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#5 惑星に名前をつけよう

 カラオケルームで友情を誓った日から三ヶ月がたった。制服が半袖から長袖に変わったり、窓の外から見える景色に朱色が混ざったりと見た目の変化を感じる。優太は若い体を利用して自身が学生の頃には叶わなかった青春を楽しんでいた。


 昔の自分より、ずっと楽しい生活が送れていることを考えると、返って桜子には申し訳ない。優太はそんなことを考えながら、当番制になった部室の掃除をしていた。


 天体部の部室は、アキとの大掃除以来綺麗な状態をキープ出来ており、これはアキがリーダーシップを取って会議をし、綺麗に保つ方法を考えててくれたお蔭だ。


 会議と聞くと嫌な思い出が蘇るような気もするが、こうやって綺麗な部室を見ると有効な手段だったと実感する。


「せんぱーい。今日は、新しい星を探しましょうね! そして私たちにふさわしい……」


「おつかれー」


「……お疲れ様です」


 千早、アキ、そして廃部の危機を救った美里が揃って部屋に入ってきた。


「桜子せんぱーい。聞いてくださいよ……なんでこんなにここに来るのが遅かったと思いますか? アキ先輩が道行く女子に差し入れを貰いまくっていたからですよ! なんですか! 文化部の差し入れって! モテすぎるのも考えものですね」


 千早は何やら不満顔で桜子の扱う箒の下にちりとりを置いた。……なんだかんだで、周りをよく見て行動の出来るいい子だと思う。


「いやっ? そんなに、言うほど遅くはないと思うけど……」


「遅いんです! だって、私はHRの終わりから、一目散にここに来たわけですから」


「……そんなに急ぐ必要はないよ」


「でも、桜子先輩の大事な部活に遅れて行くわけには」


「千早は、本当にいい子だね」


「桜子先輩……」


 千早が桜子に抱き着いた。それをアキと美里が引き剥がす。


「ちょっと! 千早ちゃん? 何してるの?」


「そうだよー。桜子先輩に迷惑でしょ!」


「いやっ、私は別に……」


 優太がその場を収めようと口を開いたが、自信に満ちた千早の声でかき消された。


「だって、桜子先輩は優しいから……きっと私の事を受け入れてくれるって信じてるんで」


 ――それはどうだろうか?


「千早、それはちょっと……時期尚早っていうか……」


 美里が諭すように千早に言う。


「私は、桜子先輩の事信じてるんで!」


 ――だから!それはどういう意味だ!?


「いや、だからね? 千早は、なんか……桜子に対して、ねっとりしてるっていうか……」


 アキは何か言いたげだが言葉に出来ないようだ。美里は何故か嬉しそうに千早と桜子、アキのやり取りをノートに記している。


「……何してんの?」


 アキが冷たい視線を美里に送ると、ふぅ……と息をついた。


「先輩。話しかけないで下さい。私は壁なので」


「は?」


「いや、だって。千早が桜子先輩に抱き着くのを止める構図! 美しいじゃないですか! アキ先輩は……これはもう桜子先輩のこと好きってことですよね? 私はそこの美しい物語に入らず壁になりたい……」


 アキは呆れた様子で美里を見ているが、美里は気にしていないようで、たくましい妄想をまくしたてている。


「もしかして……先輩も壁になりたいんですか?」


「……遠慮しとくよ。私は、別に壁になりたいんじゃないんでね」


「そうですよね。やっぱりこの物語にはアキ先輩も必要ですので……で、話は変わるんですけど、これ見て下さい」


 美里は鞄からチラシを取り出すと、優太に見せる。


「『太陽系外惑星命名キャンペーン』?」


 優太がチラシを読むと、美里は満足そうに頷いた。


「そうですよ。部活名に相応しいと思いませんか? 最近、この部活はダラダラし過ぎです! だって、今日の日までにこの部屋でやった事と言えば、ですよ! 宿題やってダラダラ、漫画読んでダラダラですよ! 足りていないと思います! 若さとやる気が!」


 元々運動部だっただけある美里のごもっともな発言に三人は、うー……と唸り声を上げた。


「確かに……美里の言う通りだね」


 アキが美里から手渡されチラシをホワイトボードに貼り付ける。それぞれ手近にあった椅子に座り計画を皆で練り始めた。


「えっと……期限は……十月の二十五日……って再来週じゃん!」


「まぁまぁ……私だって、大真面目に命名権を狙っている訳じゃあないんですよ。それらしい活動の一歩になればって。先ずは動画審査だから、皆で動画創るのも楽しそうだなぁって……」


 アキは赤字で期限を大きくボードに書いて、その横に応募条件を書きながら、小さな声ではっきりと呟いた。


「やるからには、絶対に勝ち取る!」


 その言葉に優太を含めた全員が一致団結したのを感じた。


「先ず、最初にやるべきは決められたこの惑星を調べる所からだよね。明日までに各自調べてくるように。やっぱり勝ちに行きたいとは言ったけど、美里の言う通り思い出作り的な感じも欲しいよね。……皆で惑星を見に行くってのはどう? 折角高そうな望遠鏡もあることだし」


 優太は学生的な催しに懐かしさを感じて思わず笑みがこぼれた。


「惑星の名前かぁ……」


 美里は頬杖をつきながら、スマホの画面をスクロールしている。アキはホワイトボードマーカーを握るのを辞めて部室にあった、分厚い天文学の書籍を広げだした。千早は、桜子にべったりとくっつき、好きな星の名前を囁いている。


「ねぇ、桜子先輩。惑星って実際に見たら綺麗なんですかね? 私宇宙柄とかって結構好きですけど……何だかロマンチックで」


「私も、ギャラクシー柄好きだな……何か……懐かしい思い出があるような……」


 優太がぼんやりとしながら発した言葉に千早は嬉しそうに頬を赤らめた。桜子に近づき、熱っぽく見つめる。


「桜子先輩……。思い出してくれましたか? 二人でプラネタリウムを見に行ったこと……最初にアキ先輩に言った私たちの関係。ちょっぴり冗談もあったけど、デートをしてたことは本当だったんですよ。もしかしたら桜子先輩は遊んでただけかもですけど……全部忘れちゃったんですか? 寂しいです」


「千早……」


 優太は困惑しながら千早を見つめた。千早の真剣な眼差しに、冗談で返すことができなかった。


「……また、新しい思い出を作ろうよ」


 優太がそう答えると、千早は目を輝かせ、桜子の手を握った。


「そうですね! まずは、遠征合宿だ!」


 千早の無邪気な笑顔に、優太は安堵の息をついた。


「候補とかある?」


 優太がそう問いかけると、アキと美里はうーん……と首を捻った。千早は得意げに胸を張って手を挙げている。


「千早はいい所知ってるの?」


 アキの声に千早は元気に呼応した。


「はい! 実は、私、秘密の場所を知っているんです。そこは、星がすごく綺麗に見える場所で、私たちだけの特別な場所になるはずです!」


「私たちだけの特別な場所……? えっと……美里。私たちのことを置いてけぼりにするつもりみたいよあの子」


 呆れ顔のアキに美里は先程のノートをチラリと見せる。


「やっぱり先輩も壁になりますか?」


 ゴホン! とアキは咳き込んで「それは、ともかくとして」と話を切り出した。


「まぁ、場所はいい所だと思う! 他に案がある人がいないなら、ここに決めていい?」


 そう言うと、優太と美里も賛同し、遠征先が決定した。


「星空の下で、みんなで語り合いたいな」


「天体観測には最高の場所ですね。命名のきっかけになるような発見があると良いですね」


「それじゃあ、遠征合宿の準備をしようか。日程はいつにする?」


 優太がそう問いかけると、千早は手帳を開いた。


「えっと……。来週末の土日がちょうどいいですね。日曜日が満月なので明るくて丁度いいと思います」


「来週末か。いいね。それまでに、必要なものを準備しておこう」


 優太がそう言うと、部員たちは頷いた。


「必要なもの、か。そうだなぁ……。望遠鏡は必須だよね。あと、防寒具や食料も必要だ」


 アキがそう言うと、美里はメモを取り始めた。


「防寒具は、山の麓でレンタル出来ますよ。食料は、みんなで分担して持ち寄ることにしましょう」


「それじゃあ、私は望遠鏡の準備をしておくね。あと、星空観測アプリもダウンロードしておこう」


 優太がそう言うと、千早は嬉しそうに手を挙げた。


「私は、お菓子を持って行きます! 星空の下で、みんなで美味しいお菓子を食べましょう!」


「いいね。それじゃあ、準備万端だ。来週末が楽しみだね」


 部員たちは笑顔で頷いた。


「はい! 最高の遠征合宿にしましょう!」


 千早の声掛けに全員がオー! と声を掛け合う。久しぶりのワクワクに優太は胸を躍らせていた。


 ――こんな日が続くのも悪くないなぁ……


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