【第8シーン】「ペンは、まだ動く」
夜明け前の空が、群青から淡い朱へと変わっていく。
ルシエナの屋敷の小さな部屋。
冷たい空気の中、蝋燭の炎が最後の光をふるわせていた。
その前で、ひとりの少女が炭筆を握っている。
ルシエナ・ヴァルステッド。
かつて“悪役令嬢”と呼ばれ、今は“物語を描く者”として息づく少女。
羊皮紙の上には、子猫とパンとランプの続きを描く線。
線はやわらかく、けれど確かに“生きて”いた。
(……笑ってくれた。あの子も、村の人たちも。
だったら、私は――まだ描ける。)
手が止まらない。
夜明けの光が、ページを照らす。
外では、風が花の香りを運んでくる。
> 「私は、物語を描く。
それが“悪役”でも、“魔法”でも構わない。
だって――」
炭筆の先が、白い紙に最後の線を刻む。
> 「描くことこそ、私の生き方だから。」
その瞬間、ペン先がかすかに光を放った。
金色の光がページを走り、描かれた子猫がふわりと笑う。
窓の外。
朝焼けの光が、庭に差し込む。
夜露をまとった草花が、一斉に花開く。
風が吹き抜ける。
光の粒が空に舞い上がり、まるで“世界そのもの”が笑っているようだった。
ルシエナはペンを置き、そっと目を閉じる。
微笑みが、静かにその唇に浮かんだ。
> 「……よし。次の話も、描こう。」
朝日が昇る。
その光の中で、彼女の髪が金色にきらめいた。
――そして、ページの端に文字が浮かぶ。
『悪役令嬢ですが、漫画を描かせてください!』
ペンは、まだ動いている。
彼女の物語も、まだ終わらない。




