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ターイズの祭り

 次に訪れた街は、やけに華やいでいた。街の市場には豪華な食材が並べられており、ターキーも出回っていた。家々は装飾され、観光客も目立った。まるでクリスマス前のような雰囲気が漂っていた。

「シャル、キャビアあるよ!」

「俺食ったことない」

「おいしいよ、プチプチしててさ」

「プチプチしている、はおいしいの理由にはならないと思うぞ」

 いつにも増して色彩豊かな市場を歩きながら、スピッキーとシャルはそんなやり取りをしていた。

「何かあるのかな」

「だろうな」

 二人が辺りをきょろきょろと見回していると、観光客だと目を付けた肉屋の主人が話しかけてきた。

「お二人さん、ターイズの祭りはどうだい?」

「ターイズの祭り?」

 二人が声を揃えて尋ねると、主人は呆れた様子で頭を振った。

「何だ、知らないのに来たのか?ここら辺じゃ今、祭りの真っ最中だよ。昔ターイズっていう地元の名士がいてな、この街の飢饉を救ったことに由来して、食料のとれにくいこの時期に、豊かな生活ができるようお願いする祭りだ」

「へぇ~。だからこんなに賑やかなんだ」

「ターイズの祭りにはウチの肉だ。濃厚な旨味と祭りの雰囲気がぴったり。買ってくかい?」

 言葉巧みに商品を宣伝する主人に、スピッキーたちは苦笑いしてその場を離れた。買いたい気持ちは山々だが、如何せん貧乏旅行だ。

「シャル、お祭りだってさ」

「この街の中心はどっちだ?行ってみよう」

「お祭り見てくの?」

 スピッキーが目を輝かせて聞くと、シャルはにっと笑って言った。

「ライヴをするのさ」


 シャルに言われるがまま、スピッキーは後をついてきた。街の中心にある広場には、穀物や野菜の豊穣を象ったオブジェがあり、その前は屋台やステージで賑わっていた。

「ほらスピッキー、ステージがある」

「本当だ。でも僕たちが使えるのかな?」

「まぁ、物は試しさ」

 シャルがステージスタッフとみられる若者に近づく。彼に頼み込もうという腹らしい。

「ねえお兄さん、俺たちそのステージで飛び入りライヴをしたいんだけど、できるかな?つなぎの部分に入れてくれればいいから。機材は必要ないし、勝手に自分たちでやる。時間が来たらすぐにどくから」

「じゃあ、次のステージが終わったら適当にやってくれ。時間が来たらこっちで合図するよ」

 拍子抜けするほどあっさりと承諾された。こんなにすんなりいったのはこの旅初めてのことだ。

「こういうお祭りって、無礼講だからライヴも結構あっさりやらせてくれるんだ」

「へぇー。でも、やった。ライヴだ。こんな楽しそうなところで」

「あのマジックショーが終わったら出番だ。すぐ出れるようにしとくぞ」

 二人は準備を始めて、ショーが終わるとステージに出た。

「こんにちは、カックローです!」

 スピッキーが付けたばかりの名前を叫ぶ。聴衆からは拍手が送られた。

「急遽ライヴさせてもらえることになりました。少しの時間お相手よろしくお願いします!

 Devil

Hey!Angel.My name is devil.

その顔は世界を幸せにするための仕事に

疲れて嫌になっている顔だろ?だったらどうだい

俺と一緒に禁断の恋なんてしてみないかい?


世界を平和にする仕事なんてやめちまえ

人間共だけで勝手にやってるからさ

俺たちの時代も出番ももうなくなっちまった

だったら下見てないで俺とキスしようぜ


Hey!Angel.俺との恋は楽しい?

どうせカミサマにはもう全部ばれてるさ だったら

他の色んな目なんて気にせずに俺らの世界

独自に作り上げていこうぜ 誰にも邪魔させない


ねぇエンジェル 君は本当に優しいね

まだ下のヤツラのこと気にかけてるのかい?

でもエンジェル俺たちの時代はもう通り過ぎた

キスするときは何も考えず忘れてくれ


Hey!Angel.My name is devil.

君に告白した時のことを覚えてる?

禁断の恋ってやつもスリリングで楽しいだろ?


世界を平和にする仕事なんてやめちまえ

人間共だけで勝手にやってるからさ

俺たちの時代も出番ももうなくなっちまった

だったら下見てないで俺とキスしようぜ


 ありがとうございました!ええと、僕たちは今日この街に着いたんですけど、お祭りってこともあって、すごい活気があって賑やかな街だなって感じました。人の幸せがいっぱい溢れてる感じ。ここに来てよかったと思えるし、また来たいと思います。次はこの曲。

 足跡

まばらな僕の足跡は何を残すんだろう?

何も残しはしないさ 生きたという証明ですら

できなくて 人生の足し算引き算もできない

まだまだこれからなんて謳わないでよ


でもね 僕らは今を生きるためにこの世に生まれてきた

その足跡を振り返ってごらんよ 君が寄り添ってる

君と二人なら生きたという証明ができるはずさ


まばらな僕の足跡に二つ寄り添う足跡

君はついてきてくれるのかい?何もない僕に

人生の引き算は足し算に 一体いくつまで

足されるんだろうね?君となら永遠に


僕についてきた君の期待を裏切ったらごめんね

だけどお願い 離れてはいかないで 僕にとって君は

かけがえのないものだから なんて洒落た言葉かな


僕らの足し算はまだ続くんだよ

僕らのこの足跡と同じだけ足されて

時には引かれながら生きるんだ


だから僕らは今を生きるために生まれてきた

もう足跡は振り返らなくても大丈夫 だって横に

君という存在が確かに生きているんだからね


 MOONLIGHT

窓から差し込むmoonlight

その明かりさえ今の僕には眩しくて

音楽聴きながら光を見つめてる

暗く光るギターがこっちを見てる

そのギターに君が重なって見えるのは何故?

静かに響く音楽が僕の心の傷少しだけ癒す


君のこと忘れられないのは

君のことまだ愛しているからだね

こんな僕ほど哀しいもの

今の世界にはないんだろう


窓から差し込む光が 僕の

深い心の傷もっと深くして

僕はただひたすらに苦しむだけなの?

暗く光るギターが『弾いて』という

ギターを鳴らし そこから出るのは悲しい音

静かに響く音楽が僕の心の傷さらに深める


ギターの音色で君のことを

忘れられると思ったのは間違い

余計思い出してしまう

涙出すなんて格好悪い?


君のこと忘れられないのは

君のことまだ愛しているからだね

こんな僕ほど哀しいもの

今の世界にはないんだろう


静かに響き渡るギターの

音色を聴きながら君を思い出す

思い出した君は笑って

僕のことを見つめてくれた


静かに響くギターが君のこと愛してると語ってる」

 曲を歌い終わると、後五分で終了の合図が出た。次が最後の一曲だ。

「そろそろ時間の方がなくなってきたみたいなんで、次で最後一曲になります。今まで聴いてくれてありがとうございました、最後はこの曲です!


 Petal

僕が持つ花が一片散った

残りの枚数は五枚

僕らの終わりへのカウントダウン

このカウントを止めるのは君だ

君はカウントを止めてくれるのかい?

無理だろうね 君は振り向いてくれないから


また一片花びらが散る

花は花びらがあってこその花なのに

花びらのない花なんて

メイクをしていないピエロのようなもんさ


僕は自分で花びらをちぎった

残りの枚数は三枚

僕は終わることを望んでいるの?

自分でさえもわからなくなった

綺麗な花だったはずなのに今は

見る影もない 後に残るのは茎だけだよ


また一片花びらが散る

カウントダウンは確実に終わりへと

今だって近づいている

ノーメイクのピエロが踊れると思うかい?


また花びらが一片散った

残りの枚数は一枚……


でももう散らせはしない

例え茎だけになってもいいじゃないか

それが二人だというのなら

ノーメイクだってピエロはいつでも踊る


 ありがとうございました、カックローでした!」

 スピッキーが叫んで手を上げると、観客は歓声を上げた。祭りの高揚感も手伝って、このライヴは大成功だ。カックローの二人はステージから降りて、祭りを楽しむことにした。



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