第二話
レッズはグレスと対峙した。
「久しいなレッズよ。貴様今は流浪をやっているようだな。お似合いだ。」
「お前も相変わらずだな。言われなくてものびのびやっているつもりだが...」
「私に勝てるつもりなのか?それか何か言いたいことでもあるのか?」
「お前をここにくぎ付けにするのが役目だが、まあいい、少し遊んでやるよ。」
「馬鹿にしているつもりか?まあいい。相手は貴様だからな。遠慮なくいかせてもらう。」
グレスは聖剣を構える。
対してレッズは大剣を構えた。
某ダークファンタジーのあれみたいに、それは剣というには重い代物だった。
レッズの赤髪が風に揺れている。
二人の達人が相対し、空気が凄む。
先手を打ったのはグレスだ。
「セーーーーーーーイ!!!!!」
グレスの渾身の打ち込みをレッズは大剣で薙ぎ払う。
「ガゴーーーン!」
レッズとグレスの打ち合いはまるで、獰猛な獣同士が互いを襲い合っているようだ。
「ギン!」 「ガン!」
しばらく打ち合いが続いた。
だが、ここで勝負は動く。
レッズの大剣がグレスの聖剣を打ち払い、グレスの手から剣が離れたのだ。
レッズはその瞬間を見逃さなかった。
すかさず、グレスの首筋に剣先を向けた。
勝負ありだ。
グレスはとても悔しそうな顔で、レッズを睨む。
しかし、どこか諦めた様子で、
「今回は私の負けを認める。貴様腕が鈍るどころか少し強くなったのではないか?」
「そうだなあ。今は連れがいるからな。」
そう言うと、レッズはこっちへ向かってくるキーナ達の方を見つめる。
「なるほど。そういうことか。フッ。」
グレスは何かに気づいたようにレッズの背中を見ていた。
キーナ達も無事に作戦を終え、敵の攪乱に成功した。
戦争はレッズ達がグレスを留めたのが大きく、ロワネイアの勝利に終わる。
戦争から二年が経った。
今はもうキーナは16となり成人した。
今日はキーナの成人祝いだ。
その日キーナは夢を見る。
それは、思い出したくないことがフラッシュバックする内容だった。
実はキーナは転生者なのである。
前世の名前は緑川蘭というどこにでもいそうな普通の女子中学生だった。
そんな蘭ことキーナはかつてのクリート王国、現在のグリス王国の貴族に転生した。
両親は可愛がってくれた。
何不自由なく育っていたが、それも急な形で終わりを迎える。
それは、クリート・コネム戦争だ。
クリート王国は隣国のコネムにより統一され、名を改めてグリス王国としたのだ。
ちなみにグリス王国はロワネイアの南に位置する。
グリス王国はクリートの貴族たちの位を奪い、事実上コネムに取り込まれたのだ。
そこからが苦しかった。
食べるものにさえ困るようになり、ついには奴隷にもなった。
しかし、今の自分は冒険者として稼ぎ、それなりに暮らしていけている。
それは誰のおかげか。
レッズという赤い髪をした男だ。
あの時レッズに拾い上げてもらっていなければ今の自分は無かったと堂々と言える。
キーナにとって親代わりでもあって恩人である。
レッズから成人祝いとして高価なブーツを買ってもらい、キーナはルンルンだった。
しかし、キーナは街角で怪しいローブ姿を見かけた。
キーナはどうしても放っておけず、後を付けることにする。
後でレッズに怒られるかもと思いながら、路地裏まで行くとそこは貧民街だった。
それにしてもおかしい。
ただの盗人ならここまでの違和感は感じないはずとキーナは思った。
引き返そうかと来た道に顔を向けると、そこにローブ姿が道を塞いで立っていた。
「あなた。何か怪しいわね。一体何者なのかしら。私は冒険者パーティーサンライトのキーナよ。」
「ほう。ということはレッズの連れですか。なら手傷を負わせると怖いですねえ。」
「レッズさんを知ってるのね。」
「ええまあ。昔少しね。私に気づくとはさすがレッズの連れといったところでしょうか。ですが、忠告です。私たちに深入りするのはやめたほうがいい。」
それだけです。とローブの影は花びらを落として姿を消した。
「キーナ!あまり危険な場所には行かないこと!いいな!」
「うう、ごめんなさい。」
「わかればいいんだ。しかし、妙だ。俺と関わったことのあるやつでそんな奴は....」
「深入りはするな、か。」
「はい。」
「いや。まさかな。」
「どうかしたんですか。」
「いいや。気にするな。」とレッズはキーナを安心させるように笑って見せたのだった。
数日がたったころ、事は動く。
所属するギルドから古龍討伐の依頼が来たのだ。
「古龍ジークヘルムか。今の俺とキーナならなんとかなるかもしれないな。」
「はい!頑張りましょう。」
集められたメンバーの中に見知った者がいた。
グレスだ。
「お国のお偉いさんにこんなとこで会うとはな。まあ心強くはあるが。」
「フン。貴様も古龍退治に呼ばれたか。」
「まあな。今回のはそんなにやるのか?」
「私たち英雄級二人も用意したからにはそれなりに手ごわいだろう。それに後程貴様に話がある。」
「なんだよ。改まってよ。まあいい後で聞いてやる。」
レッズ達は古龍の洞窟の中央まで来た。
皆が一休みするなか、グレスがレッズに耳打ちする。
「魔人族の生き残りがまだどこかに潜伏しているらしいのだ。それだけではないぞ。あの魔人王を復活させるために暗躍しているようだ。」
「なんだと!」
「私も驚いている。魔人一体で私たち二人は相手にできるだろう。そんなものが何体も出てきてみろ。奴らの気まぐれで国が亡ぶやもしれん。」
「ああ、そうだな。このことはクレイツと何人かの重鎮くらいだろ。知ってるのは。」
レッズはグレスに問う。
「そうだが。」
「すぐにでも奴らのしっぽを掴みに行くべきだろ。」
「私が用もなくこんな依頼を受けると思っているのか。今回の古龍の暴走を私は魔人絡みだと見ている。」
「なるほど。だからわざわざここまで出向いたってわけか。得心がいった。」
「ああ、そういうことになる。魔人王にたどり着くには4つの秘宝と2つの鍵が必要なのだ。」
「伝承通りならそうだろうな。」
「そこで、貴様にそれらを集めるのに協力を求めるのが本題なのだ。」
「なるほどな。もちろんタダとは言わねえよな。」
「無論キースターから金は出す。」
「助かるぜ。キーナをこれで学校に行かせてやれる。」
「助かるのはこちらだ。貴様の手を借りれるのだからな。」
「いいのさ。キーナの事はおれが責任もって育てなきゃな。」
レッズとグレスが何やら二人話を終えたようだ。
キーナは久しぶりに真剣な顔のレッズを見たのだった。
洞窟最深部まで到達した。
物音一つしない不気味な空間にキーナは少し恐怖をおぼえた。
奴隷時代似たような空間で夜を過ごしたこともあったからだろうか。
それを思い出し、キーナは身震いする。
だがその時とは違うのが、私にはこの人がいる。
そう、こんなにも頼れる赤髪の戦士が。
しかし、あの時と似た気配がする。
でもレッズさんは大丈夫だと言ってくれたし...
それでも、キーナの予感は当たってしまう。
ローブ姿が古龍を手なづける姿を目撃したのだ。
古の龍の目は傀儡のようであり、ローブ姿に従順に見えた。
「おやあ、あの時のお嬢さん。そちらはもしかして....」
レッズの表情が鬼のように変わったのだった。




