第九話
レッズたち一行はカスローの街に到着していた。
街の風景はなんと言えばいいかまるで昔の日本様式の家が連なる和風の街という表現が正しいかもしれない。
カレン達はその珍しい家の造りに目を見張っていた。
そんな中カレンとレッズは目が合う。
お互いがお互いを意識している。
まさにそんな感じだった。
それにしてもだ。
人のほうまで着物のようなもので統一されており、結果として、街の景観を守っている。
レッズは長らくキースターに勤めていたがこの街は初めてだった。
逆異世界に誘われたようなそんな気分にさえなった。
「新興宗教団体を見つけないとな。」
レッズは目的を振り返った。
しかし、それは意外にもあっさり見つかることになる。
街を歩いていると、広い敷地のあるまるで道場のような家に『知識の集い』と書かれた看板を見つけたのだ。
「案外すぐ見つかりましたね。でも道中の人たち何か目が虚ろと言うか、どこか魂が抜けたような...」
それでもカレンは目的の場所を見つけて拍子抜けした様子だった。
さっそく中に入ってみると広い道技場でまさに洗脳をしてる真っ最中という感じだった。
「さああなた達に魔人王様の偉大なる知識を与えましょう。魔人王様に貢物をお供えしなさい。」
教祖は人間の少女にしか見えなかった。
今回はハズレか?
教祖の少女はレッズ達に気づいた様子で助手の眼鏡の男性に「後は任せるわ。」と言い残し、こちらに向かって来た。
「あなたたちも知識の集いに興味があるのでして?」
ニタリと少女が尋ねてきた。
「いいえ。私達はとある使命があってやって参りましたがここに来たのは見当違いだったやもしれません。」
カレンが丁寧に対応する。
「そうなのですね。」
少女が何か考えている様子でそう答えた。
「開祖のマーチス様なら何か知ってるかも知れませんわ。あの方は今、隣町のラックスタウンに知識の集いの素晴らしさを伝えに行かれています。」
レッズはそのマーチスという人物にきな臭さを覚えた。
ラックスタウンは確か母の故郷だったな。
一度だけレッズも里帰りで祖父母に会いに行ったことがある。
もう2人とも亡くなったと知らされたが。
ラックスタウンに何かあるというのか。
一行は話し合った結果ラックスタウンにまで赴くことになった。
ラックスタウンまでの道中に抜ける山道でレッズはどこか怪しさを備えた木々の間を潜った。
聞いたことがある。
魔人が通ると植物は生気を奪われると。
そうしているうちにラックスタウンに到着した。
噴水広場の前で台に乗ったフードを被った男が演説している。
きっと目当ての人物だろうか?
演説の途中でフードの男は赤髪に気づく。
すると、あの動きは...魔法を放つ気だ!
しかもかなり強力な。
しかし、レッズはそれをさせない。
レッズの嫌な予感は的中していたが、不幸中の幸いで襲われようとしていた市民を間一髪魔人の攻撃から防いだ。
魔人は人そっくりの姿をしている上に、ツノを隠すこともできる。
よってレッズもこんな可能性を予測できていたのだ。
フラットタウンの時とはレッズの覚悟はもう違っていた。
「貴様。魔人ゲーチスだな。」
レッズはそう問いただす。
「ほう。元王国戦士長レッズか。不祥事で国を追われたという。」
レッズは挑発には応じない。
「貴様がここに来たということはなるほど秘宝の事を嗅ぎつけたか。いいだろう少しだけ遊んでやる。」
魔人は醜悪な笑みを浮かべた。
魔人は先手を打たんとする。
超級魔法「ヘルフレア」!!
カレンがすかさずバリアを張ってくれたので、レッズは無傷だ。
「ほう。小賢しい魔導士が2人か。いいだろう。」
「今汝我の問いに答えよ。その暗黒の力で世界を暗く染めたまえ。ブラックサーペント!」
黒い大きな蛇のような魔獣が姿を現した。
「ドルス!この魔獣を任せます!」
カレンは瞬時に判断する。
「わかりました。」
ドルスは素直に従った。
ブラックサーペントが毒霧を吐いた。
ドルスは毒霧を少し喰らうが、解毒魔法を使う。
「ヒール」
今度はドルスの番だ。
ドルスは必殺の詠唱をする。
一度はキーナに敗れた魔法、しかし、ここに本調子のドルスが存在する。
あるいは今なら。
「汝今我の問いに答えよ。永久の時を司りし、天使の息吹今ここに!ヘヴンタイムロスト!」
ブラックサーペントの時が止まった。
ここからだ。
さらに決め手の魔法をドルスは使用する。
「汝今我の問いに答えよ。その天より司りし扉よりその姿を見せたまえ!」
そう詠唱すると、そこに現れたのは。
グリフォンだった。
そして、グリフォンがブラックサーペントを引き裂いて見せたのだ。
こうして、ブラックサーペントをドルスは倒した。
その頃、レッズ達も魔人ゲーチスを追い詰めていた。
「貴様ら!クソ!まだ復活したばかりで魔力が弱いか!」
そんな風にゲーチスは憤慨していると、思わぬ助けを得ることになる。
レッズ達にとっては最悪のあの魔人だ。
辺りに黒い渦が立ち込める。
「おや。お困りの様ですねゲーチス。」
その魔人は黒い霧の中から少しずつ姿を見せようとしている。
「その声はゼネスか!お前はこの赤髪と因縁があるらしいな。」
「ええ。グラン様達はお忙しい。だから私達でこの者達を始末しますよ。これを使います。」
そう言うと、ゼネスは黒い水晶を取り出した。
「あれは!」
カレンが気づいた時には遅かった。
ゼネスは黒い水晶を地面に叩きつけ、パリンと割れた。
「これは魔人王様直属の悪魔を召喚するためのものです。」
さあ出でよダークデーモン!
ゼネスがそう叫ぶと地面に黒い丸状の渦が現れる。
そして、折り畳まれた黒い翼が少しずつ浮き彫りになっていく。
ここに悪魔が復活した。
「レッズさん。この勝負分が悪いです。悪魔は五大魔人よりやや劣りますがそれでも災害クラスには違いありません。」
カレンがレッズにそう訴えた。
「なるほど。ですが、そんなものを野放しになんてしておけませんね。」
「ふふっ。レッズさんならそうおっしゃると思っていましたよ。無論最後まで私も闘います。」
カレンも瞳に決意を滲ませる。
ダークデーモンが猛威を振るい始めた。
後もう一つこちらにも手があれば...カレンはそう考えていた。しかし、神は見捨てない。
グレスがこんなこともあろうかと、援軍を用意していたのだ。
キースターの元王国戦士長候補だった旧友のクレイツが駆けつけてきたのだ。
「クレイツ!お前は本当に頼りになるなあ!」
レッズはその援軍で見る顔を心の底から喜んだ。
「クレイツは手負のゲーチスを頼む。俺はゼネスと決着をつける。カレンさんとドルスさんはダークデーモンだ!頼めるか!」
「了解!」と全員異論はないようだ。
しかし、レッズの相手は自分の倍はあると思われる強さの魔人だ。
それでもレッズは止まれなかった。
「俺がここで諦めてる場合じゃねえ!」
レッズは自身にそう言い聞かせる。
レッズは出し惜しみなく本気を出した。
気を大剣に注ぎ込む。
すると埋め込まれた赤い石が光って応えた。
「んん?まさかその剣は...魔人族に伝わる伝説の武具、漆黒の大剣!?」
ゼネスは驚きと恐怖を隠せない。
だが、もう遅い。
レッズは全てを出し切ろうとしていた。
「無事に帰ったらあいつにただいまって言うんだ!」
ただそれだけのために。




