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転生悪役令息ロードは、仮の婚約者から愛されたい  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)
第1章 アス国

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01 ロード・オルテル(挿絵あり)

「………なるほどな」


 川に映る見慣れた自分の顔。

 無造作な黒紫色の髪に、冷酷に細められた薄赤色の瞳。孤児の、それも7歳児に似つかわしくないほどに完成された美貌。


「ふん…まさか、ここがゲームの世界とはな」


 蘇ってきた記憶に痛む脳と、段々と暗くなっていく視界を無視して、獰猛に笑った。


「ゲーム開始前に記憶が蘇るとは…僥倖だな。俺のために利用させてもらうぞ」


 意識を飛ばしても尚、笑っていた。


 ーーーーー


「………ロード、起きた?」

「……ここは」

「カルルじゃロードのこと運べなかったから…森の見つかりにくい所だよ。引きずっちゃってごめんね」


 ──頭が痛くて重い。

 目を開けるとこちらを覗き込んでくる顔があり、内心の動揺を隠すように睨みつけた。


 寝癖を直しておらずボサボサで、肩まで伸ばされた薄青色の髪。曇天のような灰色の瞳が特に何の感情も乗せずにこちらを見ている。


 誰だったか、と考え、同じ孤児院にいる影が薄い少女の名前がカルルだったかと思い出す。

 特に取り立てて特徴が無い。良い噂も悪い噂も何も聞かない。


 ──つまり、ここではマシな人間ということ、だが。この俺に関わってくる時点で何を考えているか分からない。

 警戒を強めながらも笑みを浮かべてやると、訝しげに眺められた。


「ふん、なるほどな。俺の第一発見者がお前で助かったな」

「えぇと……?なに…?どういうこと?」

「お前なら俺に何もしないだろう?他の奴らに意識を飛ばした俺が見つかっていたらどうなっていたか」


 ロード・オルテル。現在7歳。…まだオルテルの名は貰っていないから、ただのロードか。



 目の前のこいつも気になるが、まずは先に取り戻した記憶について結論から言わせてもらおう。



 ここは乙女ゲームの世界であり、ロード・オルテルは悪役令息である。



 孤児であるロードは、現在から約3年後に伯爵であるオルテル家に引き取られる。

 オルテル家は『忌み子』という存在の怒りを買ってしまい、家を継ぐ者が──スペアも含め、全員眠り続けているからだ。


 伯爵が若き日の過ちで手を付けてしまったメイドの子──実際にそんな子がいたかは関係ない。

 賢く、年齢も第1王子と同じであり、見た目の色が伯爵にそっくりであり、魔術の才能も十分にあり、そして逆らえる訳が無い孤児のロードは選ばれる。



「ロードは…えぇと、色んな人に嫌われてるから、見つかってたら危なかったよねってこと?」

「ふん。案外真っ直ぐ言うものだな?まあ、その通りな訳だが。恨みを買いすぎている」

「自覚あったの……?えぇ、じゃあ何であんな所で倒れてたの?」

「何故言う必要が?迂闊だったが…今はもう攻撃魔法を展開している。俺に恨みがあるならさっき殺しておくべきだったな?今から挑戦してみるか?」

「えぇと……?好きは絶対無いけど……恨み?は、ないよ……?」

「ふん…なら、報酬でも要求したいのか?」

「えぇ……?いらないよ……」


 …では何故俺に関わってきているんだ?

 睨みつけると困惑した表情で返された。ただの親切心だとでも?……この環境で、この俺を相手に、それは流石に無いだろう。



 ──既に俺は、恨みを盛大に買っている。


 環境によるものか、それとも生来の物かは分からないが。ロード・オルテルは幼少期から性格が歪んでいた。

 客観的な視点を手に入れ、自分は性格が歪んでいるのだと認識しても──変えることは出来なさそうだ。変えるつもりもないが。



 このまま進めば乙女ゲーム通りの末路を迎える。


 だが、だからと言って何故俺が反省する必要がある?行いを改め、悪役令息から脱しようと足掻く──何故、俺がそんな労力を割かなければならない?



 前世の人格には永遠に黙っていてもらおう。俺こそがロードであり、他の誰も関与はさせない。

 俺はこの性格を変えるつもりはない。



 話を戻して、ゲームでロード・オルテルは──伯爵に引き取られた後──伯爵家ならばこの程度出来て当然だ、汚い孤児め、誰か一人でも目を覚ませばその瞬間お前なんぞ捨ててやる、やはり平民は貴族と頭の作りが違うのだな、等等の言葉を浴びせられる。


 それでも逆らうことなど出来ず、鬱屈状態を拗らせに拗らせ、更に2年後。


 第1王子の入学に伴って学園に通い始めたロードは、光の聖女として編入してきたリリーに憎愛を向けるようになる。


 第1王子やその他諸々たちと甘い時間を過ごすリリーから向けられた慈愛に動揺し、自分だけを見てくれないリリーを憎み、自分しか見られなくなればいいと行動するようになる。


 ロードは幸せなハッピーエンド、なんて迎えることはない。

 拗らせた執着で──国中薬漬け、鏖殺、他国との開戦、その他様々に、リリーだけでなく周りも巻き込み、国を傾かせ──その果てに破滅することが定められている。



「もう大丈夫そうなら、カルル戻るけど…頭痛いなら孤児院まで一緒に連れてくよ…?」


 考え込んでいるうちに、困ったような笑みを浮かべながらカルルは立ち上がった。そのまま去ろうとする手を掴む。

 一瞬にして目に動揺と怯えが走った。


 本人に何かをした覚えは無いが、ロードの悪評は誰もが知っている。──尚更だ。何故、こいつは俺に関わってきた?

 ロード・オルテルの末路と、目の前の不審な人物について同時に考えながら、にやりと笑ってやった。


「その必要は無い。が、戻るのは待て。聞きたいことがある。借りを作るのは嫌いだからな、先程の分も含めて銀貨1枚でどうだ?それともお前の嫌いな奴を殴ってきてやろうか?」


 首を傾けながら手を優しく引くと、怯えたまま1歩近づいた。


「銀貨なんてカルル持ってたらすぐ取られちゃうし、殴るのも後が怖いからいいよ……な、何が聞きたいの?」



 ──オルテル家に引き取られるべきか、否か。

 身分を手にするのは悪くないし、浴びせられる言葉が事前に分かっていて気を病むほど弱くは無い、が。


 これからの貴族社会を回していくのが乙女ゲームの頭フワフワ面子だと思うとゾッとする。


 元来の強さに加えて知識も手に入れた俺にとって、オルテル家を掌握することはそう難しくは無いだろう。リリーなどという小娘に踊らされないよう距離を保つことも出来るだろう。


 しかし、泥船で身分と金に溺れるつもりは毛頭ない。

 場合によっては国外へ移動した方が良いだろうな。

 かなりのアドバンテージとなる乙女ゲームについての知識を捨てるのは惜しいが…。



 ……まあ、と言うわけでだ。何よりもまず情報が欲しい。ついでに、目の前のカルルの考えている事を知る必要もある。



「最近流行っている食べ物は何だ?」

「………えぇ?」


 カルルは困惑した表情をした。


「俺らが生まれた頃から今にかけてだ」


 質問を聞き間違えたわけではないと分かると、まだ不可解だという気持ちが残る顔で話し始めた。


「えぇと……流行ってる、食べ物…?貴族の食べ物とか分からないよ……?ポリッジ…は流行りとかじゃないもんねぇ、えぇと……」

「ふん。質問が悪かったな。マヨネーズ、ハンバーガー、唐揚げ、ポテトチップス、サンドイッチ…あとは何だろうな。語源が何なのかよく分からず、聞き覚えの無い食べ物の名を聞いたことは?」

「あっ、ぽてとちっぷすなら聞いた事あるよ。王都から来た冒険者の人が“かっきてきだろう、さすがは姫様”って言ってたかなぁ」


 ──思わず笑みを浮かべてしまう。

 カルルはびくりと少し後ずさった。握る手に少しだけ力を入れると、渋々といった感じで元の場所へと戻る。



 この先どう動くにしても、まず何よりも金が必要だ。情報も力も手に入れるには、どうしても金が必要になってくる。

 そのために地球の知識を使いたい。──そう思うのは、他の転生者も同じだ。


 地球での食べ物や発明を利用すれば、当然富を得られるだろう。しかし同時に大きな欠点も持つ。他の転生者に自分の存在を知らせることになることだ。


 前世ではあまり“転生悪役令嬢もの”などといった創作物に触れる機会は無かったとはいえ、その存在は知っている。──そしてこの乙女ゲームには、悪役令嬢も登場する。

 万が一を確かめるために聞いたが…運が悪かったな。


 該当者がいるらしい。


「思い出すごとに銀貨…はいらないのか。屋台の食べ物を何でも奢ってやろう。その人物について、他に何か話していたことは?いつ話してた?『姫様』ってのは王女のことか?言え」


 屋台の食べ物、という言葉に一瞬顔を輝かせたが、俺への警戒が勝ったのか引きつった表情で、おそるおそる話し始めた。


「えぇっと……6日前に酒場で聞いたよ。王子さま…えっと、1番目の人で王は決まりだってなってたけど、熱が下がって…お姫さまがね、寝込んで1週間ぐらい経ってたらしくて…そのお姫さま、ええっとたしか第3かな、その人が急に色々便利な物作るようになって、食べ物はみんなが食べられるから嬉しいねって話してたかなぁ。王位…えっと、けいしょーけん?が前後するかもって」


 逸る気持ちを抑え、カルルをさらに促した。


「ふん。他には?」

「お姫さまなのに野菜作るのが好き、だって。…えっと……あとは……婚約者は欲しくないから、自分より強くて、くーるで、一途で、闇系統のスキルを持つ、黒髪にピンクの目の人じゃないとやだって駄々こねたって。偉い人とは思えないよねって言ってたかなぁ」



 ──やけに具体的な人物像に、眉を顰めざるを得ない。カルルが怯えた表情をして身を引こうとしたが、手を離さずに考え込んだ。



 地球の記憶を持つ者として、ほぼ確定で捉えて良さそうだ。

 ……さらに、原作を知っている人間だと仮定すると、ゾッとするが『ロード・オルテル』のことを指していそうだ。虫唾が走る。


「あれ、ロードも黒髪とピンクっぽい瞳、だよね……?もしかして……お忍びのお姫さまと、会ったことでもあるとか………?」

「あるわけがないだろう」



 同じ異世界人で、なおかつロード・オルテルに対して何らかの感情を抱いている者、かつ身分も高いとくれば──絶対に面倒事に巻き込まれるな。

 異世界知識によるチートもこれで完全にダメだろう。お金を稼ぐ方法は別にしなければならないな。


 ──ゲームの前提が掻き乱されている恐れもある。本格的に国外逃亡を視野に入れるべきか。


「……見つかれば、ここまで来る可能性もあるのか?最悪だな」

「ロードは、お姫さまに会いたくないの?たまのこし……だっけ、それじゃない…?」

「御免こうむるな。まだお前の方がマシだ」

「……えぇ……ごめんねぇ、ちょっと……ごめんね……」


 カルルは、見た目に釣られた訳でもないのか?

 ──理解できないな。何故迷惑そのものみたいな俺に手を貸した?

 警戒は継続させるべきだろう。手を離して、とは言いづらいのか、弱々しい抵抗がある。無視して手を握り続けた。


「お姫さまの他のこと…何かあったかなぁ…」

「ふん。十分すぎるぐらいだな、礼を言う。屋台で何でも好きな物を選ぶと良い」

「いいの!?あ、えっと……どうしようかな………串焼き……とか……」


 ……欲が無いのか?いや、贅沢を知らないのか。


 そろそろ手を離して、とでも訴えかけるような灰色の瞳を無視しつつ、思考を加速させる。



 俺はスラムの隅で死ぬつもりは無い。必ずや俺に相応しいところで生きてやる。


 現時点で、最も警戒しなければならないのは第3王女だろう。万が一と思い聞き出した甲斐があった。


 接触してくる可能性は大いにある。関われば面倒事へと一直線だが──しかし、隠れ続けるのも癪に障る。

 見え透いている地雷に足を踏み入れたくは無いが。


 ──そのためには。



 諦めて、屋台で何を食べるかを考えているカルルが目に入った。


 カルルは俺と同じく孤児であり、苗字はない。

 今まであまり喋った記憶が無いな。シスターのところで過ごしているか、あるいはギルドまで薬草運びの仕事をしているイメージだ。

 口は堅い。話す相手がいないのと、わざわざ言いふらすような人間では無い。──金を積まれたらは知らんが。

 友人はいない。似ているな。同じにしないで…と引かれそうだが。

 他の7歳と比べれば落ち着きがあり、冷静だ。諦めきっているとも捉えられそうだな。


 俺に対する悪感情は他の人よりずっと少ない。が、何を考えて俺に関わってきたのかは分からない。警戒し続ける必要がある。

 手元に置いておけばいつかぼろを出すだろう。


 ──これは、かなり都合がいいのではないか?



「カルル。白いパンでも、ケーキでも、七面鳥でも何だって食わせてやろう。その代わり、やってほしいことがあるんだが」

「………な、何?危ないことは嫌だよ…」


 まあ多少は危ないかもしれないな?


 ──色々と考えてみても、現時点で1番相応しい人材だろう。

 どうにか要求を飲んでくれるとありがたいんだが。俺に関わってこなければ、平穏な生活を送れたかもしれないのに、な?



「俺の婚約者になってくれ」


「……………ごめんね、カルル聞き間違えたみたい。なんて?」


 先程よりも色濃くなった困惑と拒絶を宿して、カルルは手を振り払おうとした。

 俺も立ち上がり、もう片方の手も握りしめて至近距離まで近づくと、薄い黒色の瞳が警戒と恐怖で泣き出しそうに歪んだ。


「俺の婚約者になってくれ。仮の、だが。当然、もういらないと途中で捨てたりはしないと約束しよう。解消する時は一生分の金を与える。…今は手元にないがな。俺が稼いできた金はいくらでも使って構わない。とにかく、婚約者という立場になってくれ」


 引きつった顔でカルルは俺のことを見ている。何を言われたか分からない、分かりたくもないという顔だ。


「………待って、えぇ、カルル、何もわかんない。えぇと……何で、カルルを……?」

「この俺に、他に頼める人がいるとでも?」

「……なんでそんなに自信たっぷりなの…?………何の、ために……?」

「ふん。まあ説明は必要か。俺が今から話すことを誰にも言わないと契約しろ。ここに契約石があるから誓ってくれ」


 片方の手を離して、懐から薄く発光する白い契約石を取り出し、カルルに渡した。


「ひっ……カルルがもらえる1年分のお金と一緒のやつ………これ、使ったからって、後でお金請求したり…しない…?」

「する訳が無いだろう。ただ話さないだけだ、口の堅いお前には何の辛さも無いだろう?」

「………。……えぇ、もう、本当に、意味わかんない…」


 短剣で指先を切るのを手伝ってやろうかと聞くと、勢いよく首を横に振られた。

 ようやく解放された手に短剣を握りしめ、もう片方の手の指先を切り、契約石に血を落とした。


 それを確認した瞬間に、防音結界石を使った。お金の計算をしたのか顔が真っ青になる。


 突っ立っているカルルに座るよう促した。

 動かないので再び手を掴もうとすると、勢いよく両手を背中の方へと隠し、しぶしぶ地面に座るのを見てから話し始める。


「俺の切り札の2つを使ったんだ。最後まで話を聞いてくれよ?…まず、俺はつい先程前世の記憶を取り戻した」

「前世…?えぇと……罪人、だったの?」

「どうだかな。──前世で、俺はこの国についての予知が書かれた物を見た」

「予知……?」

「俺もその予知の内容にいたんだ。約5年後、色々あって俺は……まあ、あれだな、国家転覆したり戦争を始める」

「えぇ……」


 すでに理解が追いつかない、という顔をしているが、無視して話を続ける。


「安心しろよ、そんな未来を辿るつもりは無いからな。そしてもう1つ、俺は前世で全く違う世界──それも、遥かに文明が進んでいる世界にいた。先程聞いた食べ物は、その世界の物だ」

「えぇっ、えっと……?…お姫さま…も、前世の記憶があって、その世界も一緒…ってこと?」

「そうだ。よく分かったな」


 えへ、とカルルはちょっとだけ笑った。あどけない笑顔だ。……誰かが笑顔を向けてくるのなんて、随分と久しぶりだな。

 慌てたように警戒した顔に戻されてしまったが。


「結局、お姫さまとは知り合いじゃなくて…?でも、えぇっと……お姫さまは、前世の予知にいたロードのことを……知ってるのかなぁ、好きなのかなぁ、みたいな………?」

「……そこまでまだ説明していないのによく分かったな。ふん、意外だが有難いな」

「えぇっ……ロード、に、褒められると、怖いかも………」


 怯えられるのと同時に、俺の方は警戒を増した。

 そこまで考える脳があって、まさか考え無しに俺に近づいてきた訳でも無いだろう。何が目的なのか分からず不気味だ。


「……それで…どうして…婚約者が必要なの?」

「考えてみろ。予知で国を傾かせる人間だと分かっているのに、俺を好きになる訳が無いだろう?あれは建前だ。実際には、魔力も頭脳も十分で、かつ心が歪んでいる人間につけ込んで従わせることで、王様になりたいと思っている」


 日本に住んでいる人間は平和ボケしているものだから、まあおそらく、推しに会いたいだのリア恋だのが実際の理由だろう。

 それを伏せたまま、あたかも俺が正しいかのように語気を強めて話す。


「貴族に引き取られ、王女の婚約者になるかもしれない。──俺を利用しようとしている人間に、このままだと従わなきゃならないんだ。飼い殺されて一生過ごすなんて冗談じゃない。実際にそうなってみろ、俺は全力でこの国を滅ぼしてやる」


 ──少しだけ魔力を、感情的になってしまったかのように放出した。

 一瞬で目が警戒に染まるのを確認しながら、背後に隠されてしまったカルルの手を優しく引っ張り出して、恋人繋ぎのように指を絡めた。


 自分より遥かに多い魔力に当てられた人間は、錯乱状態になる。

 ぼろを出すならそれが一番だ。出さずとも、何を言われているかよく分からなくなってしまっているだろう。その隙に言質を取らせてもらう。


「…カルル、お前は何もしなくていい。ただ隣にいて、婚約者ですって顔をしていればいいんだ。それだけでこの国の滅亡を避けられるんだぞ?簡単な仕事だろう?なあ、一緒に神殿まで行ってくれないか?」


 その滅亡を起こそうとしているのは俺である訳だが。魔力に当てられてうまく思考できない状態のカルルでは、よく理解できていないだろう。

 畳み掛けるように話しかける。


「王女は、婚約者が1度でも存在した男と婚約することは出来ないんだ。カルル、お前しか俺は頼れないんだよ。もちろん何もかもから守ってやる。何一つ不自由の無い暮らしをさせてやる。俺の願いを聞いてもらえたなら、何だって何度だって叶えてやる。なあ、どうしてもダメか……?」


 傲慢で気高い『ロード』が、弱々しく上目遣いに願っているんだ。これ以上ない程に整った美貌で。


 ──俺という恐怖による吊り橋効果で、いっそ惚れてくれたって構わないが?その方が事を楽に進められそうだ。

 第3王女への対策として、婚約者の存在は実に覿面だろう。さらには現時点でとても怪しいカルルを傍に置いておける。




「───ロード、それ、ズルだよね……?」


 冷ややかな声に、背筋に冷たいものが走りつつもにたりと笑ってしまう。ひっ、と怯えた顔をしたが──望んだ錯乱状態は見られない。


「魔力にあたると、んーと…“さくらん”状態になるよね?それ、は、さすがに……話す時に使うのって………ズルだよ……?」

「……」

「ロードがすっごく焦ってるのは分かったけど……怖さで従わせよう、と、してくるのはやだ…!」

「……」

「怒って……はいる、けど………ええと………。っ、話し合いは終わりってわけじゃなくて!……あのね、ロード、カルルが1人でも十分戦えるぐらいに強くできる……?ロードに全部頼るのは、こわいよ。でも、カルルが自分で自分のこと守れるなら……婚約者、なってもいい」


 魔力に対する耐性。千人に一人程度だが、カルルが耐性を持っているのは有り得ない訳ではない。


 そして、見事に炙り出しに成功したわけだ。


 婚約を受け入れるのが、ロードの悩みを解決してあげようという気持ち──で、あるわけがない。

 何か目的があって近づいてきたな?そしてそれには強くなる必要がある。

 あたかも譲歩しているように見せかけているが、実際には他に目的があるんだろう。このスラムで生きてきた人間が、こんなにも怪しい婚約を素面で受け入れるはずがない。



 それに、単純に魔力に対する耐性を持っているだけなら、激昂され話を断ち切られるだけのはずだ。


 困っている俺に対して、親切にも婚約を受け入れようとしている──そう見せかけたいのなら、俺もそれに乗ってやろう。


「……悪かったな。急ぎすぎた。──自衛できるくらいに強く、が願いだな?分かった、今すぐには難しいが必ず1週間以内には叶える。…それで、本当に俺の婚約者になってくれるんだな?」

「…もうひとつ、カルルが自分を守れるまでは婚約者だって言わないで。神殿へは、今行ってもいいけど……ロードのこと嫌いな人たちに知られたら、カルルの方に、向くかもでしょ…?」


 ──そんな事は無い、と絶対に言いきれないほど恨みは買っているからな。確かに、そこで不安になるのも頷ける。

 が、本当にそれが理由か?誰か知られたくない人がいるのかもしれないな。


「理解した。神殿へも時間をずらして行った方が良さそうだな。自衛できるまでは今まで通りに振る舞うようにする。…万が一、王女がここに来た時は一緒にいてもらうが…どうだ?他にも言っておきたいことは?」

「今のところは、とりあえずないかな……」

「何か思ったらすぐに言え。遠慮など必要無いからな?」


 警戒は消えない。完全に納得はしていない、詐欺か何かではと疑う瞳──それも演技だろうか。だとしたら素晴らしい役者だな。

 強くなりたいのなら──ここらで1番強いのは俺だし、年齢的にも1番近く、俺を選ぶのも頷ける。何故強くなりたいのか、それを知る必要があるな。


 腹に隠したものを暴かせてもらおう。


「……」

「カルル、婚約者になることを受け入れてくれて助かった。解消する時は一生分の金を渡す、自衛できるくらいの力を手に入れさせるまでは関わらないようにする、俺の金はどのように使ってもらっても構わない。──契約石に誓う」


 契約石に俺が血を落として、ぱらぱらと崩れていく様子を最後までカルルは眺めていた。



「神殿で婚約者届けを出しに行こう。先に神殿で待っているから、後から来てくれ」


 どうか、怖気付いて逃げ出すなんてしないでくれよ?──甘く囁いてみたのに、カルルは顔色ひとつ変えなかった。予想通りと言えば予想通りだが。

ゆる〜くナーロッパ的世界線です

よろしくお願いします✧︎*。


挿絵(By みてみん)

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