【第1章・第2シーン】「文官見習いの青年」
昼下がりの陽光が、古い教会の窓から差し込んでいた。
埃の粒が光の中を漂い、静寂の空気が紙の匂いを包んでいる。
この村で唯一、本を扱う場所――教会の図書室。
その奥で、青年が小さなノートを開いていた。
淡い金髪に眼鏡。
貴族ではないが、言葉の端々に理知が滲む。
文官見習いのユリウス・クローヴ。
彼は今、噂を追っていた。
――「読むと笑ってしまう」「花が咲く」「絵が光る」。
そんな不思議な“絵物語”が、辺境の村で広まりつつあるという。
「……感情魔法の波及? まさか、術式なしで発動するとは」
呟く声に、背後から小走りの足音。
「ユリウスさん! ご案内します、こちらです!」
ミリアが笑顔で扉を開けた。
その先――木漏れ日の中で、少女がペンを動かしていた。
長い金髪に、煤で汚れた指。
けれど、その瞳は何よりも澄んでいた。
「……あなたが、ルシエナ・ヴァルステッド様ですね。」
「ええ。元・公爵令嬢、現・漫画家よ。」
ユリウスは机の上の羊皮紙に目を落とす。
ページの上では、子猫がパンをくわえて走り、ランプの灯が柔らかに揺れている。
そして――線が、微かに光っていた。
ユリウス:
> 「これは……“想像記述魔法”の応用では?
感情を線に変換する理論……あなた、魔法学の出身ですか?」
ルシエナ:
> 「いいえ、私はただの漫画家です。」
その言葉に、ユリウスの目が見開かれる。
理屈を超えた“創造”の存在に、胸がざわめいた。
「ならば、あなたは魔導理論を超えて“心”を描いた。
すべての感情を可視化し、世界に干渉させる……これは新しい魔法の形だ!」
興奮のあまり、彼は手帳に走り書きを始める。
> 「これを複製できれば――いや、“出版”できれば!
誰もがこの魔法を共有できる!」
「出版?」
ルシエナとミリアが同時に首を傾げる。
ユリウスは目を輝かせて説明した。
> 「原本を写し取り、多くの人々に配る仕組みです。
それが広がれば、王国中に“笑いの光”が届く!」
ミリアが手を叩いた。
> 「それって……すごいです! 絵物語屋さん、ですね!」
ルシエナは思わず笑う。
> 「ふふっ、面白い。
じゃあ、あなたは理屈を描く人。私は物語を描く人。
そしてミリアが、それを届ける人ね。」
ユリウスは軽く頭を下げた。
> 「――文官見習いユリウス・クローヴ。
あなたの“物語革命”に、正式に参加を願います。」
ミリア:
> 「ええ、もちろん! ルシエナ様の助手としても!」
ルシエナ:
> 「ふふ……二人とも、頼りにしてるわ。」
光が差し込む。
机の上の原稿が淡く輝き、三人の影を包み込んだ。
それはまるで――新しい世界が、ここから描かれ始めるかのようだった。




