貴方の眠る時計塔
作者・水沢さやか
共同編集者・水倉綾音
※この作品は舞台台本用に書いたものです
ナレーター「【あの時計塔には宝物が眠っている】この街で古くから言い伝えられている噂です。あの、と言われてもこの街にはどこにも時計塔何て物はなく、時が流れるにつれその噂も忘れられていきました。宝物、とは一体何なんでしょうね。では、ある森に住む人ではない少女の二つの奇跡の物語。開幕です」
では、の所から幕が開き、ナレーターは中央から話しながら上手へ行く
中央より少し下手側に一人の杖をついた老人がいる
下手から凛月、与愛、彗登場し老人の前を通り過ぎる
老人「お主ら、どこへ行くつもりだ。その先には森しかないぞ」
凛月「…」
老人「その森は人を喰う化け物が住みついている」
凛月のみ老人の方へ振り返る
凛月「ニコ、はい。その化け物に会いに行くんです。今から」
暗転
下手側に凛月達3人が居る
上手から小さいバケットを手に持ったティムがスキップで歩いてくる
ティム「ふんふんふ〜ん、あ〜今日もいい天気!空も青く花も綺麗で鳥が冴えずいている!世界が回っている〜」
下手側にいる3人に気づく
ティム「ん?あれ〜?どうかしましたか?」
3人に話しかける
与愛「ティムさん、ですよね?私は与愛といいます。こちらは凛月さんと彗さんです。人外保護研究所の職員です」
ティム「人外…研究所?この街にそんな名前の研究所なんて…。そんな人達がうちに何の用ですか?」
後半警戒気味に
与愛「私達は貴方の事を保護しに来ました」
ティム「…え?」
彗「与愛、突然そんな事言ったら困惑しちゃうよ…って、いや驚いた。本当に人にしか見えない」
彗「君、今までで何人喰った?」
ティム「…え?な、何の話ですか?」
彗「一人か。余程長く正気を喰らい続けたようだね」
ティム「ムッ、本当に何言ってっ…」
凛月「だまれ」(銃を突きつける)
与愛「ちょ、凛月さっ」(彗、肩に手を置く)
ティム「わ、私は人を食べてなんてっ」
凛月「無意識とはタチが悪い」
彗「この館の主は?」
ティム「え?ああ、ご主人様は今外に出てて…」
凛月「いつ」
ティム「?えっと、少し前から…」
凛月「いつからと聞いているんだ」
ティム「…数100年くらい?」
銃を当たらないように放つ
ティム「…?」
凛月「化け物め」
彗「こりゃ離れの森で死んでるな」
ティム「…死?ご主人様が?」
彗「ああ、だろうね。数百年なんて人間の生きる時間じゃあない」
ティム「…そんな訳ないでしょう?ご主人様様は私と『ずっと』一緒にいると約束してくださったんです」
彗「ずっと…ね。無謀な約束だ」
与愛「永遠なんてないんですよ。どうやら時間を消耗し続けたから忘れてしまったみたいですけど」
与愛「いや、生まれた時からずっと貴方は化け物の貴方には分からないか」
ティム「…ばけ…もの」
彗「どれだけ取り繕ったって無駄だよ。君にどれだけ自覚が無かったって、君が殺したって言う事実は消えないんだから」
ティム「…死んだんですか…?…本当に…?」
彗「…待ってあげる。ちょっとだけね。君にとっては瞬きでもしたら過ぎてしまうくらい短い時間だけど。その時間で精一杯考えてみなよ。その頃にもう一度来てあげるから」
彗、与愛上手へ退場
凛月、上手側へ行き途中で止まって振り向かずに
凛月「…時計塔には宝物がある」
ティム「!」
凛月「知っているでしょう?」
ティム「…」
凛月「止まっていた時間、動かしてみたら?…もう手遅れだろうけど」
凛月上手へ退場
ティム「時計塔…」
少女「時計塔が、どうしたの?」
ティム「!ときさん!久しぶりです!」
少女「久しぶりだねえ、元気だった?」
ティム「はい!おかげ様でご主人様が帰ってくるまで元気に…、帰って…くる…」
少女「…さっき言ってた時計塔って、【あの時計塔には宝物が眠っている】って奴でしょ?宝物って、一体何なんだろうね」
ティム「…それは…うん、決めた。ときさん!ありがとう!行ってくるね!」
ティム上手へ駆けていく
少女「ちょ、行くってどこに!?」
暗転
ティム上手から登場
ティム「はあ、はあ、確かこの辺だったはず…あ!あった!」
アンティーク調の鍵を観客に見えるように掲げる
自分の首元から紐に括りつけられている鍵を出して
ティム「二つ目の鍵ゲット!あと2つかぁ〜」
あたりを見渡して
ティム「この辺に来たのも、大分前だっけ」
ティム「あれ?川の向こうに誰かいる。お〜い!そっちは危ないからこっちおいで!」
返事がない
ティム「…あ〜も〜、しょーがないなあ」
下手側へ駆けていく
暗転
少年上手側にいる
ティムが上手から走ってくる
橋を渡り向こう岸へ着く
ティム「君!そこは《金切り熊》が出るから行ったらいけないよ〜!」
少年「…?」
キリキリキリキリ
ティム「《金切り熊》だ!耳を塞いで!洗脳されちゃう!」
少年「!」
ティム、少年耳を塞ぐ
音が遠のいていく
ティム「…行ったかな?《金切り熊》って言うのが、この辺りを占拠してるんだよ。金切り声を発して人を洗脳するんだ。」
少年「…お姉さん、教えてくれてありがとう」
ティム「本当だよ!私がいなけりゃどうなっていた事か!って、私もここで同じ様に助けてもらったんだけどね…」
少年「お姉さんも?」
ティム「そうだよ。ここで落とし物を探していたら《金切り熊》やって来てキリキリキリって、そしたら強〜い大人の人が《金切り熊》に攻撃して追い払ってくれて…」
少年「凄い!かっこいいね!その人!」
ティム「うん…かっこいい。世界で一番かっこいいんだよ」
少年「お姉さんお名前は?知らない人とは話しちゃいけないけど、名前知ってたら話していいんだよね!」
ティム「おお、絶対変な伝わり方してるけどまあいいや。私の名前はティム。」
少年「へえ、不思議な名前だね。」
ティム「あはは、神に授かった名前なんだよ?」
少年「神?」
ティム「そう、神。私のお母さん。君のお母さんはどこ?普通こんな所一人で来ないでしょ?」
少年「お母さんは…病気でお星様になっちゃった」
ティム「!そっか…他に大人は?」
少年、首を横に振る
ティム「…。じゃあ、今一人なの?」
少年「コク(頷く)だから僕、生きなきゃなんだ。でも家のご飯、無くなっちゃったから食べる物探しに来たの」
ティム「…そっか。あ、ちょっと待ってね。」
ゴソゴソと手持ちのバケットから何かを探す
ティム「…あった!はい、これ。ちょっと硬いかもだけど」
バケットからパンを取り出す
少年「パン?」
ティム「そう、パン。ご主人様が帰ってくるかもっていつも何か用意してるんだ。生きるんでしょ?」
少年、頷きティムから受け取ったパンを口に頬張る
少年「!美味しい!僕、こんな美味しいパン初めて食べた!」
ティム「よかった。作った甲斐があるよ」
少年「お姉さんが作ったの!?凄い!」
ティム「ある人に教わってね。それ以来何度か作ってるんだ」
少年「そうなんだ…。お姉さんは食べないの?」
ティム「私は…いいよ」
少年「食べてみてよ!美味しいよ!」
ティム「…じゃあ、一口だけね…」
ティム、パンを少し齧る
少年「…どう?」
ティム「うん…美味しい。美味しいよ…」
少年「でしょ!?」
ティム「何で君が得意げなんだよ」
少年「う〜ん、美味しいとか嬉しいとか、共有しあえたらその人も自分と同じ何だって思える…から?」
ティム「!…そうだね。私も、ずっとそう思ってた」
少年「…お姉さん?」
ティム「…さあ!行くよ!時間を動かしに!」
少年「時間?行くってどこに?」
ティム「【あの時計塔】だよ」
少年「あの?時計塔なんてこの街にあったっけ」
ティム「嘘!知らない!?【あの】だよ!?」
少年「あのってどの?」
ティム「え〜もう忘れ去られてるの〜?早くない…いや、これが正常なのか。」
少年「?」
ティム「いや、何でもない」
少年「あれ?お姉さん、それ何?」
ティム「え?」
ティムの足元に先程とは違うアンティーク調の鍵が落ちている
ティム「あー!!3つ目の鍵!前落としたのこんなとこにあったのー!?」
少年「探し物?」
ティム「うん、絶対無くすなって言われてたんだけど昔つい無くしちゃって…。時計塔これないと入れないのに…」
少年「めっちゃ大事じゃん!?」
ティム「ま〜いいよいいよ。早く行かないと日が暮れちゃう兎に角冒険に行くとでも思って着いておいで」
ティム下手側へ駆ける
少年「僕インドア派なんだけど…」
ティムを追いかけ下手側へ退場
暗転
下手から登場
ティム「ん〜中々見つからないな〜…」
少年「自分が無くしたのに分からないの?」
ティム「いや〜、辛辣なこと言うね〜。…なんか、昔の記憶が曖昧でね…」
少年「そうなんだ。」
ティム「でも覚えてる限りだとここだったんだけどなあ〜…」
少年「その鍵って【時計塔】?に入るために必要なんだよね?何でお姉さんが持ってるの?」
ティム「え?ああ、うーん、なんか生まれた時から持ってて…まあ、神から授かった使命?みたいな」
少年「…お姉さんって不思議な人だね。厨二病ってやつ?」
ティム「それお姉さんの心臓にグサーっと突き刺さるんだけど…」
少年、ティムよりも上手側へ数歩歩く
少年上手側へ背を向ける
少年「あ、ごめん、悪気はなかっ…」
ティム「!危ない!」
銃声が轟く
少年「…え?」
少年倒れる
ティム「!」
ティム、少年の元へ駆け寄る
ティム「…血は…出てない。【フォスの馬】か。…神様、いるんでしょ?出てきなよ」
ティム「…私今、怒ってるんだからね」
上手から神登場
神「娘に怒られては敵いませんね。」
ティム「何が目的なの」
神「目的?娘との戯れに目的なんて…」
ティム「そう言うのいいから」
神「反抗期ですねえ、…ティム、時計塔へ戻りなさい」
ティム「…今行ってんじゃん」
神「違います。貴方、時間進めたらまた戻るつもりでしょう」
ティム「…」
神「ちゃんと役目を果たして欲しいのです」
ティム「…私じゃ無くたって…」
神「ティム」
ティム「…時計塔の管理人なんて、私やりたくなかった。」
神「そんな子供じゃないんですから…」
ティム「子供だよ!ずっと成長しないままの…子供だよっ…」
神「…少しだけ、本当に少しの時間だけ、最後の奇跡を起こしてあげましょう」
ティム「…え?」
神「今までの時間全て意味のなかったと分かってもらうために貴方の永遠とも取れる時間をすり減らしてもらうために」
神「一生懸命生きなさい今を見なさい。そしてそのまま、人間と貴方の違いを痛感しなさい」
ティム「今を…見る…」
神「最後に一度の奇跡を、起こしてあげましょう」
ティム「!この鍵って!」
神「ニコ」
ティム「……最後、なんだよね。…うん。ありがとう!この奇跡、絶対に手離さないから!」
神「ええ、行きなさい。もう一度時間を動かすために!」
ティム下手側へ駆け退場
神「…今日も月は綺麗ですね。」
神、その場にしゃがみ少年の髪を撫でる
神「貴方もそろそろ目覚めなくてはいけませんよ」
暗転
ティム下手側から登場
ティム「はあ、はあ、はあ(段々声を大きく)」
中央で観客側を向いて止まり
ティム「…ここだ。」
今まで集めた鍵と首に掛けていた鍵を一緒に持つ
ティム「ネアイオスの扉よ開きなさい!」
暗転
下手側に座っている少年、上手側にティム
ティム「…」
少年「あ!お姉さん!どうしたの?こんなところで」
ティム「…ああ、うん。そうだ、君、名前聞いてなかったね。教えてくれる?」
無気力気味に
少年「え?ああ言ってなかったっけ、僕の名前はリトス!お母さんが付けてくれたんだ!」
ティム「リトス…ああ、うん。そっか。リトス、いい名前だね」
泣きそうな声で(泣けるんだったら泣いて欲しい)
少年「でしょ!大好きな名前なんだ!」
ティム、少年の方へ歩み寄りながら
ティム「リトス、リトスかぁ、そっか。約束、守ってくれたんだ」
少年「約束?」
ティム、少年を抱きしめる
ティム「ありがとうっ、ありがとう!貴方に会えて私、幸せだった」
少年「大袈裟だなあ」
ティム「…よし!行こう!(涙を拭う素振りをして立ち上がる)」
少年「もういいの?」
ティム「…うん。もう、いいの。新しいパン焼き直さないと!」
少年「そっか。じゃあ早く帰んなきゃだね。楽しみだなあ」
ティム「そうだね。帰んなきゃ。もう何も置いてかない様に。」
少年下手側へ退場
ティム「…もっと幸せになってまた来るから。貴方に会えた奇跡、絶対に忘れないから。忘れない様に生きていくから!だから、その時まで待っていてね」
暗転
中央に少女
扉を叩く素振りをする
少女「ティムちゃ〜ん!」
上手から凛月登場
凛月「居ませんよ」
少女「?貴方だあれ?」
凛月「人に名前を尋ねる前にまず自分から名乗っては?」
少女「ああ、ごめんなさい!私こういうところあるのよね。私の名前はとき!ティムちゃんのお友達よ!」
凛月「…友達ね…」
少女「貴方は?」
凛月「私の名前は凛月。そちらの化け物を保護しに来たのだけど」
少女「化け物、ってティムちゃんのこと?失礼ね。あの子は神の娘よそんな下劣な者と一緒にしないで頂戴」
凛月「へえ、神様って化け物を産むんですね。」
少女「…それ以上は神への侮辱と取るけれども」
凛月「いえいえそんな!感謝してるんですよ。時計塔の場所を教えてくれて」
少女「何が目的なの?」
凛月「目的なんてそんな。私達はただ、人に害を為す人外を『保護』してあげてるだけですよ。私からすると貴方の目的の方が気になりますがね。」
少女「…この街には今後一切近寄らないで頂戴。勿論あの子にもね」
凛月「…いいでしょう。今はそちらに預けておきましょう。ですが、然るべき時が来たその時は、どんな手を使ってでも奪い取ってやる」
少女「…本当、下劣な奴」
凛月「お褒めに預かり光栄です。そろそろ時間ですので私はここで」
少女「早く行って頂戴。もう二度とあの子の瞳に貴方を映らせたくないわ」
凛月「ニコ。では」
凛月上手へ退場
少女下手側を見る
少女「あ!おかえり!」
暗転
閉幕
ナレーター「これで物語は終わりです。【あの時計塔には宝物が眠っている】。時計塔の管理人は【あの時計塔】へ行って宝物を見つけることが出来たのでしょうか?きっと、見つけられたのでしょうね。全部終わってハッピーエンド!の様にはきっといかないのでしょう。ですが、少なくとも今の彼女達は幸せです。例え一時幸福だったとしても、この幸せは、彼女達が前に進む勇気になります。そんな幸せを彼女達は探しあてることが出来たのです。…貴方にとっての宝物とは何ですか?是非、時計塔に行って確かめてみてください」