第3章 第1シーン「神々の沈黙」
王都――白い石畳が朝の光を反射し、黄金の尖塔が空を突いていた。
人々のざわめきと鐘の音。そのすべてが整然として美しい。だが、どこか冷たかった。
笑い声のない街。光だけが、無言で人々を支配している。
「……ここが、王都……」
ミリアが息を呑む。彼女の腕の中で、荷車に積まれた本の束がわずかに震えていた。
ルシエナはフードを深くかぶり、静かに人の流れを見つめる。
その視線の先――広場の中央に、巨大な聖堂がそびえていた。
その前では、神官たちが布告を読み上げている。
掲げられた羊皮紙には、冷たい言葉が並んでいた。
「虚構は神の御業を穢す。
絵画、物語、芝居――すべて、異端の芽なり。
これを禁ず。」
群衆の中にどよめきが走る。
そして、壇上の神官たちが抱えた束を取り出した瞬間――ミリアが息を詰めた。
燃え上がる火の粉。
その中にあったのは、ルシエナの漫画だった。
『黒鉄の騎士と白い子犬』――戦を止めた物語が、炎に呑まれていく。
「やめて……!」
ミリアが思わず叫び出る。
「この物語が、どれだけの人を救ったと思ってるの!」
神官たちは振り向かない。
ただ、炎を見つめながら祈りの言葉を唱え続けた。
そのとき、群衆の奥から一人の男が進み出た。
銀の髪を束ね、青い法衣を纏った若き神官。
瞳には一片の揺らぎもない。
「人の手で“奇跡”を生むなど――神への冒涜です。」
彼の名はカルディナ。
教会の若き異端審問官にして、神の正義を体現する男だった。
ルシエナは、その声を静かに受け止める。
ミリアが怒りで震える腕を掴み、ルシエナの顔を見上げた。
だが、彼女の瞳には怒りではなく、深い静寂があった。
「……そうね。けれど、私たちは神を敵に回したらしいわ。」
その声は小さかったが、風に乗って広場の隅々まで響いた。
燃える本の灰が舞い、空を白く染めていく。
ユリウスはその光景を見つめ、唇を噛む。
ライネルは腕を組み、低く呟いた。
「神を敵に、か。……面倒な旅になりそうだな。」
ルシエナは顔を上げ、朝日に目を細める。
炎の向こうで、焼け落ちる漫画の最後のページが、ひらりと舞い上がった。
そこには、笑顔の子犬が描かれていた。
――芸術は、祈りを超えた祈りとなる。
その瞬間、彼女の胸の奥で、何かが静かに目を覚ました。
“芸術VS信仰”――。
ルシエナたちの戦いが、ここから始まる。




