【第6章/終章】第2シーン:「物語の真実」
まぶしい光の中で、ルシエナはゆっくりと目を開いた。
そこは――空でも、大地でもなかった。
一面の白。
色も音も失われた“虚空”の中に、ただ無数の紙片だけが漂っていた。
その紙片たちは、破れたページのようにひらひらと舞いながら、淡い光を放っている。
よく見ると、そこに描かれているのは、見覚えのある人物たちだった。
焚き火を囲む令嬢、風を追う少年、泣き虫の道化――。
それは、ルシエナがこれまでに描いてきた“物語の断片”たち。
ここは、原稿層。
創造の根源、すべての物語が生まれ、記録される“世界の下書き”だった。
「……ここは……どこ……?」
その声に応えるように、柔らかな光が形を取った。
インクのしずくが集まり、小さな姿を形づくる。
それは――インクル。
かつて彼女が描いた、泣き虫の道化の精霊。
「ルシエナ……気づいた?」
インクルは微笑んだ。
その瞳には、無数の星のような文字が浮かんでいる。
「この世界はね、“誰かが描いた物語”なんだよ。」
続けて、柔らかな祈りの声が響いた。
金色の光がゆらめき、カルディナの幻影が現れる。
白い法衣の端が風もない空間に揺れた。
「君が描いた線は、ずっとこの世界を支えていた。」
「だからこそ、今、君のペンが止まれば――世界も止まる。」
ルシエナは息をのんだ。
目の前に広がるのは、破れたページの海。
それは自分が描いてきた世界の断片であり、誰かが生きた証でもあった。
彼女はそっと、ひとつの紙片を拾い上げた。
そこには――幼い日の自分が、初めて描いた小さな笑顔があった。
指先が震える。
涙が、紙に落ちた。
「……全部、つながってたのね。」
彼女の声はかすかに震え、けれど優しかった。
「この世界も、人々の想いも。
“物語”で、できていたんだ。」
その瞬間、白の虚空に柔らかな風が吹いた。
破れたページがひとつ、またひとつ、光となって再び繋がり始める。




