【第2章・第3シーン】 「共鳴の魔法」
北方戦線――。
雪解けを待たず、泥にまみれた大地に、無数の焚き火が灯っていた。
冷たい風が吹き抜け、兵士たちの息が白く染まる。
だがその夜、野営地には奇妙な静けさがあった。
ひとりの兵士が、懐から紙束を取り出す。
煤で汚れた指先で、大切そうにページをめくった。
> 「これ……“黒鉄の騎士”って言うんだって。」
> 「敵兵を助けた話か?」
> 「ああ。……俺の家にいた犬に、似てるんだ。あの白い子犬。」
小さな笑いが、焚き火の間を渡っていく。
誰もが戦に疲れていた。
誰もが、ほんの少しだけ“心の隙間”を求めていた。
その物語は、まるでそこに息づいているように優しかった。
黒鉄の鎧をまとった騎士が、倒れた敵兵を抱き上げ、
傷ついた犬を庇いながら夜明けを迎える。
読んだ者の胸に、温かいものが灯る。
言葉にならない感情――“守りたい”という思い。
そのときだった。
焚き火の光の中、兵士たちの胸元が淡く輝き始めた。
ページを持つ手、笑い合う目。
そこから、小さな“光の粒”がゆっくりと空へ昇っていく。
ユリウスが魔導測定器を見つめて息を呑む。
> 「これは……共鳴だ……!
感情魔法が、個人の枠を超えて“繋がっている”!」
同じ現象は、敵陣の向こう側でも起きていた。
氷の壁を挟み、まったく同じページを読む兵士たちの胸にも――
同じ光が、優しく脈打っていた。
> 「……見ろ。あの光……」
> 「あれ、俺たちの陣からも見えるぞ……」
互いに剣を向け合ってきた者たちが、同じ夜空を見上げた。
光は風に溶け、ひとつに重なり、
戦場全体を包み込むように広がっていく。
ルシエナは遠くの空を見上げながら、炭筆を握りしめた。
> 「この線は――誰かの心を結んでいる。」
ライネルが彼女の隣で低く笑う。
> 「……剣より強い、かもな。」
彼女は頷く。
> 「優しさは、伝染する。
そして、共鳴する。」
その夜、両軍の間に“停戦の光”が流れた。
誰の命令でもなく、
ただ“心”が、“物語”を通して――響き合ったからだった。




