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転生悪役令息ロードは、仮の婚約者から愛されたい  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)
第1章 アス国

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7/9

07 分水嶺

*ジャンルを恋愛に定めた影響で、ここまでのエピソードの主にロードの感情部分を大幅に編集しました。

話の大筋は変わっていません。執着度が跳ね上がったぐらいです。

「ロード」


 ダンジョンの入口へと急いで帰還し、待つこと3時間ほど。

 迷いのある表情で現れたカルルは、それでも俺のことを見て小さな笑みを浮かべた。

 そしておそるおそる、聞いてくる。


「……ロード、カルルのこと、怖くないの?」

「怖くないな」

「ロードが知られたくないこと、カルル、知っちゃうかもしれないのに……?」

「俺は別に構わないが」


 はく、と言葉にならない音を出して、カルルはぎゅっと自分の手を握りしめた。瞳を震えさせながら、俺のことをじっと見つめる。


「……カルル、忌み子だよ…」

「それがどうした」

「……行く時に、忌み子には、関わらないようにって言ってたの、ロードだよ……?」

「『捨てられた土地』の忌み子について話してたんだ。カルルについてじゃない。…俺は、お前との関わりを断ちたくない」


 疑いで目が揺れる。本心かどうかを必死に探ろうとしてくる。紛れもなく本心だが、それを信じてもらうのは難しいだろう。


「……カルル……人殺し、だよ?」

「お前は情報を伝えただけだろう。行くと決めたのはそいつらの責任だ」

「そ…それは、ちがくない……?そもそも、カルルが何も言わなければ、知らなかったはずで……」

「あのクソみたいな環境で、危機感が足りないならそいつらのせいだろう」


 泣きそうな顔になった。──泣かせたい訳では無いのは、本当だった。



 ──きっと、ここが分水嶺だろう。


 ロード・オルテルなら本心でない言葉も使い、言いくるめて、自分の目的のためだけを考えて利用するだろう。あるいは対話を諦めるか。



 俺は紛れもなくロードだ。

 そのはずなのに。返事が無い中で4日待ち続けた俺の体は不安で満たされている。


 目的のために利用する、それだけだったはずなのに。

 ──完全に執着が宿ってしまった。もう諦めるしか無いのだろうか。今婚約を解消したところで──いや、そもそも、もう俺からそんなことは言い出せはしないんだろう。


「ずっと、返事が無い間考えていたんだ。カルルの恐怖も…分かろうとはしたつもりだ」


 カルルに向かって頭を下げた。驚いたように後ずさる音がする。


「対話を諦めてしまって悪かった。……それでも」

「ロード……?」

「婚約は、続けたいと思っている。……俺が、今から言うのは、お前を利用するために言う言葉じゃなくて、本心だ。……聞いてくれないか?」


 躊躇うような顔をしたあと、カルルは頷いた。



「怖かったんだ。俺は、未来で思いを寄せた人間に拒絶されたことで国に滅びをもたらす。…それを回避するためでもあった婚約なのに……カルルに拒絶されたら、()()なるんじゃないかと思った。拒絶される前に拒絶しようとしてしまった」

「えぇと……?」

「…貴族になれば、加護で聞けることの危険度が跳ね上がることが、怖いんだろう?…その痛みを聞こうともせずに、対話を断ち切ってしまって、悪かった。あんな思いをさせるようなスキルを使わせてしまって悪かった」


 カルルは黙って、少さく頷いた。


「……カルルのためを本当に願うなら、婚約を解消するべきなんだろうが……悪い。婚約を解消したくないんだ。カルルにはそばにいてほしい。…カルルが嫌だと思うことへの対策を、考えるから……だから、俺と婚約を続けてはくれないか?」


 ──我ながら酷い言葉だ。

 カルルにとっては意味が分からないだろう。


「えぇと……ロードに、嫌だって思うこと言ったら、そのための対策を考えてくれる……の?」

「ああ」

「……婚約は、解消しないの?」

「したくない」


 目をぱちぱちと瞬いて、カルルは俺の顔をじっと見つめてきた。いつになく殊勝な態度に、意味が分からないと思っているような様子だ。


「…カルル、貴族には、なりたくないよ…?」

「特待生ならいいか?」

「特待生…?」

「オルテル家に推薦してもらえば、平民のままでも特待生としての試験が受けられ、学園に来ることが出来る。教育は最高水準のものだ。……知識を、知ることは出来るし貴族にもならない」


 首を傾げて、「…そもそも、ロードは、どうしてカルルに学園に来て欲しいの?」と聞かれた。


「…そこでの破滅の運命を避けたいんだ。そのためには、婚約者が必要で」

「平民としてでも、そこに行ったら、知っちゃいけないことを知る可能性が……ある、よね……?」

「……知ってしまっても、俺にだけ話せばいい。俺なら何を知ろうと死なないからな」

「ロードは……どうしても、その学園に行かなきゃいけないの?貴族になる必要もある、の?」

「………ああ、行かなきゃいけないんだ。行かなければ破滅に巻き込まれはしないし、カルルとの婚約も続けられ、カルルは恐怖のような感情を抱くことも無いが、でも、俺は行かないと…」


 ──行かないと、何だ?


 黙り込んだ俺に、カルルはもしかして、とぽつりと言った。

 腰に掛けていた短剣を取って、ぐさりと指に突き刺した。溢れ出す血に目を見開く。


「な、おい何してる!?」

「エドナさまが言ってたのと、あと、絵本に書いてあったの。異世界人を正気に戻すのに血が必要なのって………ロード、もしかして、異世界人って……見ちゃった予知の場所に、()()()()()()()()()()()()()()?」


 カルルが何の話をしているのかよく分からない。

 とにかく出血を止めなければ、と万が一を考えて購入していた回復ポーションを取り出そうとした。


「ロード、カルルのこと気遣うわりには、全然学園に行くことはゆずらないし……貴族になって予知の通りになりたくない、って言うのに、どうして貴族になろうとするの?」


 どうして貴族に?……それは、ロード・オルテルが辿らなければならない道筋で、辿らなければ……辿らなければ、なんだ?

 とにかく破滅の運命を回避するためには、貴族になって学園に、婚約者としてカルルに着いてきてもらう必要が──。


「ロード、忌み子の血、摂取すれば元に戻るかもしれないから、だから……えぇと……」


 血を、飲んで。と怪我した指を突き出してきた。

 どうにも出来ずに戸惑っていると、口元に指が当てられる。柔らかい指が唇に当てられた衝撃に、思わず後ずさる。


「な、何してるんだ、正気か!?」

「後でちゃんと話すから!」


 抵抗しようにも近づきすぎている。無理やり引き離そうと思えば出来るんだろうが、痛い思いをさせたくはないと行動が鈍くなる。

 その隙に口の中に指が入ってきて、血の味がかすかにした。



 ──かちゃん、と何かが外れた音が、頭の中で響く。



「これで!……えっ、ロード、顔真っ赤っかだよ!?えぇっ、熱でも出てきちゃった……?」

「…………お前な……!」


 顔が熱い。見るな、と顔を背けても大丈夫?と顔を覗き込んでこようとする。


「ロード、貴族にならなきゃって気持ちは、今はどんな感じ…?」

「それどころじゃないが…!?」


 どうしてこんなことを。執着してしまったとはいえ、それが重くなりすぎないように、抑え込もうと思っていたのに。

 こんなぐいぐいと近づいてこられたら、頭がおかしくなる。


「もしかして……足りなかった…!?もう1回…」

「やめろ!おい馬鹿!貴族にならなければという気持ちならもう消えた、だからやめろ!」


 ──思わず言ってしまってから、言ってはいけないことを言ったという違和感が、妙に喉元に残った。


 別に貴族になる必要なんて無い。学園だって行かなくてもいい。この国から出てもいい。

 主人公ならともかく、邪魔するだけのロード・オルテルがいなくなったところで──いや、いなければならない…?


「……俺は、学園に行かなくても、良いはずだ…?」

「ロード、まだ混乱してるの……?」

「おい、指を近づけようとするな!」


 カルルの手を握って口元に近づけられるのを阻止し、その隙に回復ポーションを掛けた。

 傷が修復されていくのを見つつ、頭の中を回転させる。


 もしかして、と思い自分に『看破オクルス』を用いた。


 ──状態異常にあった『異世界人』が消えている。



「……たしかに俺は、状態異常だったらしい。助かった。…やり方はどうかと思うがな」

「よかったぁ…!あっ、じゃあ…ロードは学園に行かなくていいし、貴族にもならなくてもいいから、婚約はもういらない…?」

「は?」


 え?とカルルは首を傾げた。気に入らないので頬をつまんだ。


「婚約は継続に決まっているだろう、お前、こんなことをして…ただで済むと思うなよ…!」

「えっ、カルル、助けたのに!?」

「助け方が大問題だ!絶対に他の異世界人に会っても同じようなことをするなよ…!」


 自分で言っておきながら、想像しただけでも思わず苛ついてしまう。


「えぇ……婚約、破滅の運命避けられたらいらなくなるんじゃなかったの……?」

「学園に行かずとも巻き込まれる可能性はあるだろ。8年後までは必ず婚約を続けてもらうからな…!」

「仮の婚約者は続行、ってこと?」

「当たり前だ!」

「えぇ……?ロードなら、すぐ解消すると思ってた」


 頬をつまんだままでいると、俺の顔を見てカルルは思わずと言ったふうに笑い始めた。失礼な奴だな…!


「ロードと一緒の方がカルルは楽しいから、婚約そのままでもいいけど…ふふっ、おかしな顔!」

「言質は取ったからな…!」

「あぁ、ふふっ、おもしろ……!」


 ひとしきり笑ったあと、カルルは俺の隣に座った。──近くないか…!?

 少し触れただけでも飛び跳ねそうになる俺を見て、カルルはまたおかしそうに肩を揺らした。


「いっぱい話そう、ロード。今ならちゃんと聞いてくれるよね」


 軽く睨みつけながらも頷くと、カルルは笑みを濃くした。



 ──それから、町に戻ってから会った『深淵の魔女』エドナさま、のことや、そのエドナさまの言っていたことなどをカルルは話してきた。


「ロードと一緒にいたいなって思ったの。だからたくさん、本を読んできたよ!」


 くそ。何で、これで、婚約は仮のままでなんて言ってくるんだ?


「他の人の声が聞こえたらロードのことを聞くようにして…本当は、何回も話しかけたかったんだけど、そしたら一緒にいたいって言っちゃいそうで…」


 言えば良かっただろう!?逆に何で言わないんだ…!



 俺一人だけ悶々としていると、カルルは話し終わったのか満足した様子で微笑んできた。


「ねえロード、貴族にならずに学園にも行かないなら、ロードはどうするの?」

「……そうだな、ダンジョンでも行くか」

「カルルも、ついていってもいい?」

「当たり前だ」


 やった!とカルルは楽しげに笑う。それから体重をわずかに預けてきて、目を閉じて言った。



「カルル、カルルの夢はね…いつか、皆に会いに行くの。ありがとうって言いたいから。……ねえロード、カルルね、波を越えた向こうにも助けてくれた人がいるの」

「波?」

「えぇと…『揺るがぬ波の壁』ってやつ。いつかその向こうまで行きたいの」


 は?と言葉が漏れた。子供でも知っている。その波は、別名──


「『帰らぬ波』の向こうに?」

「うん。今はまだ、波の前までも行けそうにないけど…大人になって、すっごく強くなったら絶対行きたいの!ロードは、渡る方法知らない?」

「……知ってても言うものか。おい、一人で行こうとするなよ。行くなら俺も連れていけ」

「すっごく遠い所だよ?帰ってくるの、ずっとあとかも」

「知るか、置いていくな」


 ふは、と笑ってカルルは身を離した。本気だと思っていないな?


「カルルね、全然そんなつもりなかったけど…全部の国にね、行ってたみたいなの。助けてくれた人が色んなところにいる。ねえロード、婚約を解消するその日まで、どうか、カルルを強くしてくれない?世界を回れるぐらいに!」


 眩しいな。眩しい笑顔で、俺の方に笑いかけてくる。


「強くするのは構わないが、世界を回るなら一人で行くな。俺も着いていく」

「えぇー、ロードももう自分の好きなように生きていいんだよ?貴族にも学園にも関わらずに、ロード、好きなように生きたら…」

「じゃあ尚更カルルに着いていくが?」

「ふふ、ロード、他にやってみたいこととかないの?釣りとか、料理とか──探してみれば見つかるかもよぉ」


 それなら一緒に探してくれ、と言うと、驚いた顔をしたあと楽しそう!と言って笑った。


 ──理解してしまった。

 俺はカルルが、楽しいという感情を満開にして、笑っている姿を隣で見ていたい。

 もはや一生離すつもりは無い。何が何でも隣に居続けてやる。他の国に行くなら、それにどこまでも着いていこう。今決めた。これが俺の生涯の目的だ。


「ここまで来たことだし、ダンジョンに潜らないか?今から俺の解説もつけてやる」

「もちろん!…カルルね、実はダンジョン潜りたいなって思って、着替え持ってきてるの…木の後ろに隠してて」

「準備が良いな?」

「えへへ…仲直り出来たら、その後ダンジョン行けないかなぁ…って思ってたの」


 はにかむように笑って、本当に木の後ろに隠していた荷物を引っ張り出してきた。


「行こ、ロード!」



 これは、悪役令息として転生してしまった俺が。

 ──今はまだ仮の婚約者であるカルルに愛され、世界を回りきるまでの話だ。

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