【第3シーン】「断罪の笑い」
王太子セドリックの怒声が響き、貴族たちのざわめきが渦を巻く。
断罪の場は熱を帯び、まるで火刑台のような緊張感に包まれていた。
「身の程を知れ!」「聖女を貶めるなど恥を知れ!」
「公爵家の面汚しだ!」
飛び交う罵声の中、ルシエナは、ゆっくりと視線を落とした。
白磁のように美しい指先が、震えている。
けれど、その震えは――恐怖ではなかった。
(あぁ、まただ。誰かが勝手に決めた“役”を押し付けられて、
その通りに終わるしかないなんて……もう、うんざり。)
深く息を吸い込み、ルシエナは顔を上げた。
その瞳は、どこか遠くを見ているようだった。
> 「――いいじゃない。」
小さく、それでいてよく通る声だった。
ざわめきが止まり、視線が一点に集まる。
> 「恋愛も、悪役も、もう疲れた。」
会場が凍る。
王太子が眉をひそめ、聖女エレナが不安げに彼を見上げる。
> 「な、何を……?」
ルシエナはふっと笑った。
それは嘲笑ではなく、どこか救われたような笑み。
> 「私は――描く!」
声が大広間に響き渡った。
その瞬間、空気が変わる。
まるで舞台の照明が切り替わるように、
彼女だけが別の世界に立っているようだった。
「……は?」
「描くって、なにを……?」
困惑する貴族たち。
王太子は完全に言葉を失い、聖女エレナが小さく肩をすくめる。
しかしルシエナは、もう彼らを見ていなかった。
> 「断罪? 追放? 上等じゃない。」
> 「こっちから、“自分の物語”を描き直してやる。」
ドレスの裾を翻し、ゆっくりと背を向ける。
重い扉が開き、外の光が差し込んだ。
その姿はまるで、舞台を降りる役者のように静かで堂々としていた。
――パタン。
扉が閉まる音が響いた瞬間、
“悪役令嬢ルシエナの断罪”という名の物語は崩壊を始めた。
残された者たちは、ただ呆然とその背を見送るしかなかった。
王太子は震える声で呟く。
> 「……な、なんだったんだ、あれは……」
聖女エレナは静かに答える。
> 「……運命が、書き換わったのかもしれません」
彼女たちの知らぬところで――
一人の元漫画家が、“物語の神”に挑み始めた瞬間だった。




