【第6シーン】「広がる笑いの波紋」
それは、ひとりの少年の笑顔から始まった。
村の片隅。石造りの小さな家々の間で、トマは友だちに羊皮紙を見せていた。
「見てこれ! 子猫がパン盗むんだよ! でも、お姉ちゃんが怒らないんだ!」
「ほんと? うそだろ! 見せて!」
子どもたちは目を輝かせ、紙の上をのぞき込む。
やがて――ひとりが笑い、もうひとりが笑い、やがて輪が広がった。
> 「あははっ! なんだこれ! かわいい!」
> 「パンがまるごと転がってる!」
笑い声が響くたびに、地面の草がふわりと揺れ、
淡い金色の光が子どもたちの周りを包んだ。
「……見て! 花が咲いた!」
「ほんとだ! すごい!」
小さな白い花が、子どもたちの足元に次々と咲いていく。
誰かが笑うたびに、新しい花が生まれる。
その光景を見て、通りがかった大人たちが足を止めた。
「なんだ、あれは……?」
「“笑うと花が咲く”って、本当に……?」
やがて大人たちも、その羊皮紙を覗き込み、
どこか照れくさそうに口元を緩めた。
パン屋の娘、旅の商人、村の司祭。
皆が、笑った。
「これ、誰が描いたんだ?」
「知らないわ。けど……見てるだけで元気になる。」
人々はその絵を模写し始めた。
炭で、羽根ペンで、布切れに。
子どもたちが描き、老人が描き、村の壁にまで“子猫とパン”が描かれていく。
――そして、そこからもまた、光が生まれた。
夜、教会の鐘が鳴るころには、村全体がやさしい光に包まれていた。
まるで“笑い”そのものが、聖なる祈りになったようだった。
噂はすぐに広まる。
> 「笑うと花が咲く不思議な絵物語があるらしい」
> 「読んだだけで心が軽くなるんだって!」
旅商人がその話を隣町に伝え、
そこから王都へ――。
王都の中央教会。
記録室で静かに羽根ペンを走らせていた青年が、その噂に耳を止めた。
「……笑うと、花が咲く?」
青年の名はユリウス・クローデル。
教会の記録係にして、古文書と魔法理論を愛する学者肌の男。
「奇跡の記録には載っていない現象だ……。
調べてみる価値は、ありそうだな。」
机の上の蝋燭が、ふっと揺れた。
その炎の中に、どこかで描かれた“子猫”の笑顔が一瞬浮かんだ気がした。
――知らぬ者の手で描かれた一枚の絵が、
世界の均衡を静かに動かし始めていた。




