理想像
考えたことはあるだろうか。
自分のできる可能性について、考えたことはあるだろうか。
やる前から『自分にはできないことだ』と諦めていることは、ないだろうか。
自分の心に蓋をして、やりたいことを抑制してはいないだろうか。
自分の可能性は、自分が信じてあげなければ意味がない。自分自身ができると思わなければ、人は逃げてしまう。
逃げる生き物であるが故に、周りから浮かないために、人は逃げる。自分のしたいこと、自分ができること、やれること、やってみたいこと。
それら全てを、諦めていることはないだろうか。
挑戦してみよう。頑張ってみよう。奮起してみよう、自分ならやれるはずだ。一歩を踏み出すだけだ。やらなくちゃわからないだろ。
そんな言葉を耳にはしても、実行するだけの勇気をもてない。踏み出せる自信がない。支えが欲しい。誰でもいい、自分の行いを認め、正しいと言ってくれる人が、欲しい。
だからだめなんだよ。
自分自身に否定された。
お前は他人に甘えすぎだ。やるべきことは、自分自身で決めることが前提条件なんだよ。甘えるな、縋るな、守ってもらうな、支えてもらうな、正当化の理由を、他人に押し付けるな。
後押しなんてない。自分自身を押すことのできない人間は、どこまで行っても弱いだけだ。
ふざけるな。間違うな。己の行いに、他人を巻き込むな。己の行いには、己自身で尻を拭え。他人に支えてもらいたいなら、確固たる自分自身の心を忘れるな。
忘れた人間は他人に縋る。忘れた人間は他人に罪を擦り付ける。彼が、彼女が、君たちが。あなたが友達が親が先生が上司が部下が後輩が、僕にそう言ったのだ。だから。
『だから』なのか?
僕は自分の網膜に映る存在に問いかける。視神経が認識し、脳内処理されたその存在に、問いかける。
弱い自分。弱すぎる自分。甘える自分。涙もろい自分。人と関わり合いになるのが苦手な自分。
その存在は、口の端を吊り上げて、黒い世界でもわかるほどに三日月のような口をして、僕に笑いかけた。
だから。この続きは、言わなくても理解しただろ?
間違えてはいけない。誰もが続きの言葉を想像したように、お前はおまえ自身に嘘をついてはいけない。それは、逃げじゃない。愚考で愚行な愚か者のすることだ。
僕は、その言葉に微笑んだ。
目の前の存在は、大笑いをする。
笑顔がステキなその存在は、僕へと歩いてきて、体と身体が触れ合うところまで近づいてきた。
優しく厳しい存在。正しく勇気ある僕。憧れた僕の理想像。笑顔がステキな夢の人物。
一歩、踏み出せる決意はしたか?
耳元で、僕の方に顎を乗せた君は、憎たらしくそう言った。
だから、僕は負けじと言い返す。
わからねーよ。
精一杯の、悪あがきだった。