08 冒険者ギルド
「すごい、カルル、魔術使えるようになってる…!」
「喜びすぎだ。…どのスキルも中になったし、これ以上は上がらないだろうな。上まで戻るか」
「最後の階層は行かないの?」
「最後だけ難易度がおかしいからな。踏破すること自体は出来るには出来るが…報酬と苦労が釣り合わない」
水や炎を出して喜んでいる姿はずっと見ていたいが、これ以上はこのダンジョンでは変わらないだろうと戻るよう促した。
あの後ダンジョンに潜り、3日ほどかけてカルルのスキルも全て中になった。俺の方といえば、あれからスキルは成長していない。
「あのボタンは押さないの?」
換金の際高額になりやすい魔物はそれぞれ解体してインベントリに入っているし、ここで手に入るアイテムももう何も無いな。
そう思い、最後の階段から視線を外した瞬間、不思議そうにカルルは言った。
「……ボタン?」
「あれだよ、あの大きなやつ!魔王専用って書いて…」
「俺には見えないが…?何にせよ、怪しいことこの上ないな。見なかったことにして帰るぞ」
「えぇと…超大歓迎!押して!何も怖くない!神殿に誓う!待って待って帰らないでくれ!って…」
「怪しすぎるだろう…!?帰るぞ!」
カルルの腕を引っ張り、その場から引き剥がした。
──このダンジョンに関する知識で、思い当たる物は無い。
魔王…?そんな存在、ゲームでは触れられていなかったが…。
ボタンがあるのであろう場所をじっと見ているカルルを連れ、55層から50層まで急いで戻る。
そこではダンジョンに設置されたテレポートが使えるので、それで一気に地上まで帰還した。
「魔王って…誰なの?」
「……知らないな。俺の記憶には存在しない」
「ロードでも知らないの?」
「……悪かったな」
「ん〜…じゃあ、一緒に調べる楽しみが出来たね!」
何でもないようにそう言ってから、カルルはいつの間にか手に持っていた白い石を、お手玉のように遊び始めた。
…これぐらいの言葉で動揺していたらキリがないな。
カルルにとって一番親しいのは…いや、三番目以内ぐらいには…俺なのだから、焦らなくても良いだろう。
荷物は全てインベントリにあることを確認して、町への道を戻り始めた。
「その白い石、何回か拾っていたが。何か特別なところでもあるのか?」
「うーん…なんとなく?」
1個あげるよ、と言って渡された。ひんやりとするただの石にしか見えない。
ふと思いつき、スキルを掛けてみることにした。『看破』は物の真価を見抜くことが出来るスキルでもある。
「『看破』」
──西の聖域にあった白い石。
東の聖域まで運べば何かが起きるかもしれない。0アスラ。
「値段はつかないな。東の聖域に運ぶと何かが起きるっていうのは…」
「聖域?えぇっと、神様関連のところだよね…?神殿とか?」
「東だけじゃ判別出来ないな。ここは西の一番果てだからな、ここから見ればほとんど全ての神域が東だ」
「たしかに…」
何かが起きるかもって言うなら、もうちょっと集めてもいい…?と言って、カルルは駆け出していこうとする。
大体の進路を逸れなければ良いかと思い、好きにさせることにした。
「何かあったらすぐに言えよ?」
「うん!」
許可を出した瞬間、ガサガサガサと音を立てて大きな植物の方へと突っ込んで行った。…思い切りが良すぎるな…。
声を出せばカルルにはすぐに聞こえるし、万が一の時には『強欲』ですぐに連絡が来るだろう。
俺は俺で、他にも『看破』を掛けながら移動することにする。
物の真価を暴くことも出来るスキルだと言うのに、俺は今までこの用途で使ったことがなかった。
…これもカルルの言っていた制限の一部か?全て自分が選択したことだと考えていたが…思考が歪められていたとはな。かなり不愉快だ。
──植物。
魔力で巨大化している。0アスラ。
──石。
ただの石。0アスラ。
──土。
赤色の土。微生物の働きが活発であり、腐葉土は少ない。0アスラ。
「……揃いも揃って値段が付かないな」
石と土はまあいい。
『植物』って…手抜きが過ぎるだろう?名前ぐらいは付けられていそうなものだが。
考えられるのは、俺自身の知識に由来している、とかか?植物なんかはあまり興味が無いな。
カルルの方が使いこなせそうだ。
元々、ステータスを覗き見してスキルや魔力を把握、自分に有利に戦うというのが主に使う用途だったからな…他の効能は微妙でも別に構わないが。
そうこう試しているうちに、カルルがガサガサと戻ってきた。
「ロード、何か面白いものあった?」
「特に無いな。カルルは?」
「白い石は20個ぐらい集めてきたよ〜、あとは…誰かの落し物?かなぁ、くつ下」
「捨ててこい!手を洗え今すぐ!」
「えぇ、でも見てよ、まだきれいだよ?」
「そんなに衣服に困っているなら俺が全部買ってやる!だから捨てろ!」
渋々といった表情でカルルはそれを向こうへと放り投げた。水を出して手を洗うところまで確認した。…町に戻ったら服を大量に買うか。
肩を落としていたカルルは、次の瞬間目を輝かせた。
「あ、森で木を切ってる人聞こえた!町に近づいてきたねぇ」
「もうそろそろか。…カルル、町に入る前に話しておきたいことがあるんだが」
「うん、なに?」
カルルの手を優しく取り、指を絡ませた。そのまま立ち止まったカルルの手を引いて歩き始める。
カルルはきょとんとした顔をした。
深く考える前に結論を出させてしまおう。──魔力で錯乱させる訳じゃない、それぐらいは構わないだろう?
「契約の、自分で身を守れるぐらいには強くなったよな?…婚約の事、隠さなくてもいいんだよな?」
「あ、そういえばそうだった…!うん、カルルはいいけど……?」
「咄嗟に取り繕ってもバレそうだからな。普段から慣らしておいていいか?神殿で契約しているとはいえ、第三者からの証言も婚約の存在証明に重要になってくる」
「そういうもの、なの?分かったぁ」
うんうんと頷いたのを確認しながら、手を繋いだまま会話を続けた。
「色々と噂されるかもしれないが…まあ、俺の悪評は広まりすぎているからしょうがないな?普段は気にしなくていいが、もしカルルに敵意でも向けてきたやつがいたら言え。俺が全員殴ってくる」
「……ロードって、喧嘩っ早いよね…」
「そうでもしないと学ばない奴らばかりだからな」
ふん、と言うとカルルは笑った。
「あとは…そうだな、集めた魔物の皮や角を換金すればそれなりのお金になるだろう。孤児院を出て、俺と同じ所の宿を取らないか?」
「えぇと……?」
「衛生環境が悪い。あの所に居続けたら病気になってもおかしくはない。…あとは、咄嗟の時にカルルを守りやすい」
「一緒の部屋に住むってこと?」
「……………そうしたいのなら、そうするが?」
「わぁ、よろしくねぇ」
………これぐらいで、動揺してどうする。…いや、これぐらい、ではないだろう…!?
「冒険者ランク、変わってるかなぁ?絵本も他に読みたいのがあるし…ロードの趣味も一緒に探して…何から始めようかな」
「…まず冒険者ギルドに立ち寄った後に、服を買いに行こうな?」
「えぇ、あのね、くつ下拾ったのは履くためじゃなくって、ちょっとは使えないかなとは思ったけど…でも、結構森の深いところだし、誰のかなって気になっただけで!本当に!」
「冒険者用の服と普段着を買いに行こう。多種多様な魔物の皮が使われていたり、デザインも豊富だ。靴が違うだけでも圧倒的に速度や力が変わることもあるんだぞ?今なら贅沢しなければ選び放題だな。…きっと楽しめるぞ?」
「えっ、たしかに…楽しそうかも…!」
…他の奴に着いておいでって言われても、着いていくなよと忠告しておいた。しないよと笑った。
──…知り合いだったから良いものの、毒の入ったリンゴを食べて図書館まで着いて行った前科があるんだよな。
町外れに辿り着き、人の姿がちらほらと見え始めるようになった。手を繋いでいる子供を微笑ましげに見てから、ロードに気づいてぎょっとしている。
この分なら明日にでも噂は広まりきっているだろう。
「凄い人の声……みんなおどろいてる」
「辛いか?図書館からまずは寄るか?」
「ううん、びっくりしただけ…!いつも、カルルに向けられてる声は全然なかったから……変な感じ。カルル、ここにちゃんといるんだ……」
「……慣れろとしか俺は言えないが。辛いならすぐに言え、これも俺が有名すぎるせいだからな」
「ふふっ」
何が面白かったのかカルルは微笑んだ。…辛くないのなら、いいんだが。
「今のところ、魔物に対する囮って考えてる人たちが優勢だよ」
「……婚約者だって考えている奴は?」
「えぇとね、女の子に見境ないクズって意見が」
「……俺の普段の態度が原因か……まあ、1週間もずっと一緒にいれば意見も変わるだろう。変な事を考えているやつがいたら聞くな。聞いても忘れろ。俺の声だけ聞いておけ」
「うん!」
カルルに聞かせたくないことを考えている奴らばかりだと思うと、全員片っ端から殴りたくなってくるが。…カルルは楽しそうに少し笑っている。
俺たちの姿を見て人がざわめいているのを聞きながら歩くうちに、冒険者ギルドに辿り着いた。
冒険者ギルドの扉を開いた瞬間、ギルドにいた人達の視線が一斉にこちらを向いたのが分かった。中には大きく口を開いて凝視してきたり、グラスを落としている奴もいる。
無視して受付嬢の前まで行き、『深淵』で足場を作る。
7歳だから身長が足りない。…それをからかってきた奴等は全員血の海に沈めておいたからな、もう何も言ってくる奴はいない。
「鑑定と買収を頼む」
「…は、はい、ただいま!」
「カルル」
「あっ…うん!カルルの分もお願いします!」
カルルの手は離さないままインベントリから魔物を出すと、背後がざわめいた。
後天的にスキルが増えるとは微塵も思っていない雑魚共だからな、勝手に言わせておけば良いだろう。
「ヘルハウンド、コカトリス、マンイーター……こちら、ダリアダンジョンの魔物とは色が異なりますが…」
「ふん。人の里付近の魔物じゃない、とだけ言っておこう。狩場を教えてやるほど俺は寛容ではないが?」
「……このレベルの魔物がダンジョン外にいるとなると…人の居住地に近づかれたら、人的被害が大きくなります。その情報に、嘘偽りはありませんね?」
「ああ」
魔物を預け、早く終わらせろ、と言った後ギルド内の椅子に腰掛けた。当然カルルの手は離さずに隣にいさせた。
視線を注がれているのが感じ取れる。手を少し強く握られ、思わずカルルの方を向いた。
『あの青いターバンの人、話しかけて来そう。えぇとね、何で俺の恋は砕け散ったのに極悪非道のロードは女の子をはべらせてんだ、って』
カルルの声が『強欲』で伝えられたと同時に、飲んだくれていた男が話しかけてきた。
「てめぇ…!俺の恋は砕け散ったってのに、クズとクソ高慢の濁りみたいなロードが女の子を侍らせてんだ…!離してやれ!可哀想だろ!」
「離してやれ?無理な話だな。こいつは俺の物だ」
ヒューッという口笛や、命が惜しくないのかと囃し立てるような声でギルド内が煩くなる。
それにびくりとしたカルルを引き寄せ、こつんと頭を当てた。ふわりとした髪に目を細め、そしてにやりと笑ってやる。
「八つ当たりとは見苦しいな?今の俺は気分が良いから見逃してやろう」
「お前ぇ……!俺は清純なる恋を楽しんでたってのに、てめぇは、てめぇは…!女の子を脅して傍にいさせるなんて、男として最低だ!決闘を受けろ!」
「おいジョン、お前の恋の相手ってお姫様だろうがよ〜!清純も何も姿すら見たことねえだろ!」
どっと笑いが起き、笑われた男は顔を真っ赤にして何かを罵った。
カルルすら困った顔をして、ちょっと憐れみの視線を向けている。
「顔を知らなくても第3王女アイラ様は俺の女神なんだ…!美しい女神をただ思いやる俺の恋と、この、このクソ野郎の、恋の言葉なんて一切相応しくないようなこのクソ喰らえな状態!どっちが清純だ!?」
「見苦しいな…それと、カルルは俺の婚約者だが?」
一瞬静かになったあと、思わず眉を顰めてしまうほどの大声量でギルドにいた人達が一斉に喋り始めた。
可哀想だろだのそいつは辞めた方がいいだの、随分好き勝手言ってくれるものだ。
「なっ、なっ……!この、この、クソ野郎──!!」
「カルル、俺のことをどう思ってる?」
「えぇと…一緒にいて楽しい人!一緒にいれて嬉しいよ」
「ほらな」
勝ち誇った顔で見てやると、無垢な少女を洗脳だのマジでマジのクソ野郎だの散々言われた。一層うるさくなる。…笑うしかないな。
俺の評判は元々地に落ちきっていたが、さらに地面が抉れてダンジョンでも出来そうな勢いだ。
「顔?やっぱり顔なのか?お嬢ちゃん、こいつだけは絶対にやめた方がいい」
「顔は良くても中身がドブ!」
「付き合うべき男ランキング堂々の最下位だ!」
「危険な男に惹かれる気持ちは分からないでもないけど、でもこいつだけはやめときなよ!同じ女からの忠告だよ!」
「良い所は顔だけだ!あとは全部クソ」
「こいつから逃げたいってんなら、冒険者一同手を貸すぜ!安心して頼れ!」
ぎゃあぎゃあと揃いも揃って喚かれる。カルルは困った顔で微笑んだ。
『こんなに皆が味方になったの、初めてかも…ロードって、信用無いんだね…?』
「カルルを除いて全員殴ってくる」
『深淵』に実体をもたせて殴り掛かる瞬間、ギルド職員が慌てて止めに入り、まぁまぁまぁまぁと他の部屋に押し込まれた。
買取金額の支払いが今までで1番早く終わり、職員用の入口だという所から帰らされた。決闘は困りますよ、と忠告を受けながら。
カルルはギルド職員にも心配されていた。もしもの時はギルドに駆け込めば必ず守るだのなんだの言われていたな。俺は信用が無いとして睨まれた。…納得がいかないな。




