の彼氏なんでしょう! 自分から私に寄ってきなさいよ!)


 心の中だけの悪態も彼に届くはずが無い。


 自分の席に戻ると友人が珍しいね、と声をかけてきた。


 「亜里沙ってああいう見た目が好み? 確かにかっこいいけどさー、亜里沙はもっと目立たない男子がいいんだと思ってた」


 「好みっていうか……」


 返事をごまかして自分の席に座る。あぁ、もう次の授業が始まる。そういえば教科書は持っているのだろうか。振り返って彼のほうを見てみるが、まだ人が溜まっていて良く分からなかった。


 結局お昼休みになるまで私に話しかけるチャンスはなかったのだけれど。お昼休みになるとお弁当を片手に持った彼が私の席までやって来た。それがきっかけでやっと話せたのだけれど。


 「えっと、前の席座ってもいいかな?」


 「いつも使ってないしいいと思うけど……、なんで転校なの? 通信教育とか言ってたと思うんだけど」


 「東さんが行ってもいいって行ってくれたから。まさかクラスが一緒になると思わなかった。ここならイカイも居るし、この学校ならいいらしい」


 「イカイ君は三組だっけ。ちょっと遠いね」


 私がいるこのクラスは一組だ。特進クラスの三組とは物理的に教室が離れている。そうかな? と彼は笑ったけれど休み時間に会いに行くのも面倒になる距離がある。


 「あっ……。ねぇ、イカイ君、来てるよ」


 「え? 本当だ。行ってくる」


 「いってらー」


 何気ない様子を装いながら飲み物に手を伸ばす。横から友人とクラスメイトの質問を受けながら。


 「亜里沙あのイケメン君と知り合いなの?」


 「えー、愛塚さんすごーい! どこで知り合ったのー?」


 「三組と知り合いなの? 焔火君ってー」


 親しい友人以外からの質問は正直鬱陶しいと思っていた。そんなところにキセトが戻ってきて、様子を見にきただけらしい、と一言説明を入れて私の前に座りなおす。

 私は周りの質問を打ち切る意味も込めて、彼、イカイ君のお兄さんなの、と言った。


 「えっ、イカイ君って同級生だよね? 年上なの?」


 「イカイ君って不知火だよね? 苗字違うの?」


 質問の矛先がキセトに向いたので、私は食事を再開させる。キセトは戸惑いながらも一つ一つ質問に答えていた。


 「入院生活が長くて、学校に行けてなかったから留年? したも同然なんだ」


 「――弟は祖父に育てられたから祖父の不知火姓を名乗ってるんだ。俺はずっと病院のお世話になってたしそのまま両親の焔火姓になってるだけ


 へー、と周りが納得して、また次の質問が出されようとした。流石に食べる時間がなくなってしまうからか人数は減っている。


 「それより食べる時間なくなるよ? 薬、出てるんでしょ?」


 「あぁ、そうか。午後も授業があるんだよな」


 ゆっくりと食べる癖がついているキセトはお弁当を半分以上残して薬を出した。お弁当に蓋をしてしまって、薬を飲む。


 「今日、午後一番の体育なんだけど。その、見学なの?」


 「ん? あぁ、体育は見学。流石に東さんも許してくれなかった」


 当然だろう。彼は数日前まで病院で管につながれて生きていたような人なのだから。退院できただけでも十分なはずだ。


 「いい? 何があろうと参加しちゃだめなんだからね!」


 誰かがスポーツをするところは彼も見たことがあるだろう。ただし、それは全て画面を通したもので肌で感じたことは無い。高校の授業レベルとはいえ、それが始めてみる生のスポーツなら感動してしまうかもしれない。そんなときに誘われたら、彼だって動かしてみたくなるかもしれない。

 私はそう思っての忠告だったのだが、彼には通じなかったようだった。


 「愛塚! あいつ、急に苦しそうに!」


 女子のほうにまで男子が私を呼びに来た時に、すぐにやってしまったんだとわかった。病院の外に出て初めて見た自在に動く体にあこがれてしまったんだろうか。自分もそうできると勘違いしてしまったのだろうか。


 「もー……」


 様子を見に行くと思っていたよりは平気そうだった。ただ胸を押さえて壁側で体育座りをしている。少し呼吸も荒そうだった。


 「バスケだったんだけどさー、シュートだけなら大丈夫だと思ったんだ。スマン!」


 体育はほぼ全て生徒側が取り組みを行っているため、教師の目を盗んで数本シュートを打ったのだと説明された。コートを走ったりジャンプを繰り返したりはしていないと聞いて胸をなでおろす。


 「今日は帰りなよ。明日元気な顔見せて。……というわけで東さんに連絡入れるから」


 「………」


 彼からの返事はなかったが私は自分が言ったとおりの行動をした。迎えにきた東さんもキセトの姿を見て安堵した様子を見せていた。


 「じゃ、つれて帰る。先生のほうには話通したから」


 「はい」


 「思ってたほどじゃないし明日もこれるさ。ただ体育は見てるとやりたくなるかもな。保健室で休むように言っとく」


 「分かりました」


 東さんはさっさとキセトを車に乗せてしまってバイバイも言えなかったが、まぁ明日も来るといったのだから大丈夫だろう、と。


 * * *


 私の日常と非日常の境を狂わせた、キセトにとっての初めての学校はこのようにしてすぐに終わってしまった。



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