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第十六話

 確かに第一王子レイドは何を考えているのかわからない男だ。


 しかし、今や敵となったレッズを推す声はヴァン以外からも出たものの。


 「ガイア様は人間でもありながらお強い。しかし、我々はガイア様の故郷を焼き払った。そう簡単に耳を貸していただけるかしら?それに魔人王様がもうすぐお目覚めになるはずよ。そうなれば私たちの勝ちじゃないの?魔族にでも干渉しない限り、優先事項じゃないわね。」


 厄災の魔人ミネスは言う。


 ミネスの意見に同意する魔人は多かった。


 「ガイア様達は今、魔人王様の元にたどり着くための秘宝と鍵を集めておられるそうだ。それが、集まるのも時間の問題。レーネスト様の復活が先か、あるいはガイア様達が。」


 嘆きの魔人グランがそう言うと蓄えた髭をなぞる。


 「まあ、仮に復活の前にたどり着かれても私たちが直接妨害すればいいわ。魔人王様直属の私たちならあの空間に立ち入ることも許可されてるわけだしね。」


 ミネスはその美貌を鏡で確認しながら満足そうに言った。


 「なんにせよ、魔人王様を開かずの空間から解放しないと意味がないよ。大昔に人間族に伝わっていた『自由への招待』を手に入れるのを優先すべきだね。」


 見た目が少し幼いベガがそう言いながら、足をぶらんとさせている。


 自由への招待。それはとある笛の名である。


 正しい音階で奏でれば魔人王を封印している断罪の鎖のロックが開くというのだ。


 だが同時にその正しい音階を奏でられる者を見つける必要もあった。


 その者を見つけるところまであと一歩のとこまで来ている。


 もし、レッズ達が4つの秘宝と2つの鍵を神々の祭壇で使用すれば、魔人王の座標に合わせ転移することができるのだった。


 復活の前にたどり着くのがベストという状況だ。


 魔人のレベルだとその空間に入ることができる。


 だがしかし、魔人王の魔力や気の力を完全に封印する断罪の鎖で繋がれているためレーネスト自体は封印を自力で解くことも転移することもできない。


 つまり、一人はレッズ達が魔人王の元にたどり着いた時のために見張りにつくことになった。


 選ばれたのはグランだ。


 彼の魔力量は魔人王に最も近いのでこうなるのは必然であろう。


 魔人たちが暗躍していたのはこうした準備をする必要があったからであった。


 







 「朗報だ。赤の秘宝の在りかがわかったやもしれん。」聖剣の持ち主はそう言った。


 「どこにあるんだ?」


 「貴様の愛剣を見せろ。」


 「ああ。」レッズは不思議そうに愛剣を渡す。


 するとグレスは剣に埋め込まれていた赤い石を引っこ抜いた。


 「ええ!!!!」レッズは驚嘆する。


 「灯台下暗しというやつだな。だが、精気を失っている。精霊に力を借りねば。」


 「そうか。俺が気を流しこんだ時に光るのはそういうわけだったのか。」


 「それに貴様も精霊から真実を聞くといい。」


 「まさかそれって俺が追放された理由?」








 レッズは精霊の住む緑生い茂る森まで来ていた。


 レッズは精霊を見つけると精霊カディも気づいたようだ。


 カディは開口一番に「レッズ!本当にごめんなさい。」


 レッズには何がなんだか分からなかった。


 グレスが説明する。


 「これも魔人族が関係していることだ。」


 と現戦士長は前置きし、


 「あのね、ざっくりいうと僕、魔人族をかばってたんだ。最近まで森にも住まわせててね。でも敵じゃないよ!多分。それでね。レッズに不利なことを言った理由なんだけど。」


 「何なんだ?」


 レッズはやはり気になるようでカディに問いかける。


 「かくまっている魔人が言うんだ。レッズこそ救世主だって。だけど、今のままじゃ出会うべき仲間に出会えないって。それで、レッズはキースターの王に恩義を感じてたし、キースターを愛していた。だからあのやり方しか敵国のロワネイアでのもう一人の救世主キーナに出会う運命にならなかったんだと思う。」


 「なるほど。そういうことだったのか。」


 レッズはあまり気にしていないようで。


 「そのおかげでキーナに出会えたし、カレンさんたちにも出会えた。後悔はないし、事情が事情だから気に病むなカディ。」


 レッズは旧知の間柄の精霊にそう言った。


 「ありがとう。レッズ。その魔人なんだけどそういえばどことなくレッズに似た雰囲気の人だったよ。もう出て行っちゃったけど。」


 「そうか。グレスも一応言っておくがお前も気にするなよ。王様にもよろしく言っといてくれ。昔は世話になったことだしな。」


 レッズは朗らかに笑って見せたのだった。


 グレスは申し訳なさそうにするのも失礼だと感じ、ほんの少し微笑んで返したのだった。







 片やレッズ達は残すはパープルキーだけに。


 片や魔人族は笛吹きを探すのみとなった。


 両者後一手のところまで来ている。


 その均衡が破れる時が来た。


 レントがぼろぼろで今にも生き絶えそうになって戻ってきたのだ。


 「レント!」


 レッズはレントを抱き抱える。


 「交渉は最終的に決裂した。だが、最後のピースは俺の命と引き換えに持って来たぞ。」


 その手にはパープルキーがあった。


 「レント!死んだら師匠にどやされるぞ!」


 レッズの目頭が熱くなる。


 「本当だな。ハハ。」


 レントは弱々しく笑う。


 「レッズお前もガキじゃねんだから泣くな。後最後に耳貸せ。」


 レッズがレントに耳打ちされた時の見たこともないような打ちのめされた表情をその場にいたグレスは目の当たりにするのだった。


 





 全ての鍵は揃った。


 祭壇の前にレッズ、キーナ、クレイツ、グレス、カレン、カミラ、ユーゼといった錚々たる顔ぶれが並ぶ。


 このメンバーで魔人王討伐に挑むのだった。


 レッズはもう今さら自分が恐らく魔人王の血筋であることなどどうでも良かった。


 今目の前にいる大切な仲間達を守る。


 それだけでいい。そう思っている。


 そして、大勢の魔導士達が唱える。


 「ああ、選ばれし者達よ。その声は慈愛に満ち、その剣は悪しきを挫き、その心は何よりも強くあれ。さあ行かん。そして、人々を救いたまえ。」そうして、討伐メンバーの姿は消えた。







 ついに来たか。全ての至宝を拾い、鍵を見つけ、ついにこの時が。


 そこに待ち構えていたのは五大魔人が二人だった。グラン、ベガだ。


 だが、そこに封印されているはずの魔人王の姿はなかった。


 「一足遅かったな人間ども。我らが主は先程復活された。」


 だが、これも想定しているうちだった。


 レッズ達はここで後の局面のためにどうしても五大魔人を倒しておきたい。


 しかし、それは相手とて同じこと。


 うん?カミラの様子が少しおかしくなった。


 レッズはすかさずフォローを入れる。「どうしました。カミラさん?」


 「レッズさん。選択の時が来たようです。」


 この時、レッズは腹を括った。


 そして、この闘いはレッズにとってかつてないほど熾烈なものとなる。


 個々で一騎当千の戦力を持つ魔人族の力の実態はいかに。

 

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