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心脳停止。

作者: 坂田佑助

手抜き小説です。ご注意ください。

【プロローグ】 

 「例え、死んだその先が無くても……天国とか、地獄とか、そういう世界が待っていなくても、死んだ後の自分の意思なんてもの関係ないでしょ。」

 私の友人が最後に言った言葉だった。そのまま、彼女は暗い穴の中に落ちていった。

 ごめんなさい、ごめんなさい……と謝りながら。

 その姿を見て、急に怖くなった私は、落ちた彼女を引き上げること無く、逃げたのだった。

 私があのとき、あの言葉を聞いたときに手を差し伸べていれば…彼女が最後に言った言葉と同じことを言いながら、走り続けた。忘れようと、記憶から抹消しようと。

 誰か……誰か助けて。



【過去現在過去】

「尚、おはよ。」

 廊下の賑やかな音たちの隙間を縫って私の元へ挨拶が届く。それに対してただ、おはようと返すだけ。

 毎日が繰り返しで、これ以上変わったことなんて起こりうるのだろうかと、疑問を抱く。

 席に着いた前原尚はいつものように鞄を開き、荷物を机にしまい、鞄をロッカーへと置きに向かう。

「尚、おはよ。」

「あっ、麻穂じゃん!もう平気なの?」

 風邪で学校を三日間休んでいた菅谷麻穂が久しぶりに登校してきたのだ。

 麻穂は一番仲の良い友達。休み時間も二人でずっと喋っている。中学生で初めて出会ったのに、ずっと昔からの友達のように感じてしまう。彼女には温かさがあり、自分を包み込んでくれるような、そんな存在なのだ。

「あのさ、尚。」

「何?」

「休んだ分のノート貸してくれない?」

 何だ、そんなことか、と笑ってしまった。

「じゃあ、明日コピーして持ってくる。」

「ありがと。」

 その笑顔を見ていると、安らぐ。ずっと一緒にいたいな…。

 他愛もない会話をしていると、八時二十五分を告げるチャイムが鳴った。

「座んなきゃね。」

 麻穂に促され席に着く。先生はまだ来ない。

「皆おはよう!」

 担任が教室の扉を開けながら挨拶。何も変わらない朝の風景。

 窓の外を見ると、誰かが落下したような気がした。

 それは、長閑な朝の空や道路には余りに不似合いで、実際、落下したように見えただけだったから、気にせず授業を受けたのだった。

 その日はいつもよりも静かな一日だった。休み時間、移動ばかりしていたからかもしれないが、何だかいつもと違うような…そんな気がした。

「ね、麻穂。」

「何?」

「何だか今日、変な感じしない?」

「変な感じ?」

 しないけどなぁ…と言われてしまい、自分もはっきりとは分からないので、しこりを残したままその話は終わった。


 学校から出て、ようやく帰路に着く。久々に麻穂と一緒に帰る。

 そろそろ別れる道が近づいてるな…なんて考えていたら、ぞくっ…と背中が突然震えた。振り返る。しかし、そこには誰もいない。隣にいる麻穂が驚いてこちらを見ている。

「どうしたの尚、急に振り返って。」

「いや…何でもないけど…。」

そっか、と麻穂は前を向き直る。だけど、何だこの感じは。誰かに見られている気がする。嫌な予感がした。

「じゃあ、明日ノートお願いね。」

 あっという間に過ぎた時間と、心に残った怖さ。無理やり笑って麻穂と別れた。

 

 麻穂と別れてから、嫌な感じは全て消えた。家に着いても別に何も見られている感じもしない。何もなくなったのだ。

「ノート、コピーしなきゃ。」

三日分のノートをコピーして、ファイルに挟んだ。読み難いけど仕方ないか、なんて考えながら鞄にしまった。


 それからの日々は繰り返し。授業内容が進んで、話す内容が変わるだけで、やっていることは大体同じ。未来なんて無いよ、というように雲は流れて消える。

 だけど…だけど一瞬にしてその変わらぬ日々が変わった。本当に一瞬で。



【違うのは】

 「尚…私って何のために生きてるのか分かんないんだよね。」

「へ?ちょっと待ってよ、何急に…。」

 その麻穂の一言で、今までの関係が崩れた気がした。

「私思ったの。同じことの繰り返しをしててもつまらないなって。だから何か変化つけようよ。」

何のために生きてるのか分からないと聞いたとき、危ないことをしようとしているのではないかと思ったが、変化つけたいという誘いだったことに安心した。

 私はもちろん承諾し、いろいろなことに挑戦することにした。

 まず、手っ取り早いと思ったのは普段しないことをする。たったそれだけで普段の生活が変わっちゃうのだから早い。

「私は…じゃあ料理するよ。」

麻穂は意外と不器用で、料理は調理実習のときしかやったことがないそうだ。

「じゃあ、そうだな…あたしは…。」

「尚はさ、本読んでみたら。」

本か…確かに一冊の本を一気に読んだりしたことが無いな、と思い、それにした。

 一日中、本を読み、感想を書いて麻穂にメールを送った。麻穂の好きな本を借りて読んだため、しっかりと読んだか分かるようになっている。

 麻穂から返事が来て、そこには料理の写真が添付されていた。

『親が食べたらもう少し味気が欲しいだって。しょうがないじゃんね、作ったこと無いんだから(笑)』

 確かにこれだけで何か違う気がした。普段しないことをするって楽しいかも。

 それから、普段はすることの無い家事の手伝い、いつもより早寝・早起き、ご飯をゆっくり食べる…だんだんずれて来たが、楽しく生活を変えてみた。

 しかし、やることが無くなった頃に、麻穂の口から聞きたくなかった音が聞こえた。

「…死んだらどうなるんだろう。」

 絶対にあって欲しくなかった。麻穂の頭の中にそんな考えあって欲しくない。

「ちょ、何言ってんの。」

「私さ…最近悲しい。何をしてても悲しい。死にたくなってきちゃった。」

 死にたくなってきちゃった。その言葉を聞いて驚いた。だって、人生に変化つけて、マンネリ化した日々を変えて……

「死なないでよ、折角楽しく人生変えてきたじゃん!変化つけようって言ったのは麻穂だよ…。」

「私、はじめからそのつもりだったの。あのとき変化つけようって言ったのは全部、このためだった。」

麻穂がそれを隠していたという事実よりも、それに気づかなかった自分に腹が立った。

「何で言ってくれなかったの。教えてくれればよかったのに。」

「尚に迷惑掛けられない。そうだ、最後に最大の変化をつけよう。尚にも私にも。」

 意味深なことをつぶやき、学校の階段を上る麻穂を追いかけた。

 いや、このとき既に麻穂が何をしようとしているか分かった。怖かった。怖いよ…。それしか言えなかった。


 「ねえ麻穂、このまま死んだって嬉しくないよ…。私も麻穂も。」

「ねえ尚、天国ってあると思う?」

知らないよ…なんて言えずに、黙るだけの私が嫌になる。

「結局、死んだって、その後のことは何も分からないわけじゃん、残された人っていうのは。」

それ以上言ってほしくない。喋らないで…。

「だから関係ないんだよね、天国があるとか地獄があるとか。」

「…麻穂やめて。」

「例え、死んだその先が無くても……天国とか、地獄とか、そういう世界が待っていなくても、死んだ後の自分の意思なんてもの関係ないでしょ。」

 それだけを言って、麻穂は自らを学校の屋上から落としたのだった。

 ただただ後悔した。恐怖が迫ってきて、逃げ出した。走って、走って…。

走りながら思い出したことがあった。最悪。

 あぁ…あの時見えたのは真穂だったんだ。

あの時後ろにいたのは麻穂だったんだ…。つい最近の不可思議な出来事が全て線になった。あの時の嫌な出来事は全部、小さなSOSだったのだ。私はもうすぐ死ぬから、助けて。そう聞こえてくる。

 自分が情けない。

「尚。」

後ろから聞こえた気がして、振り返る。

「こっちきてよ。」

駄目だ、誘惑されるな。

「尚ってば。」

「ねえ麻穂。ごめん私、麻穂のためにしなきゃいけないことがあるから。見られると恥ずかしいから、無理。」

それだけ伝えると、麻穂は消えた。

 しかし私から、心が消えてしまった。

 麻穂に持っていかれた。心だけ。

 その後の私は、人形のように話しかけても動かず、喋らなかった。

『変化をつけよう。私にも尚にも』最悪の言葉だ。心を連れて行った。

そういえば、心を持っていかれても、声に出さないだけで感情くらいはある。だからこうして麻穂を少し恨んでいる。何でだろう。悔しい。恨めしい。

 あと、分からないことがある。謝ってたのは何で?勝手な憶測を並べてみる。心を持っていくことを謝ってたのだろうか、それとも…まだなにか?



【最悪の日】

 ごめんね、尚。

私耐えられない。命絶つよ。

 一緒に居たかった。

もしも、もしも尚が良いって言うなら、一緒に居ようよ。

 ずっと待ってる。

あるか分からない、自分でも分からない小さな世界で。


麻穂



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