出会い
僕しか知らない秘密の場所にて。
スピッキー・ダールは近所の空き地で、夕日を眺めていた。見る人がいればおおよそ感嘆するだろう、とても見事な夕日。
スピッキーは無言で、ただ落ちていく夕日を静かに眺めた。ゆっくりと、しかしいつの間にか夕日は地平線の向こうに消え、辺りは闇に包まれ始めていた。
自分だけしか知らない道なき道を辿って、スピッキーは道路に出た。家へ帰ろう。そうすれば夕飯が待っている。
「あのー」
そう思っていた矢先、唐突に声をかけられた。そっちへ振り向くと、金髪碧眼の少年が立っていた。顔は幼く、自分と同じくらい。短い金髪は立っていて、特にどうと言って特徴のない少年。少年が何かの犯罪の犯人で、話を聞きに来た警察に特徴を聞かれても「特にありません」としか答えようのない平々凡々な顔つき。けれど、多分警察には真っ先にこう言うだろう。「ギターを持っていました」と。
「道に迷っちゃったんですけど、大通りに出る道を教えてもらえませんか?」
その少年は申し訳なさそうに、頭の後ろを掻きながら言った。小刻みに動く、背負っているギターケースは大きくて、彼の体には不似合いだ。
「それならこの道を真っ直ぐ行けば通りに出ますよ」
スピッキーはそれに続けて「その通りを東に行けば大学がある」と言った。少年は厚く礼を言った。
「お仕事ですか?」
スピッキーは少年が背負っているギターケースを指差して言った。言ってから、我ながら声のかけ方がおかしいと思った。同い年くらいで、しかも今から仕事って。
「いや、仕事ではないんです」
案の定、即座に否定された。しかし少年は自分をどう説明しようか迷っているらしく、少し続きを躊躇った。
「仕事と言うより、趣味です。このギターを持って、世界を旅しているんです。色々な場所でストリートライヴをして、チップをもらいながら。今の時間なら人も多いし、大きい通りに行って弾こうと思って」
「世界を?」
スピッキーは驚いた。自分と同じような年の彼が、世界を旅している。凡そ信じられない。
「って言っても、始めたばっかりですけど」
彼はあははと笑って経験の少なさをごまかした。
「へぇ。旅か、いいなぁ」
「苦労は絶えないけどね。貧乏旅行だし。でも楽しいことの方が多いかな」
そう言った彼の顔は心底嬉しそうで、今までの旅がどんな様子だったか、物語っていた。
そんな彼を見て、スピッキーは興味が沸いた。同じ年頃の少年が、世界を旅している。ギターを弾いている。
「ねえ、ギター、見せてくれない?楽器はやったことがないけど、見てみたい」
スピッキーが彼の後ろのギターケースを指差しながら言うと、彼は快諾した。ケースから出てきたギターはアコースティックギターだった。スピッキーの想像上ギターイコールエレキギターだったので、少し驚いた。
「アコースティックの方がライヴしやすいんだ」
取り出しながら少年が言った。機材が必要ないらしい。
スピッキーはポケットを探って紙幣を彼に差し出した。
「リクエストは?」
「何でもいい」
そこで少年は少し悩んで、曲を決めたのかギターを鳴らした。音はクリアで、とても響きがいい。
「じゃあ、オリジナル曲をやるよ」
そういって彼は、ギターを鳴らし始めた。ジャカジャカと鳴らされるそのリズムに、彼の歌声が乗る。
曲が終わると、スピッキーは拍手をした。少年はお辞儀をして、ギターを方から外した。
「いい曲だ」
「ありがとう」
少年はギターをケースに戻して、再び背負った。
「そろそろ行かなきゃ。今日の宿代を稼がないと」
「その日暮らしで生活してるの?」
「うん。ご飯が食べたかったらライヴをする。バーガーは買えるよ」
少年はスピッキーと握手をして、大通りの方に向かって行った。
スピッキーはどうしてもそのまま家に帰る気になれず、彼の後を追った。
旅と音楽を組み合わせたくて書いた作品です。
中学2年生の時に書いた作品を大幅に加筆・改稿しています。
この小説は、あえて国の名前や地名をぼかしてあります。
皆さんがそれぞれに思う風景を楽しんでいただけたら嬉しいです。