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第三話

 キーナは驚いていた。


 レッズがここまで激情に駆られるさまを初めて見たからである。


 レッズはすぐさまローブ姿に襲いかかった。


 しかし、レッズの大剣はローブ姿を捉える事はなかった。


 レッズはそのローブ姿に見覚えがあった。


 かつての対魔人戦争でレッズの故郷を壊滅させた魔人だ。


 「ゼネス。貴様がまさか生きていたとはな。」レッズが何故だか急に冷静になる。


 「久しいですねレッズ。今は連れがいるんでしたっけ?サンライトなんて縁起の良い名前ですね。あなたの暗い過去とは裏腹に。」


 ゼネスはフードを脱いだ。


 そこから顔を覗かせたのは青い髪をし、黒い2本の角を生やしたまるで人間のような生き物だった。

 

 それを聞いたレッズの怒りは頂点に達した。


 「貴様が俺から大切な物を奪った張本人だろうがー!!!!!!」レッズは再び大剣で斬りかかる。


 ゼネスは古龍を操り、火を噴かせた。


 まるでオーケストラの指揮者のように軽やかに手を動かす。


 古龍はそれに応じて、尻尾でレッズを打ち払おうとする。


 それをレッズは横に躱して見せた。


 大切な物を奪われた?


 キーナは動転していた。


 あのレッズがここまで取り乱し、敵の挑発に乗っているなんて。


 今回の敵が只ならないという事だけはわかった。


 キーナはレッズを上級魔法ウォーターブレイクで援護する。


 古龍の炎をキーナは掻き消した。


 その瞬間、蒸気の中から出てきたレッズがゼネスを切り払う。


 しかし、不発だった。


 大剣はゼネスの影を真っ二つにしただけだったのだ。


 グレスと他の者は古龍の対応をしている。


 レッズとゼネスは互いの瞳で睨み合い、ゼネスは軽口を叩く。


 「あなたはやはり変わりませんね。昔の事を思い出しているのですか?」


 ゼネスは嫌な笑みを浮かべた。


 普段冷静で穏やかなレッズがここまで激情に駆られる理由。


 そう、レッズは他でもない家族をこの魔人に奪われた過去があるのだ。


 赤髪はそんな過去に歯軋りし、ゼネスに立ち向かう。しかし。


 「おやあ、もうこんな時間ですか。私は戻ります。せいぜい古龍と戯れてくださいな。」


 ゼネスは古龍に何か打ち込んだ。そして、黒い花びらを落とし、どこからともなく消えた。


 すると、古龍の目が赤紫色に染まったのだ。


 「レッズ!先程までよりも凶暴化しているぞ!今は古龍が先だ!」


 グレスはレッズを諭す。


 「グッ。わかった!全員で目標だった古龍に撃ちかかれ!」


 「うおおおおおおおおおおお!」他の冒険者達も士気を上げた。

 

 









 レッズ達はなんとか古龍を討伐できた。


 当分の間の資金も稼いだが、レッズは浮かない表情をしている。


 キーナもそれを見て悩んだ。


 そこで少女は赤髪にこう言う。


 「レッズさん!私いっぱい勉強してレッズさんのこと笑顔にして見せます。だからそんなに思い詰めた表情をしないでください。」


 そこでレッズは気づく。


 自分にはこんなに想ってくれる大切な人が出来ているのではないかと。


 そうして、キーナは勉強熱心だったのでロワネイア大学に入学する事となった。

 

 落ち込んでいたレッズが少しだけ持ち直したようにもキーナには見えていたと思う。


 キーナは学校に通いながら、レッズと時々冒険者稼業をすることになった。


 無論レッズの秘宝集めの旅もある。


 だがその旅にはまだ今のキーナを連れていくことができない。


 危険が多いからだ。


 もちろん冒険者稼業にだって危険は付き物だ。


 だが、秘宝集めは魔人に関係している。


 危険の度合いが違ってくるのだ。


 そして、ついに秘宝集めの旅に出る日がやってきた。


 最初は青の秘宝ダルクンベルクスがあると言われる南大陸に向かうことになる。


 といっても南大陸は広く、大陸中部にあるケレスといわれる都市で目撃情報が入ったらしい。


 なんでも、密林の中にある遺跡にそれらしいものを見かけたとか。


 「キーナ。俺が留守の間体に気をつけてな。勉強の方は心配してないぞ。お前は真面目な子だからな。ハハハ。」


 「レッズさん!私大学でいっぱい勉強して強くなって絶対レッズさんの隣に立ちますから!」


 「楽しみにしてる。」


 レッズは魔人に出会った時のようなやつれた顔はもうしていなかった。


 キーナはそれを見て少し安心していたのだった。


 ロワネイアから南の方角に位置している南大陸だが、間にグリス王国、その南にカータン帝国を挟んでいる。


 しかし、国を二つも跨ぐのは面倒なので、グリスとカータンの東に面するカラス海を通る選択をした。


 船旅の道中に時々良い景色も見れた。


 天候も荒れることはあったが、なんとか問題なく二月後に南大陸のケレスへ到着できた。


 さてここからだ。


 ダルクンベルクスの目撃情報を現地人に確かめる。


 「青の秘宝か。そいつは伝説に謳われるダルクンベルクスのことだろ?にわかにそんなものが本当に存在しているのか疑問といやあそうだね。」


 「そうか。知らないか。ありがとう。」


 「青の秘宝ねー。」


 「青の秘宝か....。」


 そしてようやく当たりを引いた。


 「その話なら、先月くらいだったか遺跡の調査隊が派遣されたんだが、その生き残りがそんな話をしていたそうだな。」


 「そうか。その生き残りは?」


 「あんちゃん。確かにあんちゃんは強そうに見える。だが、あんまり深入りしないほうがってこれもお節介か。」


 「いや忠告感謝するよ。肝に銘じておく。」


 「ならいいんだよ。生き残りがどこにいるか知りたいんだろ?」


 「ああ。」


 町娘は言う。「クロノ・トワール。そいつを見つけたらそう唱えな。頬に十字の傷が入った気難しそうな顔した奴だよ。」


 「ありがとう。助かった。」レッズは町娘に謝礼を渡した。


 去り際に町娘が「ったく。あいつといい、あんたといい皆ほんとに命知らずなんだから....。」しかし、レッズの耳にそれは届かないのであった。


 レッズは男を探したがその日は見つからず宿をとることにした。


 そして、次の日に半日ほど探したら手掛かりを掴んだ。


 「ああ、そのバカなら昨日からザレ遺跡に新たなメンバーを組んで出て行ったそうだよ。反対する者も多かったのにね。」


 「ありがとう。助かった。」レッズは謝礼を忘れずに渡し、遺跡の場所を聞いた。


 「遺跡はケレスから西門をくぐり抜けて、そのまま向かっていくがいいさ。」


 「その顔じゃ、あんたも行くつもりだろ?」


 レッズは少しはにかんで「安心しなおっちゃん。俺がそいつらを無事に帰してやるさ。」


 おっちゃんは苦笑したが、少し真剣な眼差しで「おうよ。」と元気よく返した。


 レッズは西門をくぐり抜け、ザレ遺跡に向かった。


 遺跡に到着すると、門に気になるものを見つけた。「この紋章はどこかで....今は後回しだ。」


 門を力づくで開け、中に入ると扉が閉まった。そして開かない。


 「なるほど、そういう仕組みか。」レッズは奥へ進んでいく。








 同時刻、ザレ遺跡にて。


 その男は遺跡の探索メンバーの一人だった。


 最も生き残りは男と治癒魔導士の女一人だったが。


 男の名はラセム。頬に十字の傷があり表情の固い青年だ。


 その青年の目的はザレ遺跡に眠るとされる古代王国の財宝。


 故郷の村を困窮から救うのが目的だった。


 同じく同郷のミーラと再び遺跡に挑んでいる。


 遺跡にはそこそこ強力なモンスターも出た。


 だが、これでもラセムとミーラはA級冒険者まで上り詰めた実力者だ。


 順調に奥まで進んでいる。


 しかし、以前躓いた遺跡の主は恐らく危険度S級だと思われる。


 そこさえ、突破できればとラセムは考え詰めていた。


 そして、ついにその主と相対した。


 ラセムとミーラと他のメンバーも善戦する。

 

 だが、弱ったはずの主が急に目の色を赤紫に染めて、尚且つ暴走し始めたのだ。


 そして、白虎のような見た目に一本の角でラセムの喉元まで届きそうになったその瞬間!


 何者かがその立派な角を切り落としたのだ。


 これは剣と呼ぶのだろうか?


 「クロノ・トワール」赤髪の男がそう唱えた。

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