第4章 第4シーン「嵐の前触れ」
王国評議会――
金と権威の匂いが漂う、閉ざされた大理石の間。
壁には古の英雄像。
だが、その目はもう民ではなく「秩序」だけを見ていた。
貴族A:「“絵物語”が子どもたちの教科書になっていると聞く。」
貴族B:「兵士までもが戦場で泣く。……感情が統制できぬのだ。」
貴族C:「思想を操る魔導書だ。笑いと涙で民心を動かすとは――まるで神だ。」
机の上に、ルシエナの漫画が投げ出される。
炎のように議論が広がる。
「風は制御せねばならん。」
「“感情魔法”を野放しにすれば、王国は崩壊する!」
“漫画禁止令”――その草案が、またも議題に上がる。
沈黙の中で、椅子を引く音が響く。
立ち上がったのは、かつてルシエナを弾圧した神官――カルディナ。
今は聖堂を離れ、教会改革派の代表としてこの場にいた。
カルディナ:「あなた方は恐れているのですね。
だが、彼女は神を模倣したのではない。」
(一同がざわめく)
「神が、人の手を借りて夢を描いているのです。
“赦し”も“希望”も――その風は、神と人の共作だ。」
彼の声は静かだったが、評議室の空気を震わせた。
かつて涙を拒んだ男が、今は夢を擁護していた。
だが、会議が終わった後――
その廊下の奥で、黒衣の男たちが密談を交わしていた。
王国情報局、通称《灰の手》。
“民の心の監視”を任務とする抑圧組織。
黒衣の男:「風は……制御できぬなら、利用すればいい。」
「“物語”は兵器にもなる。民の夢を、王の夢に書き換えるのだ。」
薄暗いランプの光の中で、机上に新たな布告書が置かれる。
その表紙には――《文化統制局 設立案》の文字。
一方そのころ、ノエルは共和国の港で新たな通信を受け取る。
封蝋に刻まれた紋章を見て、顔を曇らせた。
ノエル:「……風を封じるつもりか。」
「なら、俺たちは――もっと強い風を起こすまでだ。」
その言葉が、遠い王都まで届いたかのように、
夜空に不穏な嵐の気配が漂いはじめる。
ナレーション:
“文化は自由か、それとも支配の道具か。
風は、誰の手に握られるのか。”
――やがて吹き荒れる、思想の嵐の幕が静かに上がった。




