【第2シーン】「目覚めたら断罪会場」
まぶしい光に包まれて、佐倉灯はゆっくりと目を開けた。
最初に見えたのは――真っ白な天井。
……いや、よく見ると、そこは見慣れた安アパートの天井じゃない。
白い大理石。金の装飾。高い天井に吊るされた巨大なシャンデリア。
「……なにこれ。撮影スタジオ?」
ぼんやりと呟く声が、広い空間に響いた。
次の瞬間、怒号が飛ぶ。
> 「ルシエナ・ヴァルステッド公爵令嬢!
聖女エレナへの侮辱、嫉妬、陰謀――これらをもって、婚約を破棄する!」
「え、なに、誰の話……ルシエナ?」
周囲を見渡すと、ずらりと並んだ貴族たちが一斉にこちらを睨んでいた。
煌びやかな服、厳しい表情、そして玉座の上には――金髪碧眼の王太子。
その隣で、神々しい光に包まれた少女が涙ぐんでいる。
「せ、聖女エレナ……!? って、ちょっと待って」
灯――いや、今の彼女の体の主、ルシエナの脳裏に閃く記憶。
この構図、このセリフ、この演出。
どこかで、何百回も見たような……
> 「……ああっ、これ、『ルミエールの花嫁』の断罪イベントじゃん!?」
頭を抱えた。
人気乙女ゲームのラスボス悪役令嬢・ルシエナ。
主人公・聖女エレナに嫉妬し、陰謀を巡らせ、最後に処刑される――
あの伝説のバッドエンドシーン。
> 「嘘でしょ……? なんで私が悪役令嬢やってるの!?」
会場の視線が一斉に集まる。
ルシエナは混乱のあまり、うっかり口に出してしまったらしい。
> 「なにを言っている、ルシエナ!」
王太子セドリックが怒りに震える声を上げる。
その金髪が光を反射し、やたらと絵になる。
だが灯は、そんなことよりも自分の運命を計算していた。
(このあと確か、罪をなすりつけられて、牢に入れられて、処刑コース……)
うん、完全に詰みだ。
> 「ああ……夢も恋も仕事も失敗した挙句、転生か。
笑えないなぁ、ほんと……」
乾いた笑いがこぼれる。
周囲の貴族たちは「なにを笑っているのだ!」とざわめいたが、
彼女はふと、ほんの少しだけ口角を上げた。
> 「――ま、どうせ私の人生、いつもバッドエンドだったし」
その瞬間、彼女の中で何かが弾けた。
恐怖も羞恥も吹き飛んで、ただ静かな開き直りが残る。
> 「……いいじゃない。恋愛も悪役も、もう疲れた。」
> 「私は、描く!」
その言葉に、会場が凍りつく。
セドリックも、聖女エレナも、貴族たちも、ぽかんと口を開けていた。
「……描く? い、今なんと?」
誰かが聞き返す。
ルシエナはドレスの裾をつまみ、ふわりと一礼した。
その顔には、奇妙にすっきりとした笑み。
> 「婚約破棄? 追放? ご自由に。
でも、私のペンは止めさせないわ」
くるりと踵を返し、彼女は静かに退場した。
――“断罪”という名の脚本が、崩れ始める音がした。




