表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、漫画を描かせてください!〜ペン一本で世界を救う転生記〜  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/41

【第5シーン】「はじめての読者」

 ――春の風が、まだ冷たい季節だった。


 ルシエナの屋敷の裏庭。

 干した羊皮紙が風に揺れ、ぱたぱたと音を立てる。


 > 「あっ……!」


 次の瞬間、強い風が吹いた。

 描きかけの漫画がふわりと宙に舞う。

 白い紙片が蝶のように空を舞い、森の向こうへ飛んでいった。


 「うそ、まって! 戻ってきて!」


 ルシエナはスカートを掴み、慌てて駆け出した。

 靴に泥が跳ねる。髪がほどける。

 それでも構わず追いかける。


 ――その先。


 村の丘の上で、一人の少年が羊皮紙を拾い上げていた。

 薄汚れた服。痩せた体。けれど、その瞳は澄んでいた。


 「……なんだ、これ?」


 少年――トマは、紙をじっと見つめる。

 描かれていたのは、小さな子猫と、大きなパン。

 パンを盗もうとして転んで、ランプの灯りに照らされ、

 お姉さんが笑って手を差し伸べる――そんな絵だった。


 「……ぷっ……あははっ!」


 笑った。

 心の底から、声を出して。


 「これ、子猫がパンを盗むのに怒られなくて……お姉ちゃんが笑うんだ!

  なんか……すごく、あったかい!」


 その声に、ルシエナは立ち止まった。

 胸がきゅっと締めつけられる。


 「……笑った? 本当に……?」


 トマが顔を上げ、にっこりと笑う。

 「うん! これ、すごく好きだ!」


 その言葉を聞いた瞬間――ルシエナの視界が滲んだ。

 涙が、勝手にこぼれ落ちた。


 「……ありがとう。……描いてよかった……」


 ぽつりと呟いた彼女の周囲で、風が静かに舞う。


 ふと、少年の笑顔の周りに、淡い光が生まれた。

 それは金色の粒子のようにふわりと浮かび、空へと広がっていく。


 「……え……なに、これ……?」


 トマが目を丸くする。

 ルシエナも息を呑む。


 光は、風に乗って村へと流れていった。

 畑の上で、しおれていた草花がゆっくりと花開く。

 家々の窓辺では、争っていた家族がふと笑い合う。

 街道を歩く旅人の肩の荷が、少し軽くなるような――そんな不思議なぬくもり。


 > 「……笑いの、魔法……?」


 ルシエナは手を胸に当てた。

 心の奥で、何かが確かに灯った気がした。


 「トマくん。」

 「うん?」

 「また、見てくれる? 次の話も、描くから。」


 少年は力強く頷く。

 > 「うん! ぜったい見る!」


 その瞬間、屋敷の上空を、春の風が駆け抜けた。

 光の粒が尾を引きながら、空に一本の軌跡を描く。


 それはまるで――

 “新しい物語のページ”がめくられていくようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ