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第1話

「魔法こそが我らを導き、世界を発展させる唯一無二の力。このアルカノ=レギオス魔導学院で、諸君らがその真髄を学び、社会に貢献する魔導師となることを期待する」


 あー……はいはい、ご立派なことで。


 厳粛なのか荘厳なのか、やたらと重々しい音楽が流れる大講堂。

 新入生たちのキラキラした期待とガチガチの緊張が渦巻く中、俺、如月イオリは最後列の席で、誰にも気づかれずに小さく欠伸を噛み殺す。

 壇上では、いかにも優等生ですって感じの銀髪美少女が、新入生代表として、これまたいかにもな演説をぶちかましている。

 

 エミリア=グラシア、だったか。

 名前までキラキラしてやがる。


 魔法、魔法、魔法。

 聞き飽きたフレーズだ。

 

 このアルカノ=レギオス魔導学院ってのは、その名の通り、魔法こそが絶対正義、魔法使いこそがエリート、みたいな価値観で回ってるらしい。

 魔力測定で入学ランクが決まって、それがそのまま学生の“社会的価値”ってやつに直結するんだと。

 

 くだらねぇ。

 

 どこの世界も、結局は分かりやすい物差しで人を測りたがるもんだ。


 周囲を見渡せば、みんなエミリア様のありがたいお言葉に感動してるのか、目を輝かせたり、神妙な顔で頷いたりしている。

 俺だけだ、こんなクソ退屈そうな顔してるのは。

 

 まあ、いいけど。


 俺がここにいる理由は、魔法の真髄を学ぶためでも、社会に貢献するためでもない。

 ただ、探してる奴がいる。

 それだけだ。

 そのためには、多少目立つことも覚悟の上…って言いたいところだが、本音を言えば死ぬほど面倒くさい。


「……っくぁ」


 また欠伸が出そうになるのを、必死で飲み込む。

 早く終わんねぇかな、このお遊戯会。


 ◇


 入学式が終わると、俺たち新入生はぞろぞろと魔力量測定会場とかいう場所に移動させられた。

 だだっ広いホールの中央には、やたらデカい水晶玉みたいなのが鎮座している。

 魔力測定クリスタル、だそうだ。

 あれに手ぇかざして、魔力量ってやつを測るらしい。


「次!  エミリア=グラシア!」


 名前を呼ばれたさっきの銀髪代表様が、優雅な足取りでクリスタルの前に進み出る。

 軽く手をかざすと、クリスタルが眩いばかりの青白い光を放ち、機械的な音声が響いた。


「ランク判定……S!  魔力量、測定上限値を超過!」


 うおぉぉ、と会場がどよめく。

 Sランクだってよ。

 そりゃ代表にもなるわな。

 本人は涼しい顔で一礼し、さっさと持ち場に戻っていく。

 やっぱ住む世界が違うね。


 その後も次々と名前が呼ばれ、「Aランク!」「Bランク!」と判定結果が告げられていく。

 歓声が上がったり、ため息が漏れたり。

 一喜一憂する同級生たちを眺めながら、俺は壁に寄りかかって順番を待つ。

 どうせ俺には関係ない。


「次!  如月イオリ!」


 呼ばれた。

 めんどくせぇ。

 のっそりとクリスタルの前に進み出る。


「手をかざしてください」


 検査官らしき白衣の男に促され、俺は言われた通り、やる気なさそうに右手をクリスタルにかざす。


 その瞬間。


 ピカァァァッ!


 クリスタルが今まで見たこともないような、異常なほどの強い光を放った。

 赤、青、緑、黄色……あらゆる色が激しく明滅し、まるで発狂したみたいだ。

 同時に、けたたましい警告音がホール全体に鳴り響く!


 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 クリスタルの表面には「測定エラー」という赤い文字が一瞬だけ点滅した。


「な、なんだ!?」

「故障か!?」

「おい、大丈夫なのか!?」


 会場は騒然とし、検査官たちは顔面蒼白になって駆け寄ってくる。


「き、君! もう一度だ! しっかり魔力を意識して!」


 言われた通りにもう一度手をかざす。

 今度はさっきのような派手な光はなく、クリスタルは静まり返っている。

 だが、表示された結果を見て、検査官は絶句した。


「魔力量……ゼロ」


 しーん、とホール全体が静まり返る。

 次の瞬間、抑えきれない失笑が、あちこちから漏れ聞こえてきた。


「ゼロだってよ」

「何かの間違いじゃねぇの?」

「つーか、なんでこんな奴が入学できたんだ?」


 嘲笑と侮蔑。

 分かりやすい反応だ。

 

 俺は「あー、やっぱりか」と小さく呟き、肩をすくめる。

 全く悪びれる様子がない俺の態度が、さらに周りの神経を逆撫でしたらしい。

 クスクス笑いは、やがて遠慮のないあざりに変わっていく。


 俺はさっさとその場を離れ、次の場所へと向かった。

 背中に突き刺さる視線なんて、気にするだけ無駄だ。


 ◇


 割り当てられた教室――高等部一年C組。

 ここでも俺は注目の的だった。

 教室に入るなり、好奇と侮蔑の視線が一斉に俺に集中する。


「あいつが……魔力ゼロの」

「なんであんなのがウチらのクラスに?」

「コネ入学か?」

「場違い感ハンパないな」


 聞こえよがしな陰口。

 ったく、どいつもこいつも。

 俺はそんな視線をガン無視して、自分の席を探す。

 窓際の最後列。

 うん、定位置だな。

 落ち着く。


 ドカッと席に座り、窓の外を眺めていると、隣の席から不意に快活な声がかかった。


「よう! 俺はユウト=カミシロ! よろしくな! お前すげーな、ゼロって!」


 声の主は、太陽みたいに明るい笑顔を浮かべた、人懐っこそうな男子生徒だった。

 見た目は爽やかイケメンって感じで、俺とは正反対のタイプだ。


「別にすごくねぇよ」


 俺は素っ気なく返す。

 馴れ馴れしいやつは苦手だ。


「まあまあ、そう言うなって! 俺は面白いと思ったぜ? この魔法至上主義の学園で、魔力ゼロってロックじゃん!」


 ユウトは全く気にした様子もなく、勝手に話を続ける。

 その真っ直ぐな視線と裏表のなさそうな態度に、まあ、悪い気はしない。


「友達認定ってことでいいか? よろしくな、イオリ!」


 ユウトは勝手に俺の肩をバンバン叩いてくる。

 まあ、こいつとなら、退屈しのぎくらいにはなるかもしれない。


 ◇


 ホームルーム開始のチャイムが鳴り、教室のドアが勢いよく開く。

 入ってきたのは、派手なアロハシャツにサングラスという、教師とは到底思えないチャラい雰囲気の男だった。


「はいはーい、どーもー! 君らの担任になったニコルでーす! 専門は魔法史だけど、ぶっちゃけ座学より実践派なんで、その辺よろしくぅ!」


 軽いノリと口調に、クラスの真面目そうな生徒たちは若干引き気味だ。

 俺は(うわ、こいつも面倒くさそうなタイプだ)と内心でため息をつく。


 ニコル先生は教卓に立つと、サングラスを外し、出席簿をパラパラとめくり始めた。

 そして、俺の名前のところでピタリと指を止める。


「ふーん、如月イオリ……魔力量ゼロ、と。なるほどねぇ」


 データを見ても、他の教師のように驚いたり、侮蔑したりする様子はない。

 ただ、面白そうにニヤリと笑うだけだ。


「ま、数字が全てじゃないっしょ。世の中、理屈じゃ説明できないことなんて、いくらでもあるんだからさ。なんとかなるって、キミなら」


 そう言って、俺に向かってウインクを飛ばしてくる。

 なんだ、こいつ。

 他の教師とは明らかに違う。


 もしかしたら、俺の“力”について何か知っているのか……?

 少しだけ、このチャラい担任に興味が湧いた。


 ◇


 午後はグラウンドでの実技演習。新入生たちは、的に向かって炎の玉を飛ばしたり、水の槍を作り出したりと、基礎魔法の訓練に励んでいる。

 魔力ゼロの俺は当然、見学……のはずだった。


「そこの魔力ゼロ!  おまえも参加しろ!」


 訓練を監督していた、見るからに厳格そうな教官ゴリマッチョが、俺を見つけて怒鳴りつけてきた。


「 俺、魔力ないんですけど」

「口答えは許さん!  魔法が使えぬというのなら、その身をもって魔法の脅威を知るべきだ!」


 有無を言わさず、俺は訓練の輪の中に放り込まれる。

 周囲の生徒たちからは、「おいおい、マジかよ」「教官も容赦ねぇな」と、心配という名の嘲笑が聞こえてくる。


 「はぁ……」


 俺は深いため息をつき、やる気ゼロのオーラを全身から放ちながら、グラウンドの中央に立つ。

 なんで俺がこんな目に……。


「 新入生代表、エミリア=グラシア! 前へ!」


 教官はさらに無茶な指示を出す。


「この無能に、魔法の厳しさというものを、その身をもって教えてやれ!」


 おいおい、マジかよ。

 公開処刑決定じゃねぇか。


 周囲は「おおー! Sランク直々の手解きか!」「これは見ものだな!」「魔力ゼロじゃ一瞬で氷の彫刻だろ」と、完全に野次馬モード。

 ゲスな笑い声も聞こえる。


 エミリアは一瞬、ためらったような表情を見せたが、すぐにキッと顔を引き締め、優雅に一歩前に進み出る。


「教官のご命令とあらば、仕方がありませんわね」


 その声には、わずかながら同情……ではなく、明らかに上から目線のプライドが滲んでいる。


「いや、俺パスするんで……」

「問答無用です!」


 教官に背中を強く押され、俺はエミリアと強制的に対峙させられる羽目になったのだった。


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