一人の少年と少女
拙い話の内容でごめんなさい
あと、少し残酷な表現がありますので、苦手な方は要注意して下さい。
一人の少年と少女
此の世界に希望など在りはしない。
此の冥界には平穏なんて存在しないし、在って欲しいとも思わない。
<人>が望んでいた変わらぬ平凡な日々は、俺らの過ごしている今日であり、だがそれは<人>にとっては望まない今日だ。
俺らの変わらない、俺らの平凡な日々は、血戦に塗れ他者の存在を警戒する、そんな当たり前の日常。
当たり前とは言うが、その前にそれ以外の日々は知らないし、それしか知らない。
だから、此の世界に希望など在りはしないんだ。
希望と絶望の違いが解っても、俺らは本当の意味で比べられず、<光>が在ってほしいとは思わない――――――否、思えないんだ。
人界は滅され、闇と肌を突き刺すような痛い寒気が雪崩れ込む。
だが、少年にとってそれは全く障害ではなく、寧ろ陽光を知らず夜目が利く為好都合だ。
その特性は少年に限ったことではない。
「(――――――罪科は………<憤怒>か。四足型だけど核は最悪だな)」
少し癖のある銀白色の髪を肩上まで伸ばし、見た者を畏怖させる程に赫い双眸を持つ少年、<鴉煉>は、ガラクタの陰に身を潜めていた。
標的は今しがた同種の戦闘に悪戦苦闘しながらも勝利を収め、敗れた同種を啜っている最中の四足型の異形。
こんなモノ、鴉煉のような人型からすれば雑魚中の雑魚だ。能力は最低、動きは鈍く、獰猛な相貌をしているが中身には反映しておらず、非常に落胆させられる。
「(ま、殺しておいて損は無いか……塵も積もれば山となるということで)」
落としていた肩を戻しつつ、鴉煉は物陰からゆるりと出た。如何にも気だるげであるとその赫い眸が訴えている。
それは詰まり、『落としていた肩を戻したのに何の為かまた落とした』という無意味な心の変動を表しているのだ。
少年の気配に気づき顔を上げた<憤怒>四足型は、その赫を視認し硬直。
だがそれも一瞬、巨大な口腔を見せ威嚇し、耳を劈く勢いで咆哮を噛ました。
猛獣の如き異形が吼える大音声は衝撃波になり、周囲の瓦礫、ガラクタを乱暴に吹き飛ばす。
「この程度なんだ、流石雑魚の王者だね。………ハ」
相手への嘲笑を大いに交じらせ口の端を吊り上げる少年は、銀白色の髪を靡かせながら、自身の指の皮膚を搔っ裂いた。
じわ…と滲み出た紅い血は指の輪郭を緩やかに伝い始める。
そして鴉煉は軽く悪魔的な微笑を宿した儘、囁く様な声音で詞を諷詠した。
「罪深き此の身体が紡ぐのは 罪業に塗れし詞―――――――<顕現せよ>」
諷詠を終えたのとほぼ同時、紅き血が滴り落ちた――――――――刹那、<顕現せよ>に呼応して、手中に一条の紅き光芒が出現した。それは一瞬で形を成し、禍々しい雰囲気を身体全てに纏い付かせて此処に発現する。
鴉煉が顕現させたソレは、血のように紅く、災厄のように禍々しい、血で形作られた大鎌であった。
少年の赫い双眸と近似した雰囲気を漂わせる大鎌は、他者を恐怖に陥れ、畏怖させ、おぞましい威圧を発していた。
その全てに気圧された四足型の異形は、だが冷静な判断が出来ないのだろうか、自身が纏う憤怒に、激情に己を任せ、唯突っ込んできた。
―――――――それを、大鎌を手にした儘さらりと回避し更に異形の後ろ足に蹴りを一発お見舞いしてやる。
「隙だらけ、俺もそんなに暇じゃないからさ、死に方、選ばせてあげるよ」
バランスを崩した異形は危なげに着地し――――――
「首搔っ裂かれるのと、腹搔き裂かれるのと、縦に断たれるの………どれが好みかな?」
言葉など通じぬと分かっていながら問いかける少年は、禍々しい嗤みを浮かべ、大鎌で空を斜めに斬り下げる。
対して、異形は無意味な咆哮を上げながら地を蹴り上げ、少年との間合いを怒涛の如く詰めた。
迫り来る鋭利な爪牙が振り翳され―――――――――
「そういう答えは要求してない。というか、煩い」
それよりも幾段も速く繰られた大鎌の柄が異形の胸腔を貫いていた。それを引き抜いて、逆手から順手に持ち替え再び利鎌は胸部を襲った。
粘着質な音を立てるのは血が飛沫を上げるのと同じく、弾力のある肉片が周囲に散らばる。
振り下ろされた爪牙は空しく少年に掠りもしない。
大鎌を振り終えその勢いの儘、刳られた胸腔に片手を捩じ込み、何かを探すように弄る。
異形の内部は内臓がある訳でも骨がある訳でもない、唯ゼリー状の塊が集結しているだけなのだ。
その中で少年は一塊を強引に、引き千切るようにして異形から切り離した。
少年が取り出したのは、惨禍を招くような毒々しい色彩を放つ、人型が『核』と呼んでいるモノだった。『核』は異形や人型に更なる力を与え、『核』を摂取すればするほど、『核』が大きければ大きいほど得られる力は増幅するのである。
異形や人型、装甲兵器に『核』は存在し、人型も異形もそれらを狩り続けて日々能力を高めてきたのだ。
―――――――――純粋に、他者との闘争で勝利を獲得する為に。
『核』を切り離された異形は心臓を抉られたのと同じく、酷く苦痛に悶え激しい痙攣を起こし、その表情を残した儘息絶えた。
横で空しく事切れたそいつを気にすることもなく、少年はたった今手にした鈍色の『核』を口許へやり、角砂糖を噛み潰したような一度の咀嚼音を響かせた。
それは美味い訳ではなく不味い訳でもない、無味無臭の塊なのだが、鴉煉は口をへの字に歪めた。
「嗚呼……弱かったから『核』は此の程度かな……。もう少し腹が満たされるくらいの『核』持ってる奴いないかな…?」
片手に軽々と携えていた大鎌が文字通り霧散していく。
少年はいかにもつまらなさそうな、それでいて何故か格好の付いてしまう表情をしながら、延々と続く無残にも荒れ果て朽ち果てた辺りを見回した。
すると。
「戦闘になると急に性格変わるってソレ、なんか目の当たりにすると凄まじいね」
「何を今更。俺らどのくらいの付き合いだよ」
「う~ん…君が此のエリアにやって来て以来からだよ?何を今更って……ちょっとボケキャラ的な君が戦闘になると一気にドS化するのがわあ~おってって感じだったんだよ」
「待って。俺が何時ボケたんだよ、ていうかさっきまで盗み見してたのか?」
「ん……?まぁ、すこーーーーしだけね?ほんのちょこっとだけよ」
「悪趣味だ」
少年が引き気味で顔を引き攣らせると、同じような年頃の少女が必死に否定する。
彼女もまた、少年と同じ組織に属する人型だ。
温和な眸を宿す少女は、生まれ出でたばかりの鴉煉をいち早く見つけ、組織へと入れた唯一人の心許せる人なのだ。
「だからそんな悪趣味とか言わないで!お願いだからほんとにそんなつもりじゃないし…!」
「分かったよ、言わないから。駈が覗き見して変態だっていう事実は言ってしまうかもしれないけど言わないからさ」
「なああぁぁぁによそれええぇぇぇぇっ!!もういい!!ギッタンギッタンにしてペラペラにしてモノ言わせないようにしてやるんだからあああ!覚悟してよッ!」
「わー俺は拒否ね、そんなの願い下げだから一人でやっててよ、じゃ」
瞬敏にその場を去る鴉煉を怒り心頭で追いかける駈。
首根っこを引っ掴んでやったと思えばするりと逃げられてしまうが、それでも何故か此の日々が永遠と続きますようにと思う二人。
勿論、『核』を喰らい力を得り続けることも忘れてはいない。
全力で書いていますが、全然力が無いので色々問題点ばかりです。
謝罪致しますm(_ _)m
そして、読んでくださりありがとうございます!!
これからも、よろしければお願い致しますっ!!!!!!!