第3章 エピローグ「再生の朝」
夜明けの王都。
聖堂広場を包んでいた光の花は、朝露に溶けて消えつつあった。
それでも人々の顔には、まだ微かな光が残っている。
涙の跡が、やわらかな微笑みに変わっていた。
ユリウスは、崩れかけた鐘楼の上で記録を取り続けていた。
風に揺れる羊皮紙に、整った筆跡が並ぶ。
“観測記録:感情魔法・第三式――『涙=浄化』。
これにより、負の感情領域の再生が確認された。
……すなわち、人の涙が世界の傷を癒やす。”
ペン先を止め、彼は朝焼けに染まる街を見下ろす。
かつて戦と恐れに覆われた王都が、いまは静かな祈りに包まれていた。
そこにあるのは“信仰”ではなく、“赦し”という希望だった。
その頃、広場の片隅では、ルシエナとライネルが立っていた。
花の香りが漂う中、ライネルは空を見上げて呟く。
「……戦も、憎しみも、涙で終わらせられるのか。」
彼の声には、かつての皮肉も迷いもなかった。
ただ、長い戦いの果てに見つけた静かな問いだけが残っている。
ルシエナは少し考え、穏やかに微笑んだ。
「涙は、終わりじゃなくて“始まり”よ。
だって、泣いたあとにしか――人は笑えないもの。」
その言葉に、ライネルは目を細めた。
朝日が二人の影を伸ばし、石畳に重なる。
ルシエナは手にしていた新しいノートを開き、
白いページにゆっくりとペンを走らせた。
――『第4章:風の記憶』
インクの線が光に照らされ、まるで生命を宿したように揺らめく。
ミリアがその肩越しに覗き込み、嬉しそうに笑った。
「また、新しい物語ですね。」
ルシエナは小さく頷く。
「ええ。
世界が泣くのをやめたなら、今度は――風に歌わせましょう。」
その瞬間、朝の風が吹き抜け、
光の花の花弁がふわりと舞い上がった。
新しい物語のはじまりを祝うように。
第3章『光の下で眠る花』 完
――涙が赦しとなり、
赦しが、再生の朝を呼んだ。




