【第1章・第3シーン】「最初の絵物語屋」
昼下がりの村の広場。
市場の喧騒の中、木製の台の上に一枚の魔法陣が描かれていた。
「……よし、これで起動するはずだ」
ユリウスが額の汗を拭い、魔力を流し込む。
複雑に重なり合う魔法陣の光が走り、机の上の一枚の紙を包み込んだ。
パッ、と光がはじける。
そこには、同じ絵が二枚――完全に同じ線で――複写されていた。
「すごい……本当に写った!」
ミリアが歓声を上げる。
ルシエナは紙を手に取り、信じられないように微笑んだ。
> 「これで、“たった一つの物語”を、何人にも届けられるんだ……」
「はいっ! では、あたしが売ってきます!」
ミリアが元気に走り出す。
台の上に並べられた小冊子――手作りの『パンとランプと子猫』。
表紙には、ルシエナが描いた笑う子猫のイラスト。
最初は人々も半信半疑だった。
「絵物語? 聖書の写本みたいなものか?」
「お金を払ってまで読むもんじゃないだろう」
けれど、一人の子どもがページを開いた瞬間。
> 「あっ、この子猫、パンを盗んだのに……怒られてない!」
笑い声が弾けた。
その笑いが、まるで魔法の触媒のように広場に広がる。
ミリア:
> 「見てください、皆さん! これ、すっごく可愛いですよ!」
子どもたちが集まり、ページをのぞき込む。
大人たちも気づけば微笑み、つられて笑いがこぼれた。
――そのとき、光が舞った。
笑い声が重なるたびに、紙の周囲に金の粒が浮かび上がる。
風に揺れる光は、やがて地面へと降り注ぎ、
枯れかけた花壇から小さな花が顔を出した。
「……花が、咲いた?」
誰かの呟きに、空気が静まり返る。
次の瞬間、子どもたちの歓声が爆発した。
> 「お花だ! 笑うと花が咲く!」
> 「この絵、魔法みたい!」
ルシエナは屋敷の窓からその光景を見つめていた。
遠くから聞こえる笑い声。
その音が胸の奥に、じんわりと染み込んでいく。
> 「……ああ、これだ。
これが、描きたかった世界。」
涙がひとすじ、頬を伝う。
彼女の描く“線”が、誰かの心を動かし、世界を少しだけ優しくした。
ミリアが手を振る。
ユリウスが微笑む。
村の広場には、笑顔と花と、金色の光。
その日、初めての“絵物語屋”が誕生した。
そして、世界に小さな奇跡の種が蒔かれた。




