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第十四話

 レッズ達は無事に目的の物を手に入れ、ロワネイアに戻ることになった。


 カミラはこの島を離れるのを少し口惜しそうにしている。


 レーンバルはいつも通りの目をしていて、クレイツはレッズの異変に気付いていた。


 レッズはカミラの話を聞いて以来、パッとしないままだ。


 それでもレッズが前を向こうとしていること、クレイツ達の身を案じていることをクレイツという男はくみ取っていた。


 レッズとクレイツは出会ってからというものそれ以来、兄弟のような関係と言ってもいい。


 そして、今回の戦いで新たな勢力がいることも発覚した。状況は芳しくない。


 しかし、立ち止まっている時間はなかった。


 





 帰り道の話。


 「レッズさん。ごめんなさい。私軽率でした。」


 ここにはレッズとカミラしかいない。


 「良いんですよ。むしろ助かりました。気を引き締め直します。」


 「そうですか。わかりました。私にできることなら力になります。」


 「ありがとうございます。その時は遠慮なく。」と言うと、レッズは柔和な笑みを浮かべた。


 カミラはレッズの今の固さを心配している。


 だが、同時に信じたい。


 頼もしい強さをもったレッズとその仲間たちを。


 




 そして、いつもの親しんだ土地に帰ってきた。


 「おかえりなさい。レッズさ」


 キーナだ。彼女はレッズの異変に気付いた。


 「おかえりなさい。レッズさん。」


 「ああ。ただいま。」


 「レッズさん少し二人で街まで行きませんか?」


 「ああ、そうだな。」


 金髪の少女はそう言うと、朗らかに笑う。


 レッズはその笑顔を見て、少し不安が掻き消えたのであった。






 二人は街の露店に立ち寄り、串焼きを頬張る。


 「レッズさん。あそこの店主息子さんが引き継いだんですって。先代とは少し違いますが、それでも美味しいです。」


 金髪の少女は無邪気に笑う。


 それをレッズは慈愛に満ちた天使のように見つめていた。


 「レッズさん。私の顔がどうかしましたか?」


 「いいや、なんでもない。」


 この一時の平和な時間がずっと続けばいいのに。


 なんて思っていたのだった。


 「そういえば、キャラル島には美味しいお店がたくさんあったらしいですね。」


 「ああ、あそこの料理はほんとに良かった。また二人で行こう。」


 「約束ですよ?」


 「ああ。約束だ。」


 二人の間にそよ風が吹いているのだった。





 その頃、キースター王城にて。


 「天使族か。少し厄介だな。」


 聖剣の持ち主であるグレスはそう言う。


 「ええ、後でレッズさんの話を聞いてやってください。」


 「ああ。」


 「それと、単刀直入に言わせてもらうと、レッズさんを追放したのはグレスの旦那も本位ではなかった。違ってますかい?」


 「そこまで気づいていたか。それも追い追い話をしよう。今はこの国、いや、この大陸の民を守るために尽力してくれ。」


 「ええ。わかってます。」


 クレイツはこれでも勘のいいほうだ。


 「それとお前には休暇を出す。少しだが好きに遊んで来い。」


 「はい!」


 グレスはやはり侮れない。とクレイツは思うのだった。


 「最後に一つ。」


 「なんだ?」


 「今のレッズさんに発破をかけられるのは俺じゃねえ。キーナちゃんにも俺にも担えない役割があんたにはある。どうか。支えてやってくだせえ。」


 「無論だ。奴にはキースターのためにもまだまだ働いてもらうつもりだからな。」


 「旦那らしいや。でももう心配いらないかもな。それじゃ、ちょっと暇をもらうとしますか。」


 グレスにはクレイツという男の背中が少しいつもとは違う頼もしさを備えたことに気付くのだった。







 あの天使族は魔人王の復活も近いといっていた。


 恐らくこれから魔人族と人類の全面戦争がはじまるということだ。


 そうそれは決して避けられない戦い。


 レッズはキーナの顔を見て、安心した顔をみせるようになった。


 レッズ、クレイツ、キーナ、その仲間たちも魔人族を迎え撃つ準備を始めた。





 レッズはグレスの元へ行く。


 「カレン達から話は聞いているか?ゲレトン神殿が破壊され、鍵が一つ奪われたようだ。天使族がまさか出てくるとはな。」


 「ああ。クレイツでさえ、苦戦していたな。相当な手練れだった。」


 「お前の兄弟子を名乗る者が今パープルキーの交渉に行っている真っ最中だ。」


 「レントか。しばらく会っていないな。」


 「赤の秘宝ケレイルフォークスの所在地がまだ掴めていない。だが、魔人族との戦いも近い。わかったことがあれば追って連絡する。」


 「あと一つ。」


 「何だ?」


 レッズは首を傾げる。


 「貴様は俺に勝利している。が、再戦して私が勝つまで誰にも負けたりましてや死んだりするなよ。」


 「わかってるよ。再戦までには俺はもっと強くなってるぜ。」


 レッズはいたずらな笑みを浮かべる。


 「無論だ。それでもって貴様を打ち破るのだ。」


 「ああ、負けられねえな。」


 これでクレイツは満足しただろうか?


 少なくともレッズはどこか肩が軽くなった気がしたのだった。







 その頃、レントは天界まで訪れていた。


 「天使長ザイナス様。お目通りできて光栄にございます。」


 「私のもとに来たということはそれなりの理由があろうな。」


 天使長の威光はかなりのものだった。


 「人類と手を組めということではありません。しかし、魔人族だけが脅威ではないことを知りました。それはあなたがたを指すのではなくあの絶縁世界の向こう側の勢力のことです。」


 絶縁世界。


 それはこの大陸の海を越えた端の先の見えない世界である。


 現在世界は中央大陸(キースター、レースト、グリス等)、北大陸、南大陸、キャラル島が地図に記されている範囲内だ。


 天界、北の奥にあるとされる魔人族領土、煉獄その他にもっと危惧すべき問題がある。


 「絶縁世界の向こう側。つまり魔族というわけか。」


 天使長は目を細めてレントに問いかける。


 「そして、僭越ながらここからの話は人払いをお願いしたく存じます。」


 「わかった。お前たち退がれ。」


 果たしてレントの思惑はどのようなものなのか。





 

 赤髪たちの様子はこうだった。


 レッズはグレスから天使族との交渉が行われている最中と聞かされて間もない。


 「まったく天使長と顔見知りなんてとんでもねえ兄弟子だ。」


 「一度お会いしてみたいです。レッズさんに兄弟子がいたなんて。」


 「ああ。師匠に一緒にしごかれたもんだ。」


 レッズとキーナは仲睦まじく話している様子。


 周りを通っていく人が微笑ましげに見ている。


 「さあ、キーナ今日も修行だ。張り切っていくぞ!」


 「はい、もちろんです!」


 





 一方で、カレン達は七賢人の命で北大陸北東のチュス迷宮を探索していた。


 カレンとドルスは壁に不思議な絵が描かれた部屋を見つける。


 「あれ私これと同じようなものをどこかで。」


 「私もです。」ドルスも同調する。


 そしてそこにはカレンの師匠ユーゼも同行していた。


 「これはまさか。」ユーゼはそう言うと、あたりを再度見回す。


 その時ユーザの表情が一瞬こわばったことにカレンは気づかなかった。


 「古代魔人族に伝わる伝承を記すものかもしれない。これを解読できれば、魔人族との戦争に役立つ可能性がある!」


 カレン、ユーゼ、ドルスは、そこからは何も言わずに絵画を書き記すのだった。


 ユーぜは同時にこの世界の行末に想いを馳せる。


 そして、人類が辿る道とはいかに。

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