第五話
レッズはロワネイアにいるグレスに報告をする。
「今回の秘宝は手に入った。だが、他に気になることがあってな。」
「なんだ?」
「まず、秘宝が隠されていた遺跡に魔人族の紋章があったことと、もう一つはこれだ。」
レッズはグレスに破れた地図の欠片を見せた。
「ほう。なるほどな。」
「何かわかったか?」
「これは恐らくだが魔界の地図やもしれん。魔人王に繋がってくる可能性もある。あるに越したことはない。地図も集める方向で頼む。」
「ああ、わかったよ。」
グレスは小包をレッズに渡す。
「これが今回の謝礼だ。少ないか?」
レッズからするとかなり入っているのではと思った。
キースターの今の王国戦士長の給料ってどれくらいなんだろ?と疑問に思ったほどである。
いや、十分だ。ロワネイア大金貨30枚十分破格だった。
「いや、助かるよ。」
これでキーナに洋服でも仕立ててやろう。とまた親バカが出てしまう。
「そして、朗報だ。」とグレスは言う。
「魔人王に繋がる鍵の一つブラックキーと呼ばれるものの所在がわかった。今回はしばらく休め。直ぐに発つ必要はない。」
「ああ、少しだけ休ませてもらう。それで、どこにあるんだ?」
「左隣にあるレースト共和国の南東に位置する古代湖の麓にある神殿だ。」
「なるほどな。次もしっかりやるさ。」
「ああ。」
とレッズはグレスの元を去った。
キーナの方はというと、大学対抗模擬戦の準備に追われていた。
今回はレッズも見に来るらしいので、キーナは張り切って準備していた。
そして、キーナは当日を迎える。
観覧席にはレッズの姿があった。
赤髪が目立っている。
一回戦の相手はクリスティーナ・ワルツだ。
貴族のお嬢様でも腕は立つらしい。
戦いのゴングが鳴った。
キーナは相手の出方を伺いながら上級魔法フレイム・バレットを放つ。
クリスティーナは少し後ろに押されながらも自前の盾と防御魔法バリアで防いだ。
キーナの感触としては悪くないという感じだった。
次はクリスティーナのほうから攻撃が来る。
剣を炎で纏った。
「フレイムソード!」
キーナもバリアで剣戟を防いだ。
キーナの火力はなかなかのものだと見ているレッズは思ったのだった。
そして、キーナが再び魔法で追撃する。
「これでトドメです!」
超級魔法「ビッグバン!」
クリスティーナはバリアを復唱するが防ぎきれず、キーナの勝利だ。
キーナがレッズのほうを見て微笑んでいる。
「勝者キーナ・アス・フォルトゥナ!!!!!」
キーナは順当に勝ち上がっていった。
そして、ついに決勝戦だ。
相手はドルス・レム。
キーナの同学年でキーナと同じく天才と言われている。
この男は魔導師としてキーナに引けを取らない。
ゴングが鳴る。
キーナはドルスがいかに強いかを知っていた。
故に出方を伺っている。
しかし、それは相手もそうだった。
同様にドルスも彼女を警戒していたのだ。
先手を打ったのはドルスだ。
ドルスは剣を扱うのではない。
純粋に優れた魔法を使う。
上級魔法「ストーンエッジ」をキーナに放つ。
しかし、相手はキーナだ。
高い魔力量を誇るキーナの固いバリアは上級魔法でさえ防いで見せた。
さらに、ドルスはキーナに追撃する。
上級魔法「サンダーショットガン」だ。
キーナは体は少し痺れたが防いで見せた。
しかし、今のはなかなかの威力だっただろう。
そして、両者奥の手を出す。
ドルスは「君はかなりの腕前だ。12聖魔導士に興味はないか?」と言いながら必殺の魔法の詠唱を始めた。
「12聖魔導士ですか...あらゆる危険区域にも特例での活動を許されるという。」
確かに、12聖魔導士自体にはさほど興味があるわけではなかった。
しかし、レッズの役に立つというのなら。
キーナは超級魔法の詠唱を始める「天高く舞い降りしそれは、宇宙の法則さえ爆ぜるだろう。ビックバン・ノヴァ!!」
それは、キーナにとって今出せる全力の魔法だった。
対して、相手の詠唱も終わる。「ヘヴンタイムロスト!!」
時が止まった。
しかし、キーナだけは止まらなかった。否止まってはいけなかった。
「いっっっけー!!!!!!!!!!!!」
「ぐうううう!」
ドルスを怒涛の衝撃が襲う。
そして、「何ということだー!12聖魔導士のドルスは敗れ、今立っているのは美しい金髪の少女キーナ・アス・フォルトゥナだー!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
観客の盛り上がりも最高潮だった。
キーナがドルスに勝利した要因はドルスのヘヴンタイムロストに干渉できるロストタイムという一種のアンチマジックで相殺を狙い、それが成功したためであった。
それは同時に一種の賭けでもあった。
それ程に今回懸ける想いは違った。なぜなら。
キーナはレッズの方を見ている。
レッズはキーナの得意な表情を優しい眼差しで見ているのであった。
そして、キーナはもう一つ決意した。
「キーナ君。12聖魔導士の件だが...」
「はい。今空席が出ていると聞きました。私には恩に報いたい人がいます。是非加えていただけますか?」
「はは。ああ、もちろんだとも。だが、その道は険しく辛いこともあるだろう。覚悟はいいかな?」とドルスは問う。
「はい。全力で臨みます。」
「ああ。」ドルスは屈託のない笑みを浮かべるのだった。
こうしてキーナは12聖魔導士の後釜に選ばれた。
レッズはキーナの勝利に御馳走をプレゼントした。行きつけの飲食店でフルコースを頼んだのだ。
「今後ともご贔屓にー!」と店を後にし、キーナに問いかける。
「キーナ。12聖魔導士に選ばれたんだったな。俺は誇らしいよ。それとな、今回大学の長期休暇の間俺の旅に付き合ってくれないか?お前を見てて思ったんだもう連れていってもいいと。」
「はい、私もレッズさんと世界を見て回りたいんです。私のように苦しんでいる人たちの助けになるためにも。」
キーナの表情がパッと明るくなり、同時に覚悟も決めたような眼差しを赤髪に送る。
「嬉しいです...ついに連れていってもらえるんですね。」
「ああ、キーナの力が必要になってくる。」
キーナはそのためにこれまで大学で必死に勉強し、超級魔法までを会得していたのだ。
これ以上に嬉しいことはなかった。
「後はレッズさんのところにお嫁に行ければ..ゴニョゴニョ」と小声で呟く。
「おいおい。俺とキーナは歳もかなり離れてるんだぞ。大人をからかわないこと。」
レッズを堕とすのは難易度が高いと金髪の少女は思い知らされた。
「いいえ!何でもないです。」
とキーナは焦ったのだった。
そして、レースト共和国へ出発する日が来た。
「今回はレーストにある神殿にあるとされるブラックキーを手に入れる旅だ。キーナよろしく頼む。」
「はい!」
馬車で隣国のレーストに向かう。
キーナは国境の城壁を見てなかなかロワネイアは立派な国だと思った。
レーストの領土に入ると、こじんまりとしているが悪くないと思わせる活気のある街がいくつもあった。
道中で魔物などにもあまり出くわさなかった。冒険者達が仕事をしているのだろう。
そして、巨大湖に近い距離にあるフラットタウンで宿をとることにした。
フラットタウンの市場もこれまた活気があり、レッズも楽しそうに買い物をしている。
キーナも買い物を楽しみ、その日は宿で一夜を明かした。
しかし、翌朝にレッズたちは予想もしていなかった事件に巻き込まれてしまう。
そう魔人族が絡んでくるのだ。
魔の手がレッズとキーナに忍び寄る。




