彼--ホムラビキセト--
私が彼に初めてであったのは十四歳の時だった。
母が勤めている大病院のある一室にて、院長先生の孫の話し相手になってやってほしいとのことだった。
「こ、こんにちは」
私の彼に対する第一印象は、生きてるのかな? だった。
彼の名前は病室のネームプレートで知った。ホムラビキセトと書かれていた。院長先生は不知火という名前なのに、名前が違うんだと思ったからよく覚えていたのだ。
キセト君と呼ぶと、彼は複雑そうに笑っていた。腕の袖の中に消えていく点滴のチューブ。服の中にのびていく機械のコードらしきもの。伸びきった髪はぼさぼさだった。
「こんにちは」
意外に声は強い印象を受けた。ベッドに寝転がったまま、彼は挨拶してくれたけれど、私には気持ち悪いとしか思えなかった。
「お母さんの患者さんなんでしょう? 院長先生の孫なのに院長先生に診てもらわないの?」
「院長先生は院長先生にしか治せない患者さんがたくさん待っているから仕方が無い」
院長先生には死体すら治せるんだろうか。
だって、今目の前にいる「キセト君」より重傷な患者なんて、そんなもの死体ぐらいしかないだろうに。そして「キセト君」に院長先生の手が回らないのなら、院長先生は死体でも直しているのだろう。
「変なの」
「俺は体が弱いだけだから。それより愛塚先生の娘さんなんでしょう? 将来の夢とか、病院の外の話とか、聞きたい」
「病院の外は広いかな。とりあえず制限されない感じ。将来の夢はお母さんよ」
「お母さん?」
彼が不思議そうな顔をしているものだから私も説明が足りなかったと思った。
「お母さんみたいな医者になりたいの」
「あぁ、そう言うことか。立派な先生になりそうだ。そうだね、立派な先生になったら、俺と結婚してよ」
その言葉をその時の私は流してしまったのだ。私は次ははさみを持ってきて髪の毛を切ってあげると言った。彼はありがとうと言って咳をした。母が病室へ入ってきて彼にもう休むように言った。彼は素直に目を閉じて死んだように眠ってしまった。
その言葉がプロポーズだと気づいたのは次に彼と再会したときだった。