【第7シーン】「断罪の崩壊」
――王都・ルミエール城。
白亜の回廊に、慌ただしい足音が響いた。
侍従が手にした封書を握りしめ、謁見の間へと駆け込む。
玉座の間では、王太子セドリックと聖女エレナが文官たちを従えていた。
王国の秩序を司る二人――だが、その空気には焦りが滲んでいる。
「報告いたします!」
文官が膝をつき、声を震わせる。
> 「追放されたルシエナ・ヴァルステッド様が、辺境で“笑う魔法”を使い、
荒れ果てた土地を豊かにしているとのことです!」
謁見の間がざわめいた。
「なに……?」
「“笑う魔法”? そんな系統の魔法は存在しないはずだ!」
「報告では、彼女の描いた“絵物語”を読んだ者に花が咲き、病が癒えたと――」
セドリックの眉が、ぴくりと動く。
> 「ばかな……あの女は断罪されたはずだ。
聖女に嫉妬し、陰謀を巡らせた罪人だぞ!」
しかし、エレナは小さく震えていた。
掌に浮かぶ光が、かすかに揺れている。
「……セドリック様……私の“聖光”が……乱れています……」
聖女の掌から漏れる光は、不安定に明滅していた。
以前のような清らかな輝きではなく、どこか――掠れている。
「まるで、何かに力を奪われているみたい……」
文官が顔を見合わせた。
「まさか……断罪の因果が、変質している……?」
セドリックは立ち上がる。
> 「……そんな馬鹿なことがあるか。
“物語”は完成していたはずだ。あれは、運命の決定事項の――」
だがその時、空気が揺れた。
窓の外から吹き込む風が、白い花びらを運び込む。
ありえないはずの季節外れの花。
兵士のひとりが呆然と呟いた。
> 「……辺境からの風です。笑うと花が咲くという――」
花びらが、聖女エレナの足元に落ちた瞬間。
聖なる光が一瞬、消えた。
「っ……! 力が……!」
セドリックは彼女を抱きとめ、歯を食いしばる。
「ルシエナ……貴様、何をした……!」
――けれど、その声は誰にも届かない。
この世界を支えていた“脚本”が、
少しずつ、音を立てて崩れ始めていた。
神が書いた筋書きではなく、
一人の“創作者”が描く物語が、
現実そのものを書き換えつつあった。
> 「運命の……歯車が、狂い始めている……」
誰かが呟いたその言葉が、
静寂の王城に、不吉な余韻を残した。




