【第2章・第5シーン】 「ペンと剣のあいだに」
夕暮れが、辺境の空を金色に染めていた。
屋敷の鐘楼から見える遠い北の空には、もう煙も血の匂いもなかった。
ただ、雪解けの風がやわらかく吹き抜けていく。
ミリアが駆け込んできた。
その頬には涙の跡があり、手には一通の封書を握っている。
> 「ルシエナ様っ! 王都からの報せです――!
北方戦線、停戦だそうです! 本当に、戦が止まりました!」
彼女はそのまま、ルシエナに抱きついた。
震える声で、何度も繰り返す。
> 「ルシエナ様の物語が……戦を止めたんです!」
ルシエナは驚いたように目を瞬かせ、それから、ゆっくりと息を吐いた。
> 「……いいえ。戦を終わらせたのは、
あの物語を“信じた人たち”よ。」
窓の外では、陽が沈みかけていた。
空の端が紅く燃え、夜の青と混ざり合う。
その境界に、どこか“ペンと剣”のような対比が見えた。
ユリウスが椅子から立ち上がり、静かに言う。
> 「あなたの“優しさ”が、世界に伝わったんですよ。
物語の力が、証明されたんです。」
ルシエナは微笑む。
> 「優しさが武器になるなら――世界は、少しだけ前に進めるわね。」
そのとき、重い扉が軋んで開いた。
夕陽を背に、黒い外套の男が立っていた。
ライネル・ヴァルガス。
あの戦場を生き抜いた傭兵。
彼の瞳には、もう“戦の影”ではなく、
わずかな光――希望が宿っていた。
> 「……護衛の仕事、まだ空いてるか?」
ルシエナは目を丸くする。
> 「ライネル……あなた、まさか……」
彼は不器用に肩をすくめた。
> 「次は――俺も、その物語に出てみたくなったんだ。
剣じゃなくて、ペンのそばでな。」
沈む夕陽の中、ルシエナは静かに笑った。
> 「ようこそ、“ペンと笑顔の仲間”へ。」
ミリアが拍手をし、ユリウスが苦笑しながら眼鏡を押し上げる。
暖かな笑い声が、夕焼けに溶けていく。
ルシエナは机に座り、炭筆を取った。
白い羊皮紙の上に、新しいタイトルを書く。
――『次の物語:王都への道』。
ペン先が光を宿し、風がページをめくる。
物語は、まだ終わらない。
✨第2章 完
『黒鉄の騎士と、涙の犬』
――争いより、理解を。
優しさは、誰かを救う魔法になる。




