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転生悪役令息ロードは、仮の婚約者から愛されたい  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)
第1章 アス国

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02 カルル

「ちゃんと来てくれたな」


 眉を下げた顔で神殿へと現れたカルルに、思わず笑みを浮かべてしまう。



 治癒や孤児への教育、魔力測定、慈善事業を担当するのは教会である一方で、婚約や結婚、その他様々な契約について神に誓うのが神殿だ。

 教会の人間が神殿の清掃を担当している以外に、神殿で働く人はいない。


 神殿は女神の管轄下であり、王家であっても覆すことは出来ない契約を結ぶことが出来る。


 とはいっても、平民は契約石を利用するぐらいで、わざわざ高い金を貢がなければならない神殿には来ない。そのおかげか俺とカルル以外には誰1人いない。



 手持ちの硬貨で1番高価な準金貨を取り出すと、カルルは少しびくりとした。

 神殿の中央にある女神像の左手に乗せ、完全に消えたのを確認する。それと同時に、空気から現れたきらきらとした光が紙の形を取り始めるのを見守った。


 神とは当たり前に存在するものであり、神の領域が日常に紛れている。各地に点在する神殿もその1部だ。

 女神の奇跡を見たのは初めてなのか、食い入るようにカルルがそれも見ている。


 数十秒ほどで生成された紙に手を伸ばして、掴んだ。


「ご丁寧に婚約願いと書いてあるな。ここにお互いに血を垂らせば完了だ」

「う、うん…」


 手に持った短剣をじっと見つめたまま立ち尽くし、迷った顔をしているカルルを急かそうとして──考え直した。

 自分の願いと、悪評だらけのロードとの婚約。天秤にかけて迷っているのだろう。俺との婚約なんてデメリットそのものだからな。

 何がなんでも叶えてやる、という願いではない──のか?その辺りはよく分からないが、こちらへと傾いてもらえるとありがたい。


「…何か、言いたいことがあるのなら言ってくれ。俺は対等な婚約を結びたいと思っているんだ。この俺との婚約など嫌だろう?その分俺はお前の願いを叶える、これで対等だ。遠慮は必要ない、言いたいことは全部言ってくれ」


 先に俺の分の血を垂らすと、紙の半分が薄赤色に淡く光った。それをカルルに向けて離す。女神の力のおかげか、紙から手を離しても宙に浮いたままであり、カルルのそばで漂っている。


「……カルル、まだ、頭があんまり追いついてなくって、ロードと婚約結んでいいのか、わかんなくて……ここに来るまでも、色々考えてみて、それでもわかんなくて………」


 俯きながらぼそぼそというカルルの、次の言葉を待った。

 何が起こっているのか分からないまま流されている、何が正しいのか本当に分からない…要約するとそういうことを繰り返し言っていた。


 ──これは全部演技なんだろう。こいつは本気で役者を目指せるな、と少し感心した。



 乙女ゲームの開始は5年後。終了はそこから3年後だ。

 出来れば、計8年間婚約は結んだままでいたい。第3王女も、乙女ゲームのヒロインも、どちらとも関わる気はないし、恋愛など不必要だ。

 そのためにはカルルという不確定要素の助けが必要だ。仲良くは無理でも、嫌われている状態からは脱しておきたい。

 それには、何が望みかを把握する必要がある。あるいは弱味を握る必要が。



「………でも……」


 短剣が床にからんと落ちた音で我に返った。


 まさかここにきて怖気付いたのか、俺との婚約への恐れが望みを上回ったのか、と眉を顰めて隣にいるカルルに声を掛けようとすると──カルルは、急に俺の手を取った。

 固まる俺には気付かず、カルルは視線を落としたまま、ぼそりと言った。



「何もなせないまま死んだら、カルルの人生になんの意味があるんだろうって……ずっと思ってた」



 カルルはばっと顔を上げた。

 間近で灰色の瞳と視線が交わって、逸らすことが出来ない。


 困惑や疑念が晴れてはいない。

 けれど、その瞳には先程までは無かった強い決意が宿っているのを見て、心の底から動揺した。

 まさか。



「カルルの人生、ロードに賭けてみる。それで死んでも、最悪な思いをしても……ここで何も出来ずに死ぬより、ずっと、楽しそうって思ったの」



 動揺している俺の事なんて少しも気にせずに、カルルは満足そうな顔であっさりと手を離すと、短剣を拾い直して手に持った。

 指先をざくりと切って、一切の迷いなくその血を紙に押し当てる。


 紙の全体が赤くなったかと思うと、黄金に一瞬光り、そして空気にぼろぼろと解けていった。



「ロード、仮の婚約者として……あらためて、よろしくね」


 何も裏表など無いような顔をして、覚悟の決まった瞳で俺に笑いかけてきた。



 楽しそう?──まさか本気で、そんなのが理由なのか?強くなりたいと思ったのも、俺を助けたのも、まさか、それが理由?

 そんな人間が、こんなところにいてたまるか。何なんだこいつは。


 じゃあ、俺に向けてくるこの笑顔も。

 裏も何もなしに、ただ、心の底から笑いかけてきているだけ?──そんなのは、知らない。不可解でたまらない。



 何か、もっとどろどろとした願いを持っていてくれ。復讐だとか、そういう理由があってくれ。

 その態度の全てに何か理由があって、俺を利用しようとしているだけ。そうなんだろう?本当は、そうなんだろう?


 じゃないと、今までの言葉は全て本心だったのか?理解ができない。そんなことのために、この俺に、近づいてこられたのか?頭がおかしいのか?



「ロードが何がしたいのか、よく、分からないけど……でも、カルル、一緒に行くよ」


 やめろ。

 どうしてそんな笑顔を、この俺に、向けられるんだ。



 ーーーーー


 神殿で契約をすると、魔力を手の甲に集めて『契約』と呟くだけで、その内容が誰にでも見られる状態で宙に浮かび上がる。


 周りに誰もいないことを確認してから、ぼそりと呟いた。浮かび上がることを確認してすぐ消した。


 現時点で、俺が貴族に対して抵抗できるカードはこれだけだ。



 魔力をもっと増やさなければ。俺は確かに魔術に関して天才だが、中枢にいる魔術師には届かない。ロード・オルテルの魔術が覚醒するのは貴族となってからだが──それを、早めたい。


 転生者がいる以上、ゲームにおけるチートアイテムの取り合いは避けられないだろう。だからこそとも言えるが、早く動いた方が良いだろうな。



 あれから3日程、荷物の準備に費やした。

 誰もいない時を見計らって、薬草採取をしていたカルルに声をかける。

 驚いた顔をしつつも、恐怖はずっと薄らいでいる。楽しそう、と言ったその言葉通りに目を輝かせた。──理解が出来ない。


「1週間程度ダンジョンに潜るから、必要な物を持って明日の朝神殿の前まで来てくれ。食料と寝袋や戦う道具は俺が用意する。着替え等で必要な物があるならこれで買え。足りるか?」

「えぇと……うん、足りる。着替えだけでいいの…?あと……荷物多いと、大変になる?洗うのとか出来ないよね…?」


 銀貨だと駄目らしいので、銅貨を15枚ほど渡した。おずおずとそれを懐にしまいながら、カルルはそう聞いてきた。


「ああ、着替えだけでいい。荷物はどれだけ多くても構わない、ダンジョンに入ったらすぐに荷物軽量のためのスキルを覚えるからな。洗濯は、俺の魔法でいいならいつでも出来るが……お前が使えるようになるのを待つなら3日ぐらいはかかるな」

「えっ、カルル、スキルは持てないよ?才能が足りないって教会で…」

「ふん。目の前にいるのが誰だと思ってる?一か八かでダンジョンに行く訳が無いだろう?それにだ、条件さえ満たせばスキルぐらい誰だって手に入れられる」


 そう伝えると、カルルは大きく目を見開いた。その表情に、裏が無いかを探ったが見当たらない。ただの驚愕と──そして、期待。

 顔が歪みそうになるのを押さえつけた。


「他に聞きたいことは?」

「……無い、と思う」

「明日の朝、市場の始まる時間くらいで来られるか?」

「うん、大丈夫。……カルルがどの時間に出発しても誰も気にしないよ」


 孤児院で過ごしているカルルは、抜け出すのが苦労するかと思ったが──案外そうでもないらしい。


 大人数がいる生活は面倒でしかなく、俺は孤児院で過ごしてはいない。宿を取って過ごしている。

 孤児なら、10歳までは誰でも孤児院に住むことが出来る。食事も一日一食だけだが出る。最低限度の生活は出来る、という程度の環境だ。

 …そこにカルルをいさせて、病でも患ったら困るか?


 ダンジョンに潜れば金が手に入る。そうすれば、マシな環境に移動出来るだろう。後で聞いてみるか。


「じゃあ、また明日ね」


 遠慮がちに1度だけ手を振った後、カルルはまた薬草を摘み始めた。

 伝えなければならないことは伝え終わった。


 ──楽しそうだの何だの言う割には、既に俺から興味を無くしているカルルを少し眺め、踵を返した。


 ーーーーー


「おはよう、ロード」

「ああ。荷物はちゃんと持ったな?行くぞ」


 動きやすさを重視した何の変哲もない服に、着替えが詰まっているのであろうリュックを背負ってカルルは時間通りに来た。

 俺も同じような格好だ。遠足に行く小学生みたいに傍からは見えるだろう。少し腹立たしいな。早く成長期が来て欲しいものだ。


 ちなみにだが、俺らが住んでいるこの地域は、前世で言うところの赤道付近の高山気候だ。

 常春であり、1年を通して過ごしやすい気温。他の場所では吹雪の季節だというのに、俺たちは今薄い長袖の服だけで過ごせている。


「ダンジョンって、どこのに行くの?えぇと……冒険者の人たちが言ってたのは……ダリアダンジョン、とか…?」

「いや、今回は違うな。ダリアでの欲しい物はかなり深層にしか出現しないからな…難易度が高い。まずはカルルでも行ける簡単な所に行く」

「えぇと…?近くにそんなところ、あったっけ…?」


 うーん、と唸っている声を隣に聞きながら、出来るだけ人目につかない道を選んで進む。

 もう他に思い出せるダンジョン無いよぉ、としょげたところで種明かしをすることにした。──クイズだったらブーイングを食らう答えだがな。


「未登録ダンジョンに行く」


 ダンジョンがどうして出来るのかは分かっておらず、ある日いきなり出現する。それで町が飲み込まれる、なんてこともしょっちゅうでは無いが起こりうる。

 発見されたダンジョンはすぐさま国に伝えなければならない。封鎖され、S級冒険者が15層近くまで探索し、難易度が決定されてようやく、他の冒険者たちもダンジョンに入ることが出来るようになる。


「えぇっ……!?それって、ダメな事じゃないの…?」

「まあ、禁止はされているが。難易度だと、最後の1層以外は全てCランク。簡単だろ?それなのに魔物は倒しやすく、欲しい物もたくさん手に入るからな、行かないわけが無い」

「カルル、Fランクだよ…!?」

「ダンジョン踏破する頃には、最低でもBランクと同等の実力にぐらいはなるぞ?」

「Bって……えっ、今の、ロードと同じぐらい?カルルが?」


 そんなすごいダンジョン、どうして知ってるの?と素直に感嘆され、内心の動揺を隠しながら予知のおかげだと答えた。

 ──話しにくいな。

 復讐だの腹に一物抱えている相手なら、お互いに利用しあうだけだと割り切れるんだが。

 それも何も無しに、素直に賞賛されると顔が歪みそうになる。


「半日ぐらいは歩く場所にある。疲れたらすぐに言え」

「そんなに近いの?…ダリアダンジョンだと思ってたから、2日歩くかなって、カルル思ってた」


 あまりにも近くにあると気づいた時は、俺も本当に驚いた。運の良さに感謝したいと思ったのは初めてだな。

 徒歩半日の場所に、初心者向けのおあつらえ向きなダンジョンがある。──最高だろう?物語なら都合が良すぎるだろうとバッシング食らうぐらいにな。


「目指すのは『捨てられた土地』の結界すぐ近くの遺跡だ。『忌み子』を恐れて誰も近寄らないから発見が遅れるんだ。ありがたいことにな」

「『捨てられた土地』って、忌み子が住んでて、入ったらどろどろの死体にされるところ……!?」

「ふん。あながち間違いではないな」

「えぇっ…間違いじゃないの……!?」


 ただの迷信だ、とでも言って欲しかったという顔でカルルはショックを受けている。

 死後ゾンビとして蘇らされ、神の地に行けず魔物として殺されるだけの話なんだがな。どうせ俺は地獄に落ちる人間なんだから、死後どうなろうとどうでもいい。


「忌み子の力が及ぶのは『捨てられた土地』だけだ。そう気負うことはない」

「えぇ……ロードって、怖いもの、何も無さそうだよね…」

「どうだかな」


 そんなものがあったとして、誰にも見せるわけが無いが。



 横顔をちらりと眺め、目を細める。


 ──カルルに具体的な目的が無いと言うのなら。そんな人間がいるのかと驚愕していることは一旦隅に置いておいて、それならただ弱味を握れば良い。


 目的が無い人間なんて理解できない。

 俺に対しては親切心で手を貸している?──本気で()()らしいのだから、不可解さは極まる一方だ。


 そんなもの、俺と共に居続けて、ずっと存在出来るはずがない。必ずどこかで俺への忌避感が強まり拒絶されるだろう。

 その前に弱味を握る必要がある。そうしないと、そうでなければ、俺の隣になんか居続けてはくれないだろう。


「そろそろ誰もいなくなってきたな」

「この先は『捨てられた土地』しかないから…?」

「そうだろうな」


 南に進んでいく。木々が密集しているが、森林だらけの場所で生きてきたことと、体が小柄ということで、特に苦労することもなくすいすいと進んでいく。

 根を登るのには苦労しているらしく、手を差し出すと、何も考えずに手を握られた。

 ──動揺しているのは俺だけか。腹立たしいな。


「もう1人の転生者──第3王女は金に物を言わせてどこでも好きなダンジョンを攻略出来るだろうからな。わざわざこんな鬱蒼とした所まで来ないと踏んでいるが……もし、来ていたら、かなり面倒だ」

「えぇと……物のそうだつせん、になるってこと?」

「そうだ。貴重なアイテムには限りがある。このダンジョンで出来るだけ強くなり、他のダンジョンにも早急に挑まなくてはな」

「それって……ロード、不利じゃ…?」

「腹が立つが…そうだな」


 第3王女は、才能が第1王子に劣るから王位継承権が低い。──その程度しかゲームでは触れられていない人間であっても、チートアイテムを複数装備すればドラゴンだって倒せるだろう。


 やはり世の中、金と身分だ。


「……あれ、でも、カルル…お姫さまがダンジョンに行ってる、っていうのは聞いた事ないよ……?剣を持ち出して、すっごく怒られたとか……あっ、魔法を使おうとして、倒れたっていうのも、聞いて……」


 神殿でロードと別れた後、新しく聞いたんだけど…とカルルは言った。──何のために。それをして、カルルに何の利点があるというんだ。



 頬に手を当てて、カルルはうーん、と考え込んでいる。


 ──灰色だった瞳が真っ黒に染まっているのを見て、思わず目を見開かずにはいられない。



 異質だ。


 何がスキルは得られない、才能が無い、だ。──既に持っていて使用しているな?無自覚か?


 それともやはり、うまく演技で誤魔化しているだけで、目的でもあるのか?そっちの方が理解できる。今のカルルは異質でしかなく、何も理解できない。


「野菜を育てるスキルだけ、あったらしいから…食べ物関連ばかりがんばってるらしくて……あ、でも、おせろ?っていう、遊び?は作ったらしいよ……どんなものなんだろう、ちょっと気になってて……えぇと……そうだ、第3の王女だから、みんなたくさん見てて話してて、それで、誰もダンジョンに行ってるよって言わないから……きっと、ダンジョン来てないんじゃないかな……?酒場に来てた青いターバンの人……えぇっと、ジョンって呼ばれてたかな…?その人はすっごく、お姫さまにあこがれてて、報せは全部追いかけてるって、言ってたから……商会の立ち上げとか、商品をたくさん作るのとか、そういうので忙しくして、平民の生活を考えてくれるのは嬉しいって言ってたし……うん、やっぱり、お姫さまがダンジョンに行ったっていう声、聞いたことないから、すくなくとも、まだ大丈夫だって思う」


 そう言い終わってから、カルルは俺の方を向いた。目を見開いている俺を見て、はっとしたように口を手で覆った。


 恐怖がはっきりと浮かぶ表情で、カルルは俺のことを見つめて、足を止めた。



「ちが、違うの…カルル、たまたま人の話が覚えやすいだけで、ウワサとか、好きじゃない……!ごめ、ごめんなさい、カルル、喋らない方がいいのに……!」



 ──予想外の収穫だが、これが弱味なんだろう。思わず口角が上がる。


 記憶を取り戻す前も今も──カルルは困った顔をして、何を考えているのか分かりにくく、いつも1歩退いた場所にいると思っていたが。



 山ほどの会話を覚えた状態で話し、あまりにも知りすぎていたせいで疎まれたりしたのだろうな?そのせいで途切れ途切れに喋るのか。


 友人のいない口の堅い人間だと思っていたが、色々話してしまい友人が離れたから、口が堅くなったのか。



 会話を思い出しやすい、噂を集められる──このようなスキルだろうか?補佐としてこれ以上無いほどの能力だ。情報集めに最適だろう。


 ──欲しいな。傍に置いておきたい。

 この弱味で脅すのではなく、なだめすかして……本当の人物像を知っても離れていかない人間として、褒めれば──俺に依存させることが出来るだろうな?

 脅して傍にいさせるよりも、ずっと──魅力的、と言えるだろう?



「無意識にそういうスキルを使っているな。お前の本質とは関係なく、スキルが勝手に集めているだけだ、気に病む必要性は無い」

「………えっ、スキル……?でも、カルル、無いって……」

「教会の魔力検査はそこまで正確ではないからな。それに、人々はこう勘違いしてるよな?──魔力が沢山無いと、スキルは手に入らない、と」

「……そうじゃ、ないの…?」

「違う。カルル、お前の魔力が現時点で少なかろうが、そんなことは関係なく、お前はただのスキル持ちだ。少し暴走しているだけだろう」


 落ち着いてきて、ぼうっと俺の瞳を眺めてくるカルルに思わず笑みを浮かべそうになって、堪えるのが大変だった。


「それにだ。そのスキル、補佐役としてこれ以上無いほど適切じゃないか?使い方次第では化けるな」

「そう、なのかな……」

「魔力が増えれば、スキルも御しやすくなる。良かったな、長年の悩みが解決するぞ」

「そっ、か……カルルのこれ、スキルだったんだ…」


 あと少し押せば、俺のことを好きになりそうだな…と思いながら、少しだけ微笑んで言葉を重ねる。


「第3王女のこと、思い出してくれて助かった。カルルさえよければ、これからもそうやって沢山話してくれないか?カルルにとっては嫌なスキルかもしれないが、俺にとっては思ってもみなかった幸運だ。カルルを選んで良かったと心底思ってる」



 灰色に戻っている瞳に光が輝き始める。

 仕方が無いから抱きしめ返すくらいはしてもいいが…?と思いながら待っていると、カルルは、泣きそうな顔で笑った。


「ほんとうに、ひどいスキル……でも、こんなに嬉しいの、初めてかも…!スキルのせいだったんだ……ありがとうロード、このことが知れて良かった!」


 スキップでも始めそうな勢いで、カルルはあっさりと前を向いて、眩しそうに目を細め、歌うように笑った。



「カルル、知りたいって思ってもいいんだ…!」



 ──光のような。世界を祝福するかのように楽しそうで、眩しい。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。


 眩しくて目が離せない。

 手を伸ばしても掴めない。


 そんなに嬉しいのなら、少しでも俺の方を見てくれれば良いのに。俺の事なんて少しも気にせずに、楽しい!と全身で笑うように前に進んでいく。


 すぐ側にいるのに、置いていかれたようで、どうしてか心が苦しい。



「ねえ、ロード、カルルね──もっとスキルとか魔術のこととか知りたいの。孤児として生きていたら、知らなかったはずの全部が知りたい…!連れ出してくれてありがとう、カルルを選んでくれてありがとう!…カルル、初めて生きてる感じがする───!」


 手に入ると思ったのに。するりと手の間からこぼれて、何にもしばられずににこにこと笑っているのが、妙に腹立たしくて。

 でもカルルの喜ぶ姿を見ていると、体の力が抜けて、何も出来なくなりそうだ。



「ロードと一緒にいれば、色んな人と会って、たくさん色んなことができて、きっと──すごく楽しいよね!ねえ、ロード。カルル、カルルが出来ることなら何でもするよ。だから遠くまで連れて行って!婚約を解消するその時まで!」


 紛れもなく本音だ。裏なんて何も無い。薄々感じていた透明な壁をあっさり壊して。利用するために、なんて思いは一切ない顔で笑いかけてきて。


 ──動揺に頭を殴られて、うまく考えられない。

 そんな顔で、俺と接する人間なんて、これまで誰も。


「カルル、やっとロードと友達になれる気がするよ…!」


 自分がカルルに何を望んでいるのか、よく分からなくなって。何をどうすればいいのか、よく分からなくなった。



 ただ、光のように輝く笑顔で居続けてほしい、とだけは、どうしてか思った。そんなことを思った自分にも衝撃を受けずにはいられなかった。

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