【第6章/終章】◆第4シーン:「ペンの終わり、空の始まり」
世界が、静かに白へと染まっていった。
風も音も、涙さえも吸い込むような静寂の中で――ルシエナは立っていた。
彼女の体は、もう輪郭を保てず、淡い光の粒となって空へ昇っていく。
まるで、自分が描いた線そのものに溶けていくように。
足元の紙の大地には、まだ彼女のペン跡が残っている。
その線が、風に揺れ、きらきらと輝いていた。
インクルが駆け寄る。
その瞳には涙が浮かんでいるのに、笑顔だった。
「ルシエナ……ありがとう。
君の描いた“笑顔”が、これからも空を彩るよ。」
インクルの小さな手が、彼女の指先に触れる。
その瞬間、光がひときわ強く瞬いた。
ルシエナは優しく微笑んだ。
その表情は、不思議なほど穏やかだった。
「描くことは……生きること。
だから、私は――まだここにいる。」
彼女の声が風に溶け、残りの光がふわりと宙に舞う。
次の瞬間、ルシエナの姿は完全に消えた。
だが、空には一本の光の線が残っていた。
それはどこまでも続き、雲を割り、大地を結び、海の向こうまで伸びていく。
まるで“物語そのものの脈”――この世界を永遠に繋ぐ、創造の軌跡。
その線が描く軌道に合わせて、風が吹いた。
新しい空のページが、静かにめくられていく。
インクルは光の空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「……ほら、ルシエナ。
君の物語は、まだ続いてるよ。」
その声に応えるように、空の線がふっと輝きを増した。
――それはまるで、彼女の“笑顔”が、もう一度そこに描かれたようだった。




