09 おしゃれとは(哲学)
*第1話目の後書きに挿絵を載せました!
「わ、わかんない…似合うってなに…?」
「何を着ても似合うと思うが」
「ロードも分からないならカルルに分かるわけない……!」
一度宿屋に戻り置いていた荷物(金品は全て自分で持っていたが)を回収、とりあえず1週間分二人部屋を借りるための金を支払ってきた。受付に凄い目で見られたな。
シャワーを浴びせた後、カルルと共に再び外に出てきた。すれ違う全員に凄い目で見られたな。
それはともかくとして、女性用の普段着を買える店まで来た。
とはいっても、こういうことに関して俺は疎い。どの店に入れば良いかも良く分からないため、適当に決めた。
俺のセンスなんかより店員に任せた方が良さそうだが、こんな所にまで俺の顔は知れ渡っているせいか誰も話しかけに来ない。
結果として、服を買う金はあるがどう選べばいいか分からない二人でうろうろとする羽目になった。
「声もロードへの恐怖しか聞こえないよぉ…どれ選べばいいのかおしえてほしい…」
「これはどうだ?耐久値が高い」
「……さすがに、それは、日常で着る服じゃないと思う…」
肩にトゲトゲした物体が付いているものを勧めると、カルルは首を横に振った。
「服…服、だれか、何か言ってたかなぁ……うぅん、そもそも何が服に関連する単語なのか、わかんない…」
「ダンジョンに来る前に服を買っていただろう?あれはどこで買ったんだ」
「あれはね、スラム前の古着屋の方に行って、1番安くて身長に合うやつを3つ選んだの。そしたら、1枚は破れちゃって、もう1枚はめっちゃかゆかった…前まで着てたのはぼろぼろでどこの店にも入れなそうだし、最後の1枚をずっと着てる」
「肌触りと耐久性も考えないといけないのか…服選びとは、困難だな」
顎に手を当てて考えると、カルルは俺のことをじっと見て言った。
「ロードはその服、着ごごちが良さそうだよね…どうやって選んだの…?」
「これは冒険者におすすめって書いてあったやつだな。色違いをいくつか買った。それしか持っていない」
「強い奴は初期装備から変えろってロードが言われてたの、そういうこと……」
そんなことを言われていたのか。
「これはそもそも普段使いとして作られてはいないしな。…気を取り直して、これはどうだ?魔力適応度が高い」
「わあ、リボンいっぱい!…ちょっと多くない……?気のせい……?」
「確かにリボン以外の布面積が少ないか?」
これもダメか、と服を戻すと、カルルが何かに気づいたようにぱあっと顔を明るくした。同時に後ろからどすどすという足音が聞こえてくる。
「さ、さ、さっきから見ていれば!うちのどこにこんな、こんなダサい服が……!しかもそれをピンポイントに見つけてくるなんて……!それを着ていかれたら、お客さまが減ってしまうじゃないですか……!」
ピンク色の髪とは珍しい。話しかけてきた店員の顔をちらりと見ると、ひぃっ!と怯えた声を漏らした。
「カルルに、似合う服、えらんでくれませんか…?」
「口挟んで誠に申し訳ございませんでした殺さないでくださいぃぃぃ!!」
カルルの声は耳に入っていないのか、そう叫んでまた逃げられてしまった。…この店には初めて入ったんだがな。
「一瞬だったけど、聞こえたよ……!ロードの選んだ服は論外、ここの辺りの服で…えぇと、ふわっとしたのが、似合うって……!」
「ふん、よく分からないがこの辺りだな?目に眩しいピンク色の服から布面積が少ないこのスカートあたりか?」
「端っこは頼むから除けって聞こえた」
「なるほど」
心の声が聞こえるカルルのおかげで何とかなったが…そもそも、俺が店外に出てカルルが聞けば良かったのか?
…今更考えても仕方がないな。とにかく、これで普段着の問題は解決だろう。適当に靴下や鞄なんかの細々した物も選び、会計すれば終わりだ。
「…その靴下は頼むからやめてって言われてる……この、柄のないクリーム色?の靴下、の方がぶなん……?」
「ふん、キラキラしているから万が一の時に魔物の目を逸らすのに良いと思ったんだが」
「キラキラしすぎ?なんだって」
「靴はこれでどうだ?魔物に突き刺すのに使えそうだ」
「普段使いにはだめ…って言ってる」
「そうか…鞄は?」
「禍々しすぎるって……カルルも、よくわかんない……強そうなのに…」
……よく、分からないな。
古着屋の物に比べれば、全て新品だから何でもいいと思っていたが…何かダメな物もあるらしい。
「そうだ、下着も買うべきか。カルル、これは…」
「さすがに見ていられません!!こちらを!こちらをどうぞ!!ちょっと似合わなそうなのは回収させてもらいますんで!!」
「あ、ありがとう…!」
たたたっと走ってきた店員が、カルルに下着類や靴、鞄なんかを押し付け、俺が持っていた物もいくつか引っこ抜いて去っていった。
俺には判別が出来なかったが、いくつかダメな物が含まれていたのか。それにしても素早い動きだったな。忍者を彷彿とさせる。
まあいい、これでようやく全部揃っただろう。店員に怯えられながらも会計を済まし、店を出た。
インベントリにそれらをしまい込んだカルルは、上機嫌でぎゅっと俺の手を握る。
「こんなに服があるの、はじめて…!1回宿屋に戻って、着替えてみてもいい……?」
「ああ、当然だ」
そうして着替えたカルルに、買ったばかりの服はとても良く似合っていた。
くるくる回るカルルに合わせて白いスカートが翻る。上はマントみたいな形状の服だ。リボンが3つほどついている。
俺が選んだ物にもリボンがついていたが、何が違うのかは理解できていないままだ。異なっているのはリボンの数くらいだし、魔力適応度といった付加価値も無いようだが…?
そもそもカルル自体が可愛いのだから、何を着ても似合うと思うんだがな。
「カルル、次図書館行ったら、おしゃれに関する本読んでくる」
「そうか」
「うん!頑張って学んできて、ロードの服も選べるようになるね…!」
「確かに、ずっと初期装備を着ているのもあれか…?」
「めざせ、おしゃれ上級者…!」
…まあ、今のところは解決したのだし、これ以上考えても分からないことは分からないな。
「次は冒険者用の服か」
「うん…!」
「それなら役に立てるだろう。俺は面倒で同じものを着ているが…『看破』で耐久値などの付加価値が強いものを選べばいい」
…結果だけを先に言うならば。
俺が選んだ物をカルルに着せようとしていると知った周りの冒険者に盛大に止められ、嘆かれ、怒られた。…納得がいかないな。
ダンジョン産の物を選べば付加価値がついてくる。魔物の毛や角を用いて作られた物も同様だ。だから、それを選んだだけなんだが。
「付加価値より大事な物がある。特に女の子の着る服においてな。それは……デザインだ!」「お前は黙って座って待ってろ!」──だのなんだの色々と言われたな。
他にも、身につけていると火属性の魔法に対しての耐久度が上がるネックレスがあったため、それをカルルに渡そうとしたら非難轟々だった。
「スカルはやめろ!!それがプレゼントとか正気か!?」「アクセサリーを買うならここだ!ここに行け!」と無理矢理握らされた地図の場所まで移動中だ。
かわいいネックレスを買ってやれ、と言われたな。あとくれぐれもロードは選ぶなとも。
「……納得できないな」
「選んでもらったとんがり帽子とマントが、“かわいい”って一般的に言われるやつなんだって…!エドナさまのと似てる!……でも、ロードのと、何が違うんだろう?」
「スカルはダメだって言われたな。骨がそのまま残っていると付加価値も大きいんだが」
「うーん……魔物っぽさ?がだめだった?」
「冒険者に必要なのは強さだろう?……もしかして、身軽さか?魔物の皮や角を利用すると必然的に重くなる」
「身軽さが、かわいい……?たしかに、今着てるやつ、ふわふわで重くないかも……!」
「そういうことか。回避を優先させろと言う訳だな。…あとは、手触りか?魔物の皮だとごわごわしている」
「それだ……!」
カルルと話しているうちに次の目的地についた。
「ここか。雑貨店らしいな」
「わぁ……!小さい物が沢山…!」
「ここでネックレスを選べばいいんだな。軽さはどれもそこまで変わらないだろうし、付加価値で選べば良いだろう」
「……なんか、この後の展開予想できちゃったかも…」
二度あることは三度ある、と言うべきか。
俺が選んだものに対し、店員はオブラートにオブラートを包んで、わやわやと言った。
カルルが『強欲』で、『つまりダサいんだって…』と伝えてくるまでは何が言いたいのかよく分からなかったな。
「他にも色々とおすすめされたな。よく分からなかったが…」
「全部つけて帰ろうとしたら、アクセサリーはよく分からないうちは一つだけ…!って止められちゃったね…たくさん付けてた方が、かっこよくない…?」
「俺もそう思ったんだが。…店員の方がおしゃれに親しんできた時間が長い、癪だが素直に従うか」
ネックレス、ブレスレット、そして全ての指に指輪をしたのがダメだったのだろう。
反省したカルルが、1箇所なら良いだろうとネックレスを5つ程つけていた。
……土下座でもされそうな勢いで止められていたな。一つ一つの付加価値はゼロに等しいから、俺もたくさん付けた方が良いと思ったんだが。
釈然としないまま帰ることにした。服などを選ぶだけで一日が終わるとは…贅沢な使い方をしたな。
「屋台で夜ご飯食べない…?」
「そうするか」
ところで、魔物の肉は冒険者なら手の届く価格だ。屋台の食べ物も同様に。
スラムの人間は、金を稼ごうにも身なりが悪く、雇われず、食べ物を買う時にも足元を見られあまり食べられないようだが…
金を手に入れ清潔な服を着た俺達にはもはや関係の無いことだ。
「屋台で食べるの、初めて……」
「こんなので良いのならいつでも買ってやるが」
角ウサギを焼いた串焼きを食べながら、カルルはにこにことしている。
あたりをちらと見渡せば、野菜や乳製品なんかも売っていた。
それなりに食べ物が色々とあるというのは──有難いことではあるが。
魔物の肉ならどこでも豊富にあり、野菜や果実なんかも育てやすい気候。と来れば、3大欲求の食欲を満たすために料理が発展しそうなものなんだがな。
乙女ゲーム…あるいは異世界だからか。
食べ物の種類は山ほどある。だが料理法や味付けなんかは発展していない。
……ちぐはぐで気味が悪いな。
だからこそとも言えるが──第3王女の考案した食べ物は素晴らしいだのなんだの言う人間が屋台でも多く見られたな。
1度でいいから食べたいと、皆が口裏を合わせたかのように言っていた。
異世界人に都合がよく出来ている世界なのか?
…あるいは。このような世界で、異世界人はとても目立つだろう。
制限が掛けられていることや、忌み子との関係性もそうだ──何者かの思惑がそこにあるように思え、気味が悪くなってくる。
「第3王女様の考えたポテトチップス、それはもう天に昇るくらいうめぇんだってな…!」
「王都の人間は庶民でも食えるらしいぞ。はぁー…、ここが辺境じゃなければなぁ」
「油を沢山使うなんて、考えもしなかったよな」
ロード、と食べ終わったカルルに声を掛けられるまで聞こえてくる声に耳を傾けつつ、考えることに没頭していた。
「……誰か、こっち、見てる気がする……」
不安そうに眉を下げて、カルルは身を俺の方に寄せてきた。傍からは恋人同士が近づいているだけに見せかけつつ、あたりを見渡す。
怪しい人影は、目視できる範囲では見当たらない。
「……声は?何か言っているか?」
「……わ、わかんない……なんて言ってるのか聞き取れない…」
「そのまま伝えられるか?」
「うん……」
『 ª 』
渡された情報に、脳が混乱する。…俺の頭では、これを声だと認識していないな。
「…絶対に傍を離れるな。宿屋まで戻るぞ」
「……あれ、今、声が……『人違いだった、すまない』って……」
「見られているような感じは?」
「無くなった……」
困惑したままのカルルを連れて、急いで宿屋まで戻ってきた。
魔法をいつでも発動できる状態にしつつ、二人で身を寄せながらその晩眠らずに過ごしたが──
──結局、その後何も起こらなかった。
ロードは人に興味が無いので外見について語りません。服にも興味が無いので詳しく語ってくれません。
恋愛ジャンルの語り手に向いていない。
1話目の挿絵の服装をしています。
(カルルの服装がダサいと思ってもどうか心にしまってください。カルル達の世界でこれは『かわいい』です)




