第5シーン:「漫画の日」
それから、いくつもの季節が過ぎた。
崩壊していた王都は、再び賑わいを取り戻している。
石畳の新広場には露店が立ち並び、街のあちこちから笑い声が響いていた。
今日――この日は、「漫画の日」。
人々が“描くこと”を祝う日として、世界中で定められた祝祭だった。
子どもたちは地面いっぱいにチョークで絵を描き、
若者たちは壁に即興の物語を刻む。
老人たちは広場の木陰で、昔の本を読み聞かせていた。
泣き虫の道化、キャンプ令嬢、そして笑う王。
――どの物語も、かつて世界を救った“物語のかけら”だった。
小さな少女が空を見上げながら、隣の老人に尋ねた。
「ねえ、おじいちゃん。
この空の線、誰が描いたの?」
老人は優しく微笑み、空を指さした。
そこには一本の光の線が、今もなお空を横切っていた。
まるで、世界を包むように。
「昔ね、“笑顔の魔導士”がいたんだよ。
彼女は、世界が泣いていた時に――最後の笑顔を描いたんだ。
そして、その笑顔を空へ伸ばすように、一本の線を引いていった。
それが、あの“光の線”なんだ。」
少女は瞳を輝かせて、両手を伸ばす。
空の線を掴もうとするように。
「……すごい。
まるで、お話の中みたい!」
「そうさ。だけどね――」
老人は目を細め、微笑んだ。
「本当に“お話の中”なのかもしれないよ。
この世界は、誰かが描いた物語なんだから。」
空に一本、消えない光の線が続いている。
それは、ルシエナが最後に描いた――この世界の未来線。
風が吹き、子どもたちの笑い声が響く。
空の線が、ほんの一瞬だけ揺らめいた。
まるで、どこかで彼女が微笑んだように。
(終)




